表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/82

三章『青の島』-18

 次に目を覚ました時に、僕は宿屋のベッドの中にいた。


「あ、気が付きましたか」枕元で本を捲っていたモネが、声をかけてくる。「おはようございます、お体の具合はいかがでしょうか?」


 ゆっくりと体を起こせば、あちこちがひどく痛んだ。聖剣の熱は錯覚だったとしても、そもそもあの大蛇に全身を痛めつけられていたのだ。


 それでも、寝ていなければいけないほどではない。僕は息を整えてから、モネに問いかける。


「あ、ああ、なんとかな……あの後、どうなったんだ?」


 見れば、彼女の体にもあちこちに包帯が巻いてある。きっと、僕たちを逃がした後に傷を負ったのだろう。


 それに、エーデル。彼女も重傷だったはずだし、なにより、アキレアは――。


「ええ、順番に説明しますよ」


 彼女は椅子から立ち上がると、水差しを取りに行きながら、口を開く。


「あの後、二人を送り出してから、十分と少し経った頃でしょうか。突然、雨雲が晴れたんです。そして、傷だらけの姫様が、意識を失くしたカナタさんを連れて洞窟から出てきました」


 僕は手のひらに目を落とす。

 そう、僕は聖剣を振るった。


 その代償は決して安くなく、あまりの痛苦に僕は意識を失ってしまったのだろう。


「エーデルは、どうなったんだ?」僕は尋ねる。

「ええ、姫様は大丈夫。傷こそ浅くはありませんでしたが、今はもう、元気に起き上がって――」


 と、そこまで話したところで、勢いよく扉が開いた。


「がはははは! 今帰ったぜ、いやあ、この島の魚は新鮮でよ……」

「だからといって買いすぎだ、まったく……」


 そう口にしながら部屋に入ってきたエーデルとアキレアは、僕が目覚めているのを見つけると、ドタドタとベッドに駆け寄ってきた。


「おい、カナタ! お前、目が覚めたのかよ!」

「そうだ、心配してたんだぞ。聖剣を振るうなんて無茶するから……」


 ごめんごめん、と返しながら、僕は二人の様子を観察した。


 エーデルもモネと同じようにあちこちに包帯を巻いていたが、動きを見る限りではそこまで重篤な怪我ではなかったようだ。


 それに、何より。

 僕はアキレアに視線を向けながら、ニヤリと口元を歪めた。


「……どうだよ、賭けには勝てたのか?」


 アキレアは、そこに立っている。

 今までと変わらぬ様子で、旅の一員として、ここにいる。


 僕の言葉に、彼は拳を突き出しながら、歯を見せて豪快に笑う。


「おう、おかげさまでな。ヒョロヒョロのモヤシが、やるじゃねえか」

「こっちも、おっさんに無理させなくて済んで何よりだ」


 こんな軽口も、叩けないかもしれない可能性があったのだ。そう考えれば、何だか感慨深い。


 と、そこで彼らが沢山の荷物を持っていることに気が付く。食料、数日分の着替えや飲み水、生活必需品――。


 買い出しに行ってきたということは、出港が近いのだろうか。


「……あー、それでだな、カナタ。目覚めてすぐで悪いのだが、すぐに出港の準備をしなければならないんだ」


 僕がそう考えたのが顔に出ていたのか、エーデルが珍しく歯切れ悪く口にする。


「着地として、何もかもが丸く収まったのは良かったんだが、やはり勝手に龍と戦ったのはまずかったようでな。お前の目が覚めたら、すぐに島を出ろと言われてしまったんだ」

「なんだよ、そりゃ。僕たちは降り続く雨を止めた、英雄サマじゃないのかよ」


 そう言って、窓から外に目をやる。広がっているのは雲一つ無い青空。からりとした太陽が、僕たちを見下ろしている。


 しかし、そこでエーデルは首を振った。


「英雄などと自惚れるのはよくない。結果として雨は止められたが、龍と戦っていた際の余波で家を流されてしまった者もいる。彼らの怒りも、もっともだ」


 正直、承服しかねる内容ではあった。


 窓の外を見るに、『青の島』は元の、水と共存する美しい町並みを取り戻そうとしつつある。増水を止めた川は嘘のように落ち着き、恐ろしかった濁流は、まるでガラス細工のように澄んでいる。


 僕の読んだ『青の島』の物語よりも、よっぽど良い終わりを用意できたというのに、という気持ちが無いわけではない。


 それでも。


「……まあ、エーデルがいいって言うなら、いいんじゃないのか?」


 自分でも不貞腐れているとわかるような声色で口にして、僕はベッドから立ち上がる。同時にあちこちが痛んだが、これも名誉の負傷だと思うことにしよう。


 身支度を整え、宿を後にする。元より、荷物などほとんど無いため、そこまで時間を要しなかった。


 宿屋の玄関には、クチナシが立っていた。何を言うでもなく、じっとこちらを見つめる視線に、単なる憎しみや嫌悪感だけではなく、罪悪感に近いものも感じられたのは気のせいだろうか。


 青空の下に繰り出せば、すぐに強い陽光が肌を焼いた。ランタン諸島は今日も快晴。良い旅立ちになりそうだった。


「よし、皆、忘れ物は無いな。この島には戻れんだろう、取りに来ることはできないからな」


 それは厳しい口調だったものの、エーデルなりの冗談だったのだろう。僕らはそれぞれが顔を見合わせて、笑いながら頷いた。


 ――と、そこで、あることに気が付く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ