表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/82

閑話2-『ある魔法使いの屈折』

「……僕は、この世界の外側から来たんだよ」


 それを聞いた時、私は自分の心臓が跳ねるのを感じていた。


 カナタが?

 世界の外側から?


「……そりゃ、どういうことなんだよ」


 私の疑問を、アキレアが代弁してくれた。カナタは少しだけ迷ったように俯いてから、戸惑いつつも口を開く。


「そうだな……なんて言ったらいいんだろう。エーデル、前に話したハナブサのこと、覚えてるか?」


 ハナブサ? と首を傾げる私とは正反対に、姫様はしっかりと頷いていた。


「ああ、知っている。確か、お前の友人の少女……とか言っていたか」


 友人。

 少女。

 その響きが、何故だか、私の頭の芯を麻痺させていく。


「そう。そうだな。僕は、そのハナブサを助けようとして、この世界にやってきたんだ」

「それは、ハナブサがこの世界に来てしまったのを知って、追ってきたということか?」


 カナタは、そこで首を振った。


 心なしか、彼の顔色が青褪めているような気がした。話したくないのなら、話すのが辛いような内容なら、わざわざ話さなくていい。


 むしろ、話さないでほしい。

 そう、思えてしまうような。


「ハナブサは、飛び降りをしたんだ」


 彼はそれでも、言葉を止めない。

 自分を切り刻みながらも、黙ることができない。


「ガッコウ……高い建物から、身を投げたんだ。僕はそれを止めようとして、一緒に――」

「……なら、なんでお前は今ここで、ピンピンしてるんだよ」


 アキレアが口を挟む。


 私も、それを聞きたかった。聞きたいことが沢山あった。なのに、一つも言葉の形になってくれない。


 言語未満の音の塊が、いくつも喉の奥で潰れていた。


「それは……わからない。でも、気が付いたらここにいたんだ。いつの間にか、皆の船の船室に」

「ふむ」姫様は、腕を組んで考え込むようにしながら。「死に近付いたのが理由かもしれんな。信じがたい話だが、命を落とすかの瀬戸際に立たされた時、たまたまお前の存在が、こちら側の世界に滑り込んできてしまった」

「って、言ったってよ、そんなことあり得るのかよ?」

「少なくとも、今は『無い』と断言することができない。現に、ここに一人、別の世界から来たという人間がいるのだからな」


 姫様は事も無げに言う。


 いつでも、この人はそうだ。国が滅ぶと聞かされた時も、取り乱すこともなく、ただただ最良の道を探し続けていた。


 私は、この人のようにはなれない。


 カナタがこの世の存在ではないことも。命を投げ出せるほどの間柄の女性がいることも。何一つとして、受け入れられていない。


 なのに、どうして。


「カナタ、恐らくはお前の未来視というのも、その辺りに関係しているのだろう。お前にとって、私たちは――」

「……そうだな、物語の登場人物、みたいな感じだ。だから、僕には予め、起こることがわかっていた」

「へっ、その言い訳が未来視、ってか。上手いこと考えたじゃねえか」


 どうして、皆はそんなに簡単に受け入れられるのだろう。


 カナタがこの世のものでないなんて。

 そんなこと、あってほしくないのに。


「なるほどな、まあ、概ね話はわかった。その上でひとつ、聞かせてくれ」


 姫様はそこで、カナタに向かって一歩、距離を詰めた。もはや何も挟む余地がないほどに縮まった二人の距離に、言いたいことすらも出てこなくて。


「カナタ。お前は、旅が終わったら元の世界に――戻るのか?」


 どくん。

 再び、心臓が大きく脈打つ。


 血液が速度を増して、思わず目眩がしそうなほどだ。


 元の世界に、戻る?

 それはつまり、彼はこの世から――。


「……ぶっちゃけさ、元の世界ではあんまり良いこと、なかったんだ。自分は何になれるのかって、ずっと悩んでてさ」


 カナタはそう、寂しそうに吐き捨てた。私はその雰囲気に、思わず安堵してしまう。


 良いことがないのなら。

 戻りたくないのなら。

 彼はずっと、こちらの世界に――。


「――でも、帰らなきゃいけないんだろうな。姉ちゃんも心配するし、何より……」


 もう、その先の言葉は、まともに聞き取れさえしなかった。


 旅が終われば、カナタはいなくなってしまう。


 そんなのは、嫌だ。

 そんなのは、認められない。

 だって、私は、あなたのことが――。



 ――魔法使いの声は、届かない。

 本当に届いてほしいところに、届かない――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ