最強の運を手に入れた男
最終話です。
「あいつ、また当てやがった!」
「うそだろ……何連続だよ」
「信じられん」
「お、俺も同じ所に掛けようかな」
ルーレットというゲーム台の周りに集まったギャラリーからどよめきが上がる。
彼らの視線の先に座っているのは僕とルピシアだ。
ルピシアというのは僕をこの店に連れ込んだ客引きのお姉さんの名前で、カジノ初挑戦の僕に色々教えてくれるために付き添ってくれていた。
「ニットさん。本当に初めてなの?」
「もちろん。これが君が言ってたビギナーズラックってやつなんだろうね」
今僕の目の前には大量のチップが積み上がっていた。
話は僅かに遡る。
この店に入ってしばらくはルピシアにカジノの中を案内され、スロットやカードゲームや数字当てゲームなどを見て回った。
最初こそ激しい騒音と客の悲喜交々な歓声や悲鳴で目が回ったものの、いつしかそれにも慣れてしまった。
「そろそろどれかやってみる?」
「そうだな。それじゃああのルーレットってやつをやろうかな」
何故かカジノの中で僕はそのルーレットというギャンブルに心を惹かれたのだ。
ルーレットはディーラーと呼ばれる店員が、回した数字が沢山書かれた円盤の中に小さなボールを投げ込み、それがどの数字の上で止まるかを当てるゲームであるらしい。
客はまずお金代わりの『チップ』というものを買って、それを好きな番号の上に好きなだけ置く。
数字にはそれぞれ倍率が決まっていて、その数字にボールが止まれば掛けた金額がその倍率分だけ増えて帰ってくるわけだ。
他にも色々細かいルールはあるらしいのだが、全部覚えられるわけも無く、あとはルピシアにお任せすることにした。
「初心者はまず赤か黒、もしくは奇数か偶数かの二択から始めた方が良いわ」
「そうなんだ。それじゃあ奇数にしよう」
最初の最初は本当にビギナーズラックだった。
ルーレットテーブルに着いた客が全て掛け終えると、ディーラーがルーレットを回しボールを投げ入れ、そして『3』の上で止まったのだ。
「やったわ! 当たりよ!」
「……」
「どうしたの? 嬉しくないの?」
初めてのギャンブル。
初めてのルーレットを当てたというのに何の反応も示さない僕に、ルピシアは心配そうな目を向ける。
だけど僕にはそんな彼女にすぐ子足ることが出来なかった。
なぜなら――
『遊び人のレベルがアップしました。 スキル【数字当て】を取得しました』
僕の頭の中にルーレットが当たったと同時にそんな言葉が浮かんだからである。
これは新しいスキルを得た時に起こる現象で、今までも攻撃力を上げる【盛り上げダンス】や敵の意識を散漫にさせる【お手玉】などのスキルを戦闘中に覚えた時にも経験している。
だけどまさかカジノのルーレットを当てた時にスキルが取得出来るとは予想外すぎた。
「はい、これニットさんの取り分よ」
じゃらじゃらとチップがディーラーの持つ棒によって当選者の元に分配されていく。
その音で我に返った僕は、となりで心配そうにしているルピシアに笑顔で答えた。
「ありがとう。まさか当たるなんて思わなかったからびっくりしちゃってさ」
「初めてだって言ってたもんね。それじゃあ次はどうする?」
「うーん、次かぁ」
僕は次に掛ける数字を決めるためにルーレット台に目を向けた。
すると。
「ん?」
ルーレット台の上に書かれた数字や記号の中の数カ所がぼわっと光って見えた。
一度目を擦ってもう一度見直すがやはり何カ所かが淡く光って見える。
「……もしかしてこれが【数字当て】スキルってやつなのか……」
僕は口の中で自分にしか聞こえない声で呟くと、ぼんやり光っている『14』という数字の上にチップを半分ほど置いた。
「いきなり数字で、しかも一点張り!?」
「なんとなくね。まだビギナーズラックは続いてるとおもうから」
「ニットさん、思ったよりギャンブラーなのね」
そんな会話をしていると、全ての客が掛け終わったらしくルーレットが回り出す。
ぐるぐると回るルーレットがゆっくりと止まると――
「ほ、本当に『14』が来たわ!」
ボールは見事僕がチップを置いた『14』の上で止まったのである。
そこからは簡単だった。
なんせボールが止まる数字が僕にはわかるのだ。
ぼんやり光る数字や記号に適当に掛けていくだけで僕の前のチップの山がどんどん積み上がっていく。
これで一体いくらになるんだろう。
最初にチップを買った時、十枚で1ゴールドだったから……。
「ニットさん」
頭の中で今日の儲けを計算していると、隣に座っていたルピシアが、僕の耳元に口を近づけ名前を呼んだ。
「なにかな?」
「今日の所はこの辺にしておいてくださいませんか?」
「えっ、それってどういう」
「ニットさんが少し勝ちすぎてしまったので、その……ディーラーが」
ルピシアの言葉に僕はゆっくりと周りに目を向ける。
そこには真っ青な顔で体を震わせているディーラーの姿が見えた。
「そんな……あり得ない……私はちゃんと……」
なんだかそんな言葉を先ほどからブツブツと呟いている彼を見て僕は反省する。
そうか、客があまりに一人勝ちしている状況は彼にはとても困ることだったんだと。
もしこれ以上僕が勝ってしまうと、彼の仕事を奪うことになるかもしれない。
だからルピシアは僕を止めてくれたのだろう。
「わかった。今日はこの辺にしておくよ」
「すみません」
「いや。僕もちょうど良い気張らしが出来て良かった。ありがとうルピシアさん」
その気晴らしの相手にされたディーラーはたまったものでは無かったろうけれど。
僕はテーブルの上のチップを、ルピシアから手渡された袋に詰め込むと席を立つ。
あからさまにホッとした表情を浮かべるディーラーと、もう見世物は終わりかとつまらなさそうな表情を浮かべる人々。
そして大勝ちした僕を羨ましそうに見つめる客。
「早く換金カウンターに行きましょう」
「そうだね。ちょっと疲れたし、換金したらどこかの店にゆっくり食事でもしに行くよ」
僕はそう言ってルピシアに笑いかけると、換金カウンターにチップが大量に入った袋を担いで向かったのだった。
この日僕が稼いだ金額は、今まで冒険者生活で貯めてきたお金を超え、一晩でかなりの大金持ちになってしまった。
貧乏生活ともこれでおさらばだ。
しかし僕はその帰り道、突然暴漢に襲われることになる。
それはあのカジノのオーナーの手先で、僕が勝ったお金を無理やり取り返そうとしたらしい。
僕はそんな暴漢を、新たに取得した【破壊ダンス】と【舞蹴る】というスキルで撃退することに成功する。
そしてそこに現れた謎の老人から、あのカジノはイカサマを使って客に借金をさせて手駒に引きずり込む悪徳カジノだと知る。
僕はルピシアの身を案じて老人と共にカジノに戻り、結果的に彼女を助けることになるのだが。
冒険者パーティを『遊び人』だからと追放された僕だったけど、まさか億万長者になって英雄にまで成り上がるなんて、この時の僕にはまだ想像もつかなかったのである。
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