クラリネット
BWV 826 - Partita No.2 in C Minor
を 聴きながら
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クラリネットは、小さく蠢く。窓の外から小さな紅葉がちらりと入り込みクラリネットは首を傾げる。
クラリネットの頭の中には、小さな空洞しかない。
クラリネットは、感情を持たない。知能を持たない。持たないということだけを知っている。クラリネットは、自らの頭の中が空洞だと知っている。
知っているのに何故だろう。知っているのに、何故だろう。
クラリネットは、首を傾げる。
常に息をするということは、常に息をしなければならないということだ。
そこに知能がなくとも、そこに感情がなくとも、常に息をするということは、常に息をしなければならないということだ。
息をすることをやめることは出来ない。クラリネットは、頭を抱える。
小さな紅葉は、ひらひらとクラリネットの右手に落ちた。
息をし続けているからこそ、生き物だと言える。
息をしなくなれば、それは生き物とはもはや言えぬものだろう。
クラリネットは、首を傾げる。
いつまで?それは、いつまで?いつまでもだ。
クラリネットは、ただただ、首を傾げる。




