二章『黄の島』-1
人には向き不向きがある。
それは人間が個性を持った存在である以上、どうしても発生しうる個体差であるし、根性論でどうなるものでもない。
鳥は泳ぐのに向かない。
魚は飛ぶのに向かない。
「そして、人は生きるのに向いていないんだよ」
英瑛梨香は、そんな形に僕の屁理屈を捻じ曲げた。
「生きるのに向いてないって、なんだよそれ」
僕は呆れたような口調になっていたと思う。実際、ある程度彼女の言葉を噛み砕くのを、諦めていた節もあった。
彼女はよく、僕をこんな風にからかうのだ。禅問答めいた言葉は、まるで解のない方程式だ。
解けないのを知っていて、その過程を楽しもうとしている彼女は、もしかすると、酷く悪辣なのかもしれなかった。
「そのままの意味だよ、人間は明らかに、この世界で生きるのに向いていない」
「そのままの意味なら尚更わからないっての。生きづらいとか、そういう話じゃなくてか?」
「ううん、それだと半分以下。正確には、私たちだけが生きるということに疑問を抱いてしまう生き物だから、かな」
「……傲慢だな。我思う、ゆえに我死せり、とでも言うのかよ」
そこで、彼女は酷く楽しそうに口角を上げた。何が彼女からそんな感情を引き出すのか、僕にはわからない。
「違うね、死を想う、ゆえに君は死せり、ってところかな?」
彼女はニヤニヤとふざけた笑みを浮かべている。相も変わらず、どこを見ているかわからない、その暗い目元は、それでも、しっかりと僕に向けられていた。
「……たぶん、わかると思うよ。いつか、きっと」
その言葉の意味を、僕が知ることになるのは、ずっとずっと後の話。
彼女がイジメを受けていたと、そう、知ったその時まで――僕は、彼女の話を理解することが、できなかったのだ。




