第一章: ミサと兄様
「兄様あぁぁ!兄様あぁぁああ!起きてくださいましっ!
お仕事の時間にございまする!」
「・・・・ぅぉお~・・・まだ寝かせてくれ・・・あと10分・・・・・」
そう言って猫のようにお布団に包まり背中を丸める兄様。
そしてそのお布団を引っ剥がすのがミサの役目にございます。
これは粗毎日の日課でございまして・・・
「なぁぁああにを呑気な事を言っておられるのでございまするかっ!
さっさと起きて朝食を召し上がってくださいましっ!」
「ぅぅおお~・・・しょうがねぇなぁ・・・・」
頭をかきながら、まるで冬眠から目覚めた熊のようにのろりと起き上がる兄様。
そして目を狐のようにツリ上げて金切り声を上げるのがミサの役目にございます。
これも粗毎日の日課でございまして・・・
ミサと兄様の朝はいつもこの様に始まるのでございます。
朝食とていつも同じ。
小さい焼き魚が二匹(たまに一匹)
お味噌汁(兄様が作ると人の子が食するものではなくなります)
玄米
運がよければお漬物が少々
貧乏神社の貧乏神主イノリとその妹の巫女である私、ミサ。
貧乏ではありましたが平和で仲良く、のんびりと生活しておりました。
が、しかしある日突然事件がやってまいります。
その日、ミサは川原で遊んでおりました。
夕方になり、日も暮れ始め
神社へ帰っておりますと
参道の前に人影がぽつんとひとつ・・・。
参道前で肩を落としているのは
どこからどう見ても兄様でございました。
(まず、ミサが兄様を見間違える事などあるはずもないのでございまするが)
がたいの大きい兄様の背中がそれは小さく見えた瞬間でした。
項垂れて、大きなため息までおつきになって・・・
明らかにいつもと様子が違っておりました。
恐る恐る声をかけると・・・
「ぅぅおおっ!お、おおお、ミサか!」
挙動不審とでも申しましょうか。
兄様らしからぬ反応がお見受けできました。
しかし、その当時ミサは本当に幼かったのでございます。
兄様が何を抱え込んでいらっしゃったのか
全く見当もつきませんでした。
「どうかなさったのでございまするか?」
どんな顔でミサは兄様を見ていたのでしょうか・・・
兄様はその時泣いていらっしゃったのでございましょうか・・・
今となっては分からぬままでございます。
そうですね、きっと兄様は泣いておられたのでございましょう。
思い起こせば、鼻の頭が赤かったように思います。
(兄様はきっと夕焼けのせいだと申されましょうが)
「・・・いいか、ミサ。とても残念な報告をせにゃならん。」
大事なことをミサに話して聞かせてくださる時の兄様は
必ずしゃがんでミサの目線に合わせてお話ししてくださいました。
この行動が事の重大さを幼かったミサにも気づかせてくれる
合図のようなものでした。
目の前にある兄様の瞳は
真剣そのもので・・・
(見上げている時の兄様の目はフシダラそのものでございまするが・・・)
兄様とミサの父様、母様をキメラに食べられてしまった時を思い出させるものでした。
『・・・いいか、ミサ。とても残念な報告をせにゃならん。』
『・・・どちたのでごじゃりましゅるか?』
『・・・・親父も、お袋も、キメラに食われて死んだ』
『・・・・・・・父様、母様・・?』
『・・・おまえはもう大きいんだ、分かるな?』
泣きじゃくるミサを優しく抱いて
一日中・・・いえ、ミサが泣き止むまで永遠に
頭を撫でていてくださった兄様。
あの日の事を走馬灯のように巡らせるかの如く
兄様の目は、ミサの心を不安と苦しみで埋め尽くしたのでございました。
そしてついに兄様の口は開かれ・・・
「・・・神社が焼けた」
ふむ(・ω・`)