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異世界に行きたい!  作者: 狂楽
2/2

第二話

 昨日の今日。

 オレは大学へと来ていた。

 木の葉の隙間から突き刺す夏の日差しに辟易しながら大学の校庭を歩いていると、笑いながら雑談しているグループとすれ違う。何気ない話題だ。SNSで最近流行っている動画について話している。

 ちらり、とオレは自分のスマホを見る。


『ドラレコに幽霊が映ってんだけど!』


 大学の友達から教えてもらった動画。

 うん…何というか。すでに前時代に飽きられたようなタイトルだ。

 流行は繰り返すという話は本当だったのかな。いや、あの流行っていうのは服の事だったか、これはどちらかというとホラーだよな。確か…リバイバルファッション20年説とか言うんだっけか。いやそれは別に良くて。


 今ではテレビでもすっかり見なくなった幽霊なんてフレーズが、今日の朝のニュースにすらその単語は現れていた。その発端となったとされる動画がコレだ。

 内容は高速道路を走っているドライブ風景から始まる。シークバーを確認するとその導入だけで四分の一進んでおり、動画の短さが良く分かる。直ぐも経たないうちに、道路の上に人影が現れ、車のハンドルを切ったんだろうね、カメラが急に別の方向を向く。

 激しいブレーキ音と停止。

 何かしら騒ぐ音がいくらか聞こえて、終了。

 それだけ。


「はー?そりゃねぇだろ」


 というのはオレの初見の反応だが、どうやら他の方々も同様の感情を抱いたようで、大量の非難のコメントがあった。これは炎上というやつなのだろうか。最近は炎上の定義の範囲が拡大している気がしてオレにはよくわからない。

 だが、それだけならニュースで取り上げられるほどじゃない。そりゃそうだ。これだけならいわゆる釣り動画だからな。幽霊なんていねーじゃん!という言葉で締めくくられる。


『私も同じの見ました!』


 さて、流行りとは多くの人が取り扱わなければ流行りとは言われないね。

 先の動画には多くのコメントが寄せられ、呆れ、落胆、失望などを言葉にしたものがあったが、その中には同じものを見たというコメントも幾らかあった。

 コメントをした人の動画を見れば、それもまたドラレコの映像だった。

 ドラレコ。ドライブレコーダー。よく車に付いてるし、これも最近の流行りだな(?)。


 今度のヤツは高速道路ではなく市街地みたいだ。

 緩やかに走行しているとさっきの動画と同じく人が道路の真ん中に出現する。投稿者は急ブレーキを踏んだようだが、止まれない。その人を車でひいてしまった、ように見えたがその瞬間、人が消える。

 投稿者は車を止めて外に出たようで、ドアの開閉音がする。終了。

 他の動画も大筋は同じ。


『これ合成じゃなくない…?解析してみても分からないんだけど』


『だから見たんだって!本当に!』


 とか何とか。

 穏やかな水面に石を投じるが如く、波紋が同心円状にその面積を広げるように波及して波及して、ニュースで取り上げられるまでになった。ただし石が本物か偽物かも分からない。

 話題性に付いて来て、多くの人がCGを合成したり、本物のようなCGを作ったり。

 人影の3Dモデル何てのも作られた。

 モデリングの際に参考にされたのがさっきの市街地を走っていた車の動画なんだってさ。画質はさほど良くなく、また走っていて、一瞬の出来事であったため、特徴を捉えるまでしか出来ていないようだが。

 その3Dモデルは青い瞳にプラチナブロンドの髪をしていた。服はホラーチックに汚れていて、足はあったりなかったり取り外し可能のオプション付き。足を取り外せるのはホラー要素らしい。


 今日の昨日。

 例のよく知らないビルの屋上で見かけた彼女を思い出した。

 まるで蜃気楼のようだった彼女。ビルから飛び降りたようでいて、あの後ビル周りを練り歩いてみても影も形もなかった彼女。飛び降りた時に瞬間移動していたとしたら合点がいく。

 だけど彼女はこれら見かけられている法則性から外れた形でオレの前に姿を現した。

 それはどういうことなのだろう。逆にどうして彼女は車の前に出現し続けているのか。

 どのように瞬間移動し続けているのか。

 彼女がどこの誰なのか。

 あの時何を言っていたのか。


「まっ、考えても仕方ねーか」


 分からないものは分からない。

 大学の講義も終了して、友達とゆっくりと駄弁って暇を潰した後。

 赤く染まりつつある講義室と廊下を眺めながら、オレはそんな結論に至った。

 彼女がオレの前に現れたのは昨日の話で、それはすでに過ぎ去った話だ。

 ならオレがそれについて考えても仕方がないし、もしも考える機会があるとすれば、それは次会った時だ。まぁ…ないだろ。

 会えたら会えたで幾つか聞いてみたいことがある。


 席を立ち、廊下に出る。

 夕日色に染まった長い道には人の影はなく、嫌な暑さに僅かな陰りを肌で感じた。


『バタン』


 ドアを閉じきるよりも前、何かが倒れる音に振り向くと、そこには人が倒れこんでいた。

 つい先ほどまで誰もいなかったそこに、突如現れたのは昨日の彼女だった。

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