告白する勇気
今日も退屈な授業が終わった。俺は暫く教室でふけった後に下校する事にした。いつも帰り道の途中で女子高の前を通るのだった。「ワイワイ、キャッキャッ。」という黄色い声が聞こえる。華やかな女子高生が校門から続々と出てくる。いつみても美しい光景だ。俺は1人で勝手にそう思いながら歩いていた。
(おっ。)
俺は心中で呟いた。女子高生の集団の中に一際鮮やかに輝く華というものがあった。とても艶のあるストレートでロングの黒髪である。そして絵に描いたように整った顔立ち・・・。まさに彼女は自分の理想とする姿をしていた。そして少しの間、不覚にも俺は彼女に意識を奪われてしまった。その時は自分自身、まだ確信が持てなかった。自分の彼女に対する気持ちを・・・。
「よっ!」
バンと背中を叩かれ、俺は我に返った。
「何をボーッとしてんのよ。」
全く余計な事をしてくれる。お陰であの女子高生の姿を見失ってしまった。
「どしたの?心ここにあらず、といった感じじゃん。」
本当に空気を読まない女だ。以前から、こいつは何かと俺にまとわりついてくるのだ。
「何でもねえよ。」
俺は大人の対応をした。勿論ムカつくのだが、そんなことで心を乱さない。そしてそのまま、この女と並んで歩きながら大人しく帰路に着いたのである。
その夜、俺は夢を見た。黒髪の女子高生と並んで歩く。別に何をする訳でもない。心地よいとは、この様な事を言うのであろうか。このまま延々と、ゆっくりと時が流れれば良いのに・・・。
===== バン!! =====
「起きろー!!」
「うばっ!!」
強制的に俺は起床させられた。
「遅刻するよー!」
朝っぱらから俺の部屋に乗り込んでくる、全く困った女だ。いくら幼馴染と言っても、コイツは調子に乗り過ぎだろう。
「待ってるからね!早くしなよ!」
この幼馴染は俺の反応はお構いなしに玄関へと走っていった。この女に反発する気力もない俺は、惰性で服を着替えて、女と一緒に登校したのだった。
退屈な授業はダラダラと過ぎていった。そして下校時。昨日の事など、俺は気にもとめていなかった。いや、そう思おうとしていたのかも知れない。しかし不覚にも・・・。
(おお・・・!)
またしても俺は目を奪われた。あの黒髪の女子高生に・・・。1日にして俺は彼女に対して、オーラを感じるまでになったのだ。彼女の姿が消えるまで、俺の視線は釘付けだった。もう体裁など気にするべきではない。最早、自分に取ってこの女は特別なものとなった。これは運命なのか。縁なのか。心に決めた。この女をモノにするという事を。俺は拳を強く握りしめた。
===== 明日必ず、この黒髪の女に交際を申し込む =====
俺は決めたことは必ずやりきるのだ。
「何をブツブツ言ってんの?」
「ぶっ!!」
何でもないぞ。まったく、この女は鬱陶しい・・・・。
さらにその翌日。俺は少し驚いた黒髪の女の顔をみていた。そう俺は、この黒髪の女子高生に自分の気持ちを、勇気をもって告白したのだ。しかし・・・。
「有り難う。」
そう一言告げられて、僕は頭を撫でられた。
「でも、もうちょっと待ってね。大きくなったら遊んであげる。」
黒髪の女は笑顔を見せて、去って行った。俺はだた茫然と立ち尽くすだけであった。
「よっ!!」
背中をポンと叩かれた。気のせいか、いつもより少し優しめの加減の気がする。
振り向くと、いつも通りも幼馴染みの女がいた。
「アンタには、あの娘はまだ早いよ。」
幼馴染はニカッと笑っていた。
「余計なお世話だ。」
今日も俺たちは並んで下校した。俺たちの背負うランドセルが、いつもよりも大きく揺れている気がした。