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化粧を落とすとき  作者: 光樹 鈴音(みつき りおん)
2/10

morning routine-2

むくり。アラームが鳴った瞬間に目が覚める。私は寝起きが凄くいいんだなと、彼と暮らしてみて知った。彼は何度アラームが鳴っても、私が揺すっても起きない。これまでよく仕事に遅刻しなかったもんだと逆に尊敬するほど。きっと私のアラームの音楽にすら気付いてないんじゃないだろうか。ここ一年の間にハマった6人組アイドルが、約三ヶ月に一度くらいのハイペースで新曲を出すもんだから、何度アラームを設定し直したのか正直覚えていない。

顔を洗おうと洗面所へ向かうと、彼のズボンが洗濯機からはみ出しているのが見えて小さく溜め息を吐く。歯を磨きながらズボンを入れようとすると、ポケットから何かが顔を出している。まさかと思ってポケットをまさぐれば、彼の愛する煙草が出てきた。以前、彼が煙草を入れたまま気付かずに洗濯機を回し、散々な目に遭ったのを忘れたのだろうか。呆れながら煙草を抜き取り、柔軟剤を入れスタートボタンを押す。それが終われば、昨日の夕食後面倒くさくてやらなかった洗い物が待っている。ゴウンゴウンと大きな音をたてながら回る洗濯機と、蛇口から流れ出た水が食器の中の水に当たって、大きい音が鳴っていると思うのだが、彼は一向に起きようとはしない。

「ねぇ!また!」

少しだけ大きな声を出すと、薄く目を開く彼。このまま煙草の件を注意してもきっと耳には届かないだろうな、と思いはするが、取り敢えず起きてもらわなければ、映画に遅れてしまう。

「何度言ったらわかるの!ポケットに煙草入れたままにしないでよ!」

薄く目を開いたまま、うんうんと頷く彼。多分届いては居ないだろう。

「早く顔洗ってきなよ」

彼を立たせ、洗面所へ背中を押す。暫く洗い物をしていると、タオルを出し忘れていたことに気付いて、昨日買ったばかりのふわふわのタオルを届ける。

「今日何かあったっけ」

歯ブラシを咥えたまま、タオルを受け取った彼が不思議そうな顔で見つめてくる。嘘だ、忘れてるなんて。

「もしかして忘れてる?」

思わず眉間に皺が寄る。あんなにあの日、楽しみだねと笑い合ったのに。

「えーっと……」

頭を掻く彼を見ながら、前はこうではなかったのになと思う。前は私の行きたいところに連れていってくれて、やりたいことをやらせてくれた。一生懸命楽しませようとしてくれてることが嬉しくて、私が喜ぶと彼が更に笑わせてくれたりして楽しかった。いつから彼は変わってしまったのだろうか。まるで思い出せない。

「もう!この前番組で特集してた映画!観に行く約束したでしょ!」

「あー……」

何そのつまらなそうな顔。なんだか私が無理矢理連れていくみたいじゃない。あの時貴方も観たいねって笑ってくれたからチケット取ったのに。

「久しぶりのデートだよ?忘れるなんて!」

「悪い」

悪いなんて一ミリも思ってなさそうな顔で言わないでよ。この日のために新しく洋服も買って、貴方の好きそうなピアスも買って着けたのに。この数日、久しぶりにデートできると喜んでたのに。

「どうしたの、これ」

ワンピースとピアスに触れながら、尚も機嫌悪そうに聞く彼。別に朝早く起こしたわけじゃない。もうお昼になろうとしているのに、寝起きだからなのか不満そうな顔をされる。そんな顔されたらデートしたくなくなっちゃうよ……。

「今日のために買ったの」

「貴方に可愛いと言ってほしくて」そんな言葉は喉元に詰まって言えなかった。いつからか、可愛いだとか、好きだとか、言われなくなったな……。

「いいんじゃない」

可愛いとは言ってくれないんだね。

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