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二章『黄の島』-3

 黄の島。


 面積の半分以上が砂漠だった赤の島と、広さは変わらぬものの、島のほとんど全域が住民たちの居住区や畑になっているため、人口は倍近く違うようだ。


 何よりも特筆するべきは、島の地下にある巨大な金脈だろう。


 金鉱から掘り出される金の量は正しく無尽蔵であり、それを後ろ盾にしたこの島の住人は、ランタン諸島でも随一の豊かな暮らしをしているという。


 そして、実際に島に降り立ってみれば、その前評判に違わぬ豪奢(ごうしゃ)な街並みが、僕たちを迎えてくれた。


「なんというか、これは、すごいな」


 エーデルは辺りを見渡しながら、ぼそりと呟く。


 王族であるはずの彼女すらも驚きを隠さずに目を丸くしている。とはいえ、無理もない。町並みはまるで、ファンタジー漫画に出てくる城塞都市のようだった。それに加え、壁には輝く金箔が貼り付けられている。


 正しく、黄金の町。陽光を照り返し、キラキラと輝いている。


「こりゃあ、うちの国の城下町よか立派だぜ。何をどうしたら、こんな成金趣味の拵えになるんだか」

「そうだな……見ろよあれ、食べ物にまで金箔を載せてるぞ……」


 元の世界でもそういう食べ物やパフォーマンスを見たことはあるが、流石にこの島は過剰であると言わざるを得ない。


 視界の全てが、手に取るもの全てが、ギラギラと下品に輝いているのだ。


「ケッ、俺は好きじゃねえな。金ピカなのは構わねえが、目が痛くて仕方ねえ!」


 そう吐き捨てるアキレアの様子とは裏腹に、黃の島の港は賑わっていた。


 黄金。それには、人を惹きつける魅力があるとでも言うのだろうか。あちこちで、宝飾品やインゴットの買い付けを行う姿が見受けられる。


「これだけ人が多いとなれば、『遺物』の情報を入手するのも一苦労だな」


 険しい顔をしたエーデルが、通りを歩く人々を目で追う。確かに、隠し場所を探すのは簡単ではないだろう。


 しかし、そこでアキレアは自信満々に歯を剥き出して笑った。


「がはは、でもよ、姫様。その辺りはほら、俺たちにゃ心強い味方がついてんじゃねえか」


 と、そこで視線が僕の方に向けられる。


 ……心強い味方というのは、僕のことか。確かに、前の島で『遺物』の在処がわかるとか、未来が見えるだとかという話をした覚えが――いや、確実にした記憶がある。


 僕は、この世界、つまり絵本を最後まで読破している。

 本来であれば、『遺物』の隠し場所などは簡単にわかるはずだ――しかし。


「……すまん、今回は全然、わからないんだ」


 素直に頭を下げる。嘘を吐いたり、誤魔化したりしても仕方がない。


 当然というか、予想できた流れとして、アキレアは目を剥いた。そして、僕に詰め寄ってくる。


「はあ!? おい、お前、まさか未来が見えるってのは、嘘だったってのかよ?」

「嘘じゃないさ、でも、僕だって何もかもが完全にわかっているわけじゃないんだ」


 そう、黄の島の物語は、非常に曖昧なものだったのだ。


 この島の『遺物』を持った何者か――それが石造りの建物のようなところに潜んでいることしか、僕にはわからない。


 いや、正確に言えば、もう少し手がかりはあるのだが、場所をズバリで言い当てられるような情報は、あの絵本からは拾えなかったのだ。


「ふむ、そうか」エーデルは顎に手を当てながら。「完全に、ということは、断片的な情報ならあるのだな?」


 僕は頷く。なにせ、物語の中で、正史のエーデルたちが答えに辿り着いたルートを、僕は知っているのだ。


 つまり、その通りに進めば、いずれは『遺物』を見つけることができる。赤の島のようにスピード解決とはいかないが、それが本来の方法なのだ。


「ふむ、ならば、今は急かしても仕方がないな。だが、手がかりがあるというのなら話してくれ、どんなに些細なことでも構わん」

「ああ、だけど、とりあえず今は普通に情報を集めたほうがいいと思うぞ。何せ、僕らはこの島のことを、何も知らないんだからな」


 僕だけが先の展開をわかっていても仕方がない。


 結局のところ、彼女らの力を借りて進んでいくしかないのだ。ならば、可能な限り足踏みを揃えていくべきだろう。


「はあ、なんだよ。結局、地道にやるしかねえってのか?」


 うんざり、といった様子でアキレアは肩を竦めた。


「そう腐るな。いい機会だ、赤の島ではそんな余裕がなかったからな。情報収集がてら、少し自由散策の時間を設けよう」


 そうしてエーデルは首を巡らせて、すぐ横合いに、小さな食堂のような店を見つけ、それを僕らに指し示した。


「そうだな……日没までに、あの店に集まることにしよう。くれぐれも、羽目を外しすぎないようにな」


 へいへい、と生返事を打ったアキレアは、そのまま人混みに向かって歩き出した。


「そしたら、俺ぁ剣を見てもらいに鍛冶屋に行ってくるぜ。こないだの戦いで、ずいぶん傷んじまったみたいだからな」

「なら、私も行こうか。砂漠での戦いは、かなり武具に悪かった」


 そうして、二人は去っていった。


 となれば、残された僕はどうしようか。その後を着いていくのであれば、せっかくの自由散策の甲斐もないだろう。


 なら、折角だ。この絵本の世界というのを、楽しんでみても悪くはないかもしれない。そんなふうに考えて、振り返ったところで。


「……あの、どうしましょう、か」


 困ったように目を泳がせる、モネと目が合ったのだった。



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