表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

好きって言わせたい

作者: ゆーちゃ

 西日を背に今日も並んで歩けば、駅まで続く道に伸びる私と私より頭一つ分長い二つの影。


 態度で示してくれてるのわかってるよ?

 言葉にするって結構恥ずかしいもんね?

 でもさ、やっぱりたまには言って欲しいって思うじゃん。


 だからね……今日こそ“好き”って言わせてみせる!




「ね、しりとりしよ?」

「何、突然。別にいいけど負けたら罰ゲームな」


 ……って、開始前から不測の事態!?

 でも、負けるつもりはないから問題なし!


「じゃあ、私からいくよ? ライス!」

「スイカ」

「カレーライス!」

「スイッチ」

「チ……? チキンライス!」

「……何。ライス縛りでもしてんの?」


 そういうわけじゃないんだけど……。


「た、たまたまだよ! ほら、次々ー! スからだよ!」

「スマホ」

「ホ……ホース!」

相撲(すもう)

「ウグイス!」

「なぁ……。何でスばっかで攻めてくんだよ」


 うわっ。もの凄い睨まれたし!

 でもしょうがないじゃん? そういう作戦なんだもん。


 けどさ、文句言いつつもこうして付き合ってくれるんだから、やっぱり何だかんだで優しいよね? 優しいついでに言ってくれてもいいんだよ? むしろ言って? ほらほら。


寿司(すし)

「むぅー。シラス」

「何で膨れてんのかわかんねぇけどスミレ」

「別に膨れてなんかいませんよーだ、レース!」

「……」


 おや? そろそろ尽きた? まだ“好き”なら残ってるよ?

 期待を込めて隣を見上げたのに、なぜかにやりとする顔と目が合った。


「しりとり、ねぇ……」

「っ……し、じゃなくて()だよ。ス!」

「ふーん? んじゃスズメ」

「メ? メー、メー……あっ、メス! ほら、手術とかで使うやつ!」


 右手を出す仕草もしてみせれば、その手をぎゅっと握られた。


「すき」

「え? えっ!? ゴ、ゴメンもう一回!」

「焼き」

「……え?」

「だから、すき焼き」

「なっ……にそれっ!!」


 変な間あけないでよ!

 思わずぎゅっと握り返しちゃったせいか離してもくれないし!

 手汗といい、繋がれた手から心臓の音がバレそうなんだけど……。


「キ、キリギリス……」

水素(すいそ)

「……ソース」

「すき――」

「っ!?」

「ま」

「!!」

隙間(すきま)な。てか、顔真っ赤にしてどした?」


 わざとらしく覗き込んでくるなー!

 これ絶対バレてるし! わかっててやってるし!

 こうなったら、意地でも言わせて見せるんだからっ!


「ま、(ます)!」

(すす)

「す……す!? あっ、スイス!」

「ストレス」

「またス!? えっと、えーっと……ス、スライス!」

「スパイス」


 やばい。スで返してくるなんて想定外!

 スで終わる言葉はめちゃくちゃ考えてきたけど、逆なんて考えてないし!


「10、9――」

「ちょ、ちょっと待って。今考えてる!」

「8、7」

「待ってってばー!」


 ここまできて語尾をス以外にするなんて意味ないし、なんか悔しいじゃん!


「6、5……」


 楽し気にカウントダウンする彼が、突然立ち止まった。

 ど、どしたの? とつられて足を止めた私の頬に、繋いでいない方の彼の手が触れた。


「悩む必要ないだろ。スで始まる言葉、一つは最初から浮かんでんだもんな?」

「そ、それは……」


 私が言ったら意味ないじゃん!! てか、やっぱりバレてるし!!

 ……で、どうして残りのカウントダウンしながら顔を近づけてくるの!?

 近い、近いってば―! 


「ほら、言えよ」

「い、言わないっ!」

「何で?」

「なんでも!」

「ふーん? でも残念、時間切れ」

「うぅ……」


 なんだかすっごく悔しい……。

 でも仕方ない。また出直してくるからそろそろ離れて?

 心臓がやばいから……。


「ね、もう終わったよ? 帰ろ?」

「まだ罰ゲームが終わってない」

「……な、何すればいい?」

「言えばいい」


 こ、これはもしかして仕返し!?

 無理やり言わせようとしたから、逆に言わせてやろうみないな!?

 ……別にいいんだけど。全然問題なんかないんだけど。

 たださ……鼻先が触れそうなこの距離で言うのは、さすがの私でも恥ずかしいってば!


 それなのに、繋がれたままの手と頬に添えられた手は離してくれなくて。

 何より全てわかったうえで涼しくも勝ち誇ったその顔が、逃げ場なんてないのだと言っている……。


「まだ?」

「わ、わかった。今、言う……」


 悔しいから、せめて目だけは逸らさない。


「……好き」

「よく出来ました」


 ご褒美、と告げる顔がゼロ距離になったのは一瞬で、気づけば何もなかったみたいに私を置いて歩き出している。

 なんか……私一人ドキドキしてるみたいじゃん……。

 それでも距離が広がる前に追いかけて、隣に並べばほんの少し歩調が遅くなった。


「いきなりキスするとか、なんかズルい……」

「したくなったからしただけだけど?」


 ほんっとそういうとこ!

 簡単には好きって言ってくれないのに、いっつも私ばっかりドキドキされっぱなしとか!


「何か不満?」

「別にそういうわけじゃない……」

「特別にあと5回だけなら延長戦受け付けるけど」

「ホント!? うん、やる!」


 もの凄く手のひらでコロコロされてる気がするけど、一度負けた私にはもう怖いものなんてないもんね!

 仕切り直して先どーぞ、なんて余裕かましてるその涼しげな顔、今度こそ真っ赤にさせてみせるんだから!


「じゃあ、ポリス!」

「スペア」

「アイス!」

「スパイ」


 さすがに自分から延長戦持ちかけただけあって、まだまだ余裕だね?


「イス!」

素足(すあし)

「し……シマリス!」

脛当(すねあ)て」

「テニス!」

(すばる)。はい、おしまい」

「えぇー!」


 こんだけ()で返してるんだから、最後くらい言ってくれてもいいじゃん!


「いじわる……」

「何で?」

「わかってるくせに!」

「“好き”以上の言葉を言ったけどな」

「えっ!?」


 そんなの言った? いつ? 聞いてないよ? それとも私が聞き逃しちゃっただけ?


「お前がしりとりで言わせようとしたんだろ?」

「そ、そうだけど……普通にしりとりしてただけじゃん! どういうこと? ねぇ、教えてってば!」

「ヤダ」


 意味わかんないー!

 それなのに、一人だけ全部わかってます、っていう涼しげなその顔がかっこよく見えちゃうのは、惚れた弱みってやつですか!?


「もう、次こそ絶対“好き”って言わせてみせるからね!」




 * * * * *




ラストの延長戦、彼の5つの言葉の語尾に注目してみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
学校帰りに二人で一緒に帰ってる情景が鮮明にイメージできました。西日を浴びてオレンジ色に染まる雰囲気が郷愁感を高め、作品への親密さを感じました。 相手に「好き」と言わせたいという発想が可愛らしいく印象的…
もの凄く僭越ながら(すみません!) ヒントをいただいて感銘を受けたのですが、どうにかヒント無しで読者が「あーっ!」ってならないかな?と考えてみました。 脊椎反射の思い付きの走り書きです。 「じゃあ…
なんとたくみな言葉遊びなんでしょう! それではちゃんと物語に落とし込まれていることに感動して思わず感想&★5してしまいました。突然スミマセン。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ