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三章『青の島』-2

 エーデルひめたちは みっつめのしまをおとずれました


 そこは あめのふりつづく あおのしまでした


 あおのしまは みずのみやこでしたが いつまでもやまないあめに こまりきっていました


 このしまにすむ りゅうのかみさまがおこり やまないあめをふらせていたのです


 あめをとめるために エーデルひめたちは やまのちょうじょうにあるしんでんで りゅうのかみさまにいどみます


 しかし りゅうはつよく エーデルひめのけんも モネのまほうもききません


「このままでは まけてしまう」


 そうしんぱいするひめさまに せんしアキレアはいうのでした 


「おれにまかせてくれ ひめさま」


 そういったアキレアは なんと ひとりでりゅうのかみさまとたたかいました


 そのたたかいのせいか あめははげしさをまし あおのしまのひとびとは すべてをながされてしまうほどでした


 たたかいは みっかみばんつづきました 


 そのすえ せんしアキレアは りゅうのかみさまをたおすことができました


 しかし そのときにおおきなけがをおってしまいます 


 これでは たびがつづけられません


「ひめさま おれをおいて いってくれ」


 エーデルひめはなみだながらに アキレアとわかれました


 りゅうがいなくなり みずがかれてしまったしまには ひとびとのくるしむこえがみちはじめていました


 それでも ひめさまはとまるわけにはいきません


 わかれのなみだをこらえて つぎのしまにむかうのでした――。



 ***


 

「……そう、確か、そんな話だ」


 『黄の島』を出港した翌日。

 僕は水平の先を眺めながら、ぼんやりと思索に耽っていた。


 水面に跳ね返った陽光が、キラキラと輝いては目に焼き付いていく。その残光を弄びつつ、焦る心をどうにか落ち着かせていく。 


 『青の島』。

 次に僕たちが上陸するそこで、アキレアは旅を終えることになる。


 原因は、『遺物』を持った龍との激闘。それによって彼は、戦えない体になってしまうのだ。


「……く、そっ」


 僕は苛立ちに、思わず船の縁を叩いてしまう。そんなことをしても答えは出ないと、拳の痛みが告げてくるかのようだった。


 正直なところを言えば、僕はアキレアのことが好きではなかった。


 話は聞かないし、乱暴だし、頭は硬いし、そのくせ自分には甘く、声もでかい。絵本で見た大戦士のそれとは、似ても似つかないようなオッサンだった。


 ……だけど、この旅には必要な人間だ。


 年長者として、エーデルやモネ、それに僕のことだってよく見ているし、真っ先に体も張ってくれる。


 そして何より、僕は。

 彼の背中に、子供の頃に見た英雄の面影を見てしまっている。


 どうにか、運命を変えることはできないだろうか?

 『赤の島』でも『黄の島』でも、僕らはは物語の展開を書き換えることができた。


 ならば、今回もどうにかすれば彼を救い、ここから先の旅も一緒に行くことができるのではないだろうか――?


「……カナタさん、どうしたんですか?」


 唐突に、背後から声をかけられる。


 振り返れば、そこにはモネが立っていた。彼女は手に水筒を持ったまま、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。


「す、すみません、ずっと甲板にいるようだったので……今日も日差しが強いですし、少しは船室で休んだほうがいいんじゃないかって」

「ああ、悪い……ちょっと、考え事をしていたんだ」

「考え事、ですか?」


 首を傾げるモネから、水筒を受け取る。

 中に入っている透明な水を手酌(てじゃく)で注いで、飲み干してから、僕は答えた。


「……次の島に向かうまでに、考えておかなきゃいけないことがあるんだ」

「次の島……『青の島』、ですか。何か、ご存知なんですか?」

「知っている……というか、なんというか。まあ、またちょっと、未来が見えてさ」


 僕は適当に濁した。この『未来が見える』という設定も、そろそろ言い訳に使うのが厳しくなってきたように思える。


 しかし、モネはそれ以上の追及はしてこなかった。ただ、気遣うような声色で続ける。


「……未来、何か、嫌なものが見えた、とか?」

「まあ、そんなとこさ。先のことなんて、知ってたっていいことばかりじゃない」


 いくら、次の展開がわかったとしても、それを上手く捻じ曲げるだけの何かが、僕には無いのだ。


 祖父の紡いだ物語。

 どうしてあの人は、こんな展開を用意したのだろうか。


 離別は、悲しいことだ。

 挫折も、きっと苦しいことだ。


 なのに、どうしてそんなものを、生み出した登場人物に与えようとしたのだろうか――?


「……それでも、カナタさんは止まらないのでしょう?」


 モネは、そんな僕の横顔を見つめながら。


「あなたは、諦めなかったじゃないですか。空っぽだって自嘲しながら、自分の弱さを受け入れて、ここまで歩いてきた」

「惰性でやってきただけだ。そうしなければいけなかったから、必要に駆られて……って感じだったし」


 そこで、彼女はクスクスと笑った。

 僕は思わず当惑する。何か、変なことでも言っただろうか?


「いえ、ごめんなさい。カナタさん、意外と嘘が下手なんだなって」

「……嘘?」僕はわざとらしく首を傾げた。「そんなの、吐いているつもりはないけど」

「いいえ、嘘です。だって、流されるままに戦っていた人が、あんな勇敢に身を投げ出せるわけないじゃないですか」


 勇敢に身を投げ出す?

 少しだけ考えて、ああ、と納得した。『黄の島』の廃坑での話をしているのだろう。


 あれは、なんというか、気の迷いみたいなものだ。その場のヒロイックな空気に浮かされて、無謀なことをしてしまった。


「いや、待て待て、あれは――」


 僕が、弁解をしようと手を突き出した、その瞬間だった。


「――おい! お前ら、いつまでそんなところでイチャイチャしてんだよ!」


 船首の方から、粗暴な声が響いてくる。


 見れば、見張りをしていたアキレアが大股で近づいてくるところだった。彼は、ビシッと船の前方を指差すと、過剰なくらいに大きく声を張る。


「見やがれ、もう、次の島がすぐそこに見えてきてんだよ。カナタは接岸の準備、モネは、姫様に伝えてきて下船の準備だ。早くしろよ!」


 やれやれ、と肩を竦める。こっちは、お前を助けるために頭を捻っていたというのに。酷い言いようだ。


 横合いに視線を向ければ、モネと目が合った。言いたいことはきっと、お互いに違ったのだろうが、すぐに笑みが弾ける。


 そのまま、船を停める準備に取り掛かろうと思ったが、そこでふと、ひとつだけ気になることがあった。


「なあ、モネ、そういえばさ」船室に向かって歩き出していた彼女を引き留める。


 モネは不思議そうに、僕の方に振り返った。それに、僕も半身で後ろを向きながら、問いかける。


「なんか、前に話した時よりも、堂々と話せるようになってないか?」


 それを聞いた彼女は、にわかに驚いたような表情を見せた。


 けれど、それをすぐに、エナン帽のつばで覆い隠し、背を向けながら言うのだった。


「……き、気の所為ですよ、きっと」

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