第三章: シア様
数日の間は公園で野宿の生活にございました。
勿論、ミサは外で眠る事に慣れておりましたので
苦になることなどありませんでした。
兄様は物の怪伐採のお仕事に就かれ
朝起きるとお出掛けになり
夜遅く、ミサが眠りにつく頃お帰りになられました。
この間のように迷い子になっては困ると
ミサは一日の大半を公園で過ごしておりましたが
飽きるという事はございませんでした。
無論、兄様がお留守の間は寂しい思いをしていましたが
周りは奇妙奇天烈なものばかり。
その中でもミサを一番に楽しませてくれたのが
帽子の中から鳩を出したり、トランプという名の札を
自由自在に操る不思議な術を使うお方でした。
(後でその術がマジック又は奇術と呼ばれるものだと知るのですが・・・)
ミサは公園のベンチに座り
その様子を眺めているのが好きにございました。
またある時は、公園内で争う人々もお見受けできました。
争い事は御仏の教えに反するので
ミサとしてはあまり見ていて気分のよろしいものではございませんでした。
小さな童までが戦いをしている姿は
なんとも痛々しく感じたのでございますが
戦いに挑むその顔つきは
凛々しくも逞しい、
そして、新たな挑戦に期待で胸を膨らませているかのようでもございました。
兄様がお休みの日
ミサと兄様は都心部へお出掛けにいきました。
綺麗な西洋のお召し物を纏っている方々の中を
ボロボロに着古した着物の兄様とこれまた着古した巫女服のミサが歩くのは
さぞやお見苦しい光景にございましたでしょう。
(ミサも兄様もそのような事などこれっぽっちも気にしませぬが)
そして、またミサは迷い子になってしまうのでございまする。
ミサ自身も自覚しておりまするが
なんともドジな娘なのでございまする・・・。
心細さで兄を呼びながら泣いていると
空から何かが降ってまいりました。
不思議に思い目を開けるとそこには
羽のついたミサと同い年くらいの童が
不思議そうにミサを見ていたのでございます。
「どうして泣いてるの?」
あっけらかんとしていて掴みどころがないその童は
こちらをじっと見ながら首を傾げておりました。
ミサは羽のついた童を見るのは
(と、いうよりも羽のついた人の子を見ること自体)
生まれて初めてにございましたので
驚きに涙すら引っ込んでしまっておりました。
口をあんぐり開けてポカーンとしていると
「キミ、名前は?」
と、続けてミサに問いかけるのでございました。
「私はフォルテシア、面倒だからシアって呼んでね」
自己紹介までされてしまえば
ミサとて名乗らなければならぬと咄嗟に考えました。
同い年くらいの童でございましたし、
なんとなく、それに答えてみたのです。
「み、巫女見習いのミサと申しまする・・・。
兄様がいなくなってしまったので・・・探しておりまする・・・」
潤む瞳を必死で堪え、そう言うのがやっとでございました。
シア様なる童はさほど表情を変えるわけでもなく
ミサを見ておられました。
「あ、もしかして迷子?じゃ、私と一緒だ。」
「ほぇ・・・・シア様も迷子にございまするか・・・?」
「うん、魔王様とはぐれちゃったんだ。」
魔王たるものが何か分からぬまま
ミサはとにかくシア様も迷子なのだという事を悟りました。
兄様が見つからなければミサも一緒に・・・
などと考えているうちにシア様はミサの手をとり
スタスタと歩き出しました。
「一緒に探そう?」
その日シア様とミサは一日中街の中を歩きました。
その間シア様は色んな事を教えてくれました。
『魔王様』がとてもお優しい方であること、
この街の名が「ファンタジアーナ」ということ、
そして一緒に泣けば辛さも半減するということも。
ミサは無事兄様と合流することが出来ましたが
シア様は・・・
ミサは今でも信じておりまする。
シア様は必ず魔王様と遭遇出来たということを。
(´・ω・)ん?