閑話1-『ある魔法使いの独白』
「な、なあ、あんた。ここは、どこで――」
最初の印象は、最悪だった。
変わった服を着た細身の彼は、たぶん私や姫様と同じくらいの歳回りだ。野盗にしては小綺麗だったし、船乗りにしては頼りない……そんな風に感じたのを覚えている。
アキレアはすぐに彼をつまみ出そうとしたけれど、姫様は、ひとまず連れて行くことにした。
『赤の島』に上陸するまで、そのつもりだった。
彼は得体が知れなかったし、私もアキレアも、常に意識を配ってなきゃいけなかった。
……正直、早くいなくなってくれたらいいのにと思っていた。
「……なあ、その、モネって言ったっけ」
「……かもな。だけど、一か八か、上手く行けば可能性はゼロじゃない」
「――僕がやる」
なのに、彼は。
彼は、大きなことをやり遂げてしまった。
魔法が使えるわけでもないのに。
力が強いわけでもないのに。
剣が振るえるわけでもないのに。
彼は、自分の価値を証明してしまった。
だから、私は思わず、聞いてみたくなった。
「カナタさんは、どうして私たちの旅に、ついて来ようと思ったんですか……?」
私の質問に、彼は困ったように目を伏せた。
それでも、聞いてみたかった。彼も気がついていないであろう、その力の根源がどこにあるのか、教えてほしかった。
「僕は、たぶん、まだ、その答えを見つけられていないんだと思う」
返ってきた言葉は、これだった。
どこか自信なさげに、それでも、確かに口にする彼を見て、私にもようやくわかったような気がした。
「……カナタさん、あなたは――」
あなたは。
私の一番欲しいものを、持っている。
「……見ててくれよ、僕が成すことってのをさ」
そして、その予感は、黄金色の光の中で確信に変わっていった。
傷ついても。
無力でも。
恐ろしくても。
彼は立ち上がった。
立ち上がって、立ち向かい続けた。
そして、それが、奇跡を起こした。
「……ま、ほう?」
私は呟く。信じられなかったから。
彼には魔法を使える素養なんて全く無いのに。
意志の力だけで、その前提を捻じ曲げてみせた。
……勿論、彼の魔法は、決して優れたものではなかった。魔法使いなら誰でも、最初に習う物を動かす魔法だ。
なのに、私にはそれが、とても尊い物に思えた。
「――アキレア、貴様飲み過ぎ……」
「――は!? 僕も巻き込まれるのか……」
「――姫様ぁ、もう勘弁してくれよ……」
甲板の方から、賑やかなやり取りが聞こえてくる。
私はそれを、船室の寝台で聞いていた。
姫様もアキレアも、もうすっかりカナタを認めている。彼はもう、私たちの旅に欠かせない仲間になったのだろう。
……なら、私はどうだろう。
カナタに抱いている、この感情は……?
「……憧れ? 違う、もっと……」
呟いてみても、答えは出ないから。
私は窓の外に浮かぶ、双つのお月様に目を向ける。きっと、夜に浮かぶ目玉のようなそれは、私の弱さも見抜いているのだろう。
この感情に、名前をつけないのも。
きっと、私が傷付きたくないからなのだろう――。




