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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

灰かぶり無双〜ドアマットヒロインは王子様からの溺愛よりもスローライフの夢を見る〜

作者: 仁嶋サワコ

グリム童話の灰かぶり姫をモチーフとしています。

 昔むかしのとある小さな国の話です。

 あるお金持ちのお家に可愛らしい女の子が幸せに暮らしておりました。

 ところがあるとき、女の子のお母さんが病気になりました。女の子はすっかり良くなるようにお祈りしていましたが、とんと効かず、お母さんは亡くなってしまったのです。

 女の子がお母さんのお墓の前であんまりわんわん泣くので、お父さんは新しいお母さんを連れてくることにしました。そうしてやってきたのが、まま母と姉その一とその二です。お父さんは、女の子に新しいお母さんばかりか、新しい姉その一とその二も与えようと思ったのです。

 やって来たまま母達は、女の子を睨みました。


「この子はなんて怠け者なんだろう。ご飯を食べたかったら、ちゃんと働きなさい。まったく、うちにおいてあげるってだけでもありがたい話なんだから」


 姉その一はかわいそうな女の子のきれいな服を剥ぎ取って汚い服を着せ、その二は華奢な靴を奪い取り、古ぼけた木靴を履かせました。

まま母は女の子を台所に追いやり「まったく、なんて怠け者なんだ。ちゃんと働くんだよ」と女中のように働かせました。


 お父さんは空気でした。


 そして、それからというもの、女の子は夜が明ける前から晩まで台所の用事や、家の掃除といった下働きをすることになりました。

 まま母と姉その一とその二は女の子につぎつぎと色々な意地悪もしたのです。

 例えば、すっかりきれいになった暖炉に向かって姉その一は豆をばらまきます。


「いいかい。これを全部拾うまで、決して休んではいけないよ」


 女の子は頑張って灰をより分け、豆を拾ったのですが、白くて小さい手も顔はすっかり灰まみれです。

 そんな意地悪を毎日やるものですから、女の子はいつも薄汚れていました。まま母と、姉その一、その二はそんな女の子を「灰かぶり」と笑いながら呼び、豆を投げ続け、女の子は拾っていったのです。


 お父さんは空気でした。



 そんなある日、お父さん(空気)が市に出かけることになり、娘達にお土産に何がほしいか訪ねたのです。

 その一は「きれいなドレスよ」と言い、その二は「真珠と宝石」と言いました。

 お父さん、以下(空気)は「灰かぶり、おまえは何がほしいかい?」と聞いてきました。灰かぶりは父親までもそのように呼ぶことに驚きましたが「お父様が帰っていらっしゃるとき一番最初に触った木がほしいわ」と答えました。

 「何て不思議なことを言う娘なんだ」と(空気)は思いましたが、言われたとおりに一番最初に帽子に触れたハシバミの木の枝を渡すことにしました。

 灰かぶりがそれをお母さんのお墓に植えると、なんと立派な木になりました。

 木の前で、灰かぶりは毎日三度お祈りをします。お祈りをすると、白い小鳥が飛んできます。そしてその白い鳥は、灰かぶりが欲しいというものを何でも落としてくれたのです。

 そうして、灰かぶりは必要だと思ったものを集めていったのです。


 いったい何をお願いしたのでしょう?

 油絞り機と瓶、それからきれいな木の型でした。それを意地悪な家族に見つからないように壁の隙間のねずみの住処に隠しておきました。


「ねずみさん。パンくず一つと油をスプーン一杯あげるから、どうかわたしの宝物をあなたの寝床に置いてくれないかしら」


 もちろんこうやってきっちりとお願いしてね。


 灰かぶりは夜中、隠し場所から油絞り機を取り出しました。そして、落ちた豆から油を絞り、瓶に入れました。一つの豆からはほんの少ししか油はとれませんが、大丈夫。まま母達は毎日たくさんの豆をばらまきました。灰かぶりは毎日油を絞り続けたので、瓶は油で満たされたのです。

 瓶が満杯になると、灰かぶりは白い小鳥にまた新しい瓶をお願いして、油を詰めていきました。

 そうして、瓶が十を超えた頃、灰かぶりは白い小鳥にたらいと水差しとシャベルとガーゼをお願いしました。きれいな銀色の水差しに水を入れ、まだ熱のくすぶっている暖炉の横に置いた後、今度はシャベルで灰をかき集め、たらいに入れていったのです。

 白い灰が山盛りになった頃、水差しの中身は熱くなり、すっかりお湯になりました。灰かぶりはお湯をたらいに注ぎました。

 次の日は、たらいの中身をガーゼで濾過しました。そうしてできた灰汁を空の瓶に詰め込みます。

 そうやって、毎日いじわるなまま母とその一、その二に言いつけられた仕事が終わった頃、灰かぶりは作業を続けていきました。

 今日は、白い小鳥にお願いして手に入れた、泡立て器を使います。白い小鳥は何だって、灰かぶりにくれるのです。

 燻っている暖炉の横で温めた灰汁を、同じく温めた油に混ぜ、泡立て器で混ぜていきます。酒精があると良いらしいので、これももちろん白い鳥にお願いして手に入れ、混ぜています。

 この混ぜたものを、型にいれ、そして次の日になりました。

 型に入った混ぜものは固まり始めていました。


「あら、せっけんがなんてりっぱにかたまったのかしら。もう少し寝かせるけれど、これですっかり大丈夫だわ」


 灰かぶりは、沢山の灰を被り、豆を集める内に、この世界にはないせっけんを作ることを思いつきました。

 なぜそんなことが出来たのでしょう?

 何と、灰かぶりは、WEB小説界に腐るほど乱立している、現代日本からトラック転生して、過去の記憶を持ち合わせたままナーロッパっぽい世界にやってきた存在(童話好き)だったのです。


 灰かぶりは次々とせっけんを作り続けていきます。せっけんは寝かせるのが終わると、白い小鳥にもらったきれいな紙の箱に入れ、ねずみの住処にためていきました。


「ねずみさん。これはチーズじゃなくってよ。かじったらおなかを壊してしまうわ」


 ねずみがかじらないように、こう言い聞かせてね。


 そんなある日、白い小鳥がお墓の前に落ちていました。

 シンデレラならぬ鳥がしんでれらーと思った灰かぶりでしたが、悲しくてわんわん泣きました。

 大好きなお母さんとのつながりがなくなってしまうと思ったからです。

 たくさん泣いた後、灰かぶりは涙を引っ込め、灰で汚れた小さなてのひらに白い小鳥をのせ、こう言いました。


「わたしったら、せっけんの油が植物性じゃなきゃいけないなんて、いったいなんだってそんなこと思ったのかしら? 動物性油脂だって、立派な油になるに決まっているわ」


 灰かぶりがお祈りをすると、新しい白い小鳥が来て、また欲しいものを落としてくれました。

 鳥をきれいにわけることのできる、銀色のナイフです。

 こうして、灰かぶりは新しいせっけんの開発にいそしむことになりました。



 そうやって小鳥が何羽かせっけんに姿をかえ、ねずみの住処がなくなった頃、王国で大きな宴会を催すという話がやってきました。王子の花嫁を探すことが目的で、国中の若く美しい娘が招かれていたのです。

 宴会の当日です。姉その一、その二は「王子様のお嫁さんになるのはわたしに決まっているわ」と着飾りました。灰かぶりは姉の身支度を手伝いながら思います。


「わたしはヒロインの役目なんてまっぴらよ。現代知識を駆使して、せっけんを国中に広めて、チートなスローライフを送ることが夢なんだから。そうよ。お姉様のどちらかが花嫁になってしまえばいいんだわ」


 灰かぶりは白い小鳥にお願いして金の靴を二足用意して、姉達に履かせました。二人とも「灰かぶりのくせに、随分といいものをもっているね」と灰かぶりを鞭でぶとうとしましたが、うまいこと言いくるめてなんとか逃れることが出来ました。

 そして、まま母と姉その一とその二が出かけた後、灰かぶりは日課の豆拾いをしようと暖炉に戻ることにしました。

 するとなんと言うことでしょう。

 灰かぶりをかわいそうに思った鳥たちによって、豆は既にお皿に取り分けられていたのです。


「これはまったく悪い予感がするわ」


 驚いた灰かぶりはお母さんの墓の前にいつものようにお祈りに行きました。新しい瓶をもらおうとおもったのです。

 ところが、お墓には金と銀の糸で織ったドレスと金の靴と白い紙が置いてありました。

 白い紙にはこう書いてあります。


『これを身につけて宴会に行ってらっしゃい。そうするまで、他のお願いを聞くことはできませんよ』


「……強制力」


 灰かぶりはため息をついて、お城に出かけました。


 さて、お城ではとんでもなく美しいドレスを身につけた美しいお姫様が来たと大騒ぎです。王子は灰かぶりを見た瞬間「この人は僕の相手だよ」と言って、灰かぶりから離れようとしなくなりました。

 そうやって二人で踊っている内に日がくれましたので、灰かぶりは家へ帰ろうとしました。すると王子は、「僕が一緒におくっていってあげよう」と言い出しました。

 とんでもないと灰かぶりは一瞬の隙をつき、王子から離れて家へ帰ることにしました。王子は慌てて家の前まで追いかけましたが、灰かぶりが上手い具合に汚い服に着替えて見つからずじまい。

 そんな日が続き、宴会が終わる三日目です。

 いつものように逃げだそうとする灰かぶりでしたが、この日王子は計略を巡らせていたのです。チャンというベタベタする薬を階段に塗ったのです。逃げ出す灰かぶりの左の靴にチャンがべったりとくっつき、そのまま靴を脱いでいくはめになりました。

 そうして,王子は灰かぶりの金の靴を手に入れたのです。

 さっそく次の日の朝、王子は灰かぶりが逃げた先に金の靴を持っていきます。


「ここに、この金の靴の持ち主はいないだろうか」


 金の靴をはいて宴会に出かけた覚えのある姉その一は大喜びで靴を履こうとしますが、小さすぎて履けません。


「靴が入るようにすればいい。大丈夫。王子と結婚すれば歩く必要はないのだから」


 そう言ってまま母がその一の足の指をちょん切って無理くり靴を履かせました。

 その一は三日間踊った相手の顔も思い出せない王子と一緒に馬車に乗りましたが、やっぱり途中で気がつかれました。


「くるっぽーくるっぽー。何で気がつかないのかしら。靴の中は血でいっぱい。本当の花嫁は家の中」


 白い小鳥がこう歌ったからです。

 次は姉その二がかかとを切り落として金の靴を履きました。

 この時も白い小鳥が歌います。


「くるっぽーくるっぽー。何で気がつかないのかしら。靴の中は血でいっぱい。本当の花嫁は家の中」


 そうしてもう一度家に戻ってくることになったのです。


「この家には他に娘がいるのではないか」


 王子は強く(空気)に問いかけます。


「もう一人娘がおりますが、とても王子様の花嫁になれる娘ではありません」


 それでもいいからと灰かぶりは連れてこられます。

 そして灰かぶりは言いました。


「まあ、何て汚い靴かしら!」


 靴は昨日王子が階段に塗ったチャンと、姉その一とその二の固まった血のせいで、金色ではないとても汚い様子になっていたのです。


「王子様。わたしもこの靴は履けません」


 灰かぶりは靴に足を入れるまねをしました。本当なら入る大きさの靴でしたが、姉二人の血の塊で靴の隙間は埋まり、灰かぶりの小さな足でも入らないものとなっていました。


「ううん。そうか。これは弱ったぞ」

「王子様。この靴は大変汚いです。大切な花嫁のために、わたしがこの靴をきれいにしてもよろしいでしょうか」

「それはかまわないがどうやろうというのかい」


 灰かぶりは一つのせっけんを取り出しました。


「王子様。これはせっけんというものです。これで汚れをきれいにしてしまいましょう」


 たらいに水を張り、せっけんを泡立てて靴を洗います。そうすると、靴はすっかりきれいな金色の靴に戻りました。


「やあ、これはすごい。王宮でもこんなに凄いものは見たことがない」


 初めて見るせっけんというものの汚れの落としやすさに、王子は驚きました。


「王子様。せっけんの威力を知ったところで、ひとつご相談があるのです」


 そうして灰かぶりは商談を始めました。



 昔むかしのとある小さな国の話です。

 何の変哲もないこの国で、ある時から、せっけんというものが広まりました。

 そのせっけんは可愛らしい型に入っていて、お金持ちだけでなくふつうの人も使うことが出来る値段のものもありました。

 そのせっけんを使うことで、衛生的になり、病気になる人が減っていき、健康寿命も延びていきました。

 開発者の灰かぶりはあくせく働かなくて良くなり、かねてより夢に見ていたスローライフを行うことが出来るようになりました。

 王子も遠くの国から金の靴が足に合う纏足のお姫様を呼び寄せ結婚をして、みんなが幸せに暮らしましたとさ。

ノベルアッププラスさんのグリム童話フェア向けに書いた作品です。

昔読んだグリム童話の文体や空気を大切に、書くのが大好きなトチ狂ったシュールコメディを目指しました。


宜しければ評価等していただけますと小躍りします!

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