深夜徘徊と化け物屋台
一時間企画「深夜徘徊」「かき氷」「ダークヒーロー」「秘密基地」でした。
秘密基地要素はどこ? になってしまったけど楽しんでいただけると幸いです。
うだるような暑さの中、僕は目をさました。窓の外を見れば真っ暗、見事に深夜みたいだ。どうやら僕はあまりの熱帯夜のせいで深夜に目をさましてしまったみたいだ。
「……イヤな夢だったな」
この暑さのせいか黒い影に追いかけられて最後には黒い影に包まれて喰われる、そんな悪夢を見たのだ。二度寝する気にもなれず、僕は深夜に外に出た。いわゆる深夜徘徊というやつだ。
──深夜徘徊と化け物屋台──
家の外に出て大通りに向かう。この時間でも幾分か明るいのはコンビニなんかが点在しているからだ。深夜徘徊するのには絶好の場所だろうと思った。
なんとなく歩いていると、ふと誘われるように大通りの裏道に入った。こんな道は知らないはずなのに、まるで知っているかのように、何かに誘われるように足を動かす。暗闇が一段と濃くなった気がした。
「……おかしいな、さっきまで聞こえてた電球の音が聞こえない」
不気味に思った僕はなぜか入り込んでいた裏道を引き返そうとしたけど、かなり進んでしまっていたこともあってこの先に進んだ方が早く大通りに出れると思い直して一段と暗い道を歩いて行った。
「あ、この辺は知ってる。こんなところにつながるんだな」
見知った道に出たことで一息ついた僕はそのまま大きな道を利用して帰ろうと考えていた。そんな僕の目に入ってきたのは一つの屋台だった。
「こんなところに屋台なんてあったっけ……?」
不思議に思いながら見ているとどこか懐かしいような気がした。心の奥にしまい込んだ何かを撫でられているような、そんな不思議な感覚。こんな場所に屋台なんてなかったはずなのに、見たことなんてないはずなのに、どうしようもなく懐かしい。そんな何かがあった。
僕は気が付くとその屋台に引き付けられるように足を向けていた。お金もないのに……と思いながらも足は止まらなかったし、止めようとも思わなかった。
屋台ののれんをくぐると、カウンターが一つといすが数席の少し古い内装が目に入ってきた。カウンターの向こうには人の形をした影がゆらゆら揺れていた。僕はその影法師のような何かをぼぉーっと見つめていると不意に声がかかった。
「少年、こんな時間にどうしたんだ」
「え、あ、眠れなくて……」
そう言いながら声のかけられた方を見るとおかしな人が居た。こんな暑い中で全身真っ黒の黒装束、そんな服に赤で刺し色がされているそんな奇抜な格好をした男がいた。
「眠れないのか、まあそうだな。こんなにも熱帯夜だからな」
そんな恰好をしているくせに発言はまっとうなことを言う男。そのギャップに驚いていると男は僕にやけにフレンドリーに続けた。
「まあ、この屋台を見つけてしまったってことはそういう事なんだろう。これも何かの縁だ、かき氷をごちそうしてやるよ」
「え、悪いですよ」
「いーから、子供は素直に甘えてろ。おーい、マスター! こいつにかき氷! あとアイスコーヒー追加で!」
カウンターの向こうの影法師が、かしこまりましたとばかりに揺らいだ。
男はかき氷をおごる代わりに面白い話を聞かせろと言ってきた。横暴だと思いながらもすでに影法師は氷を刻み始めているのでなんとなく逆らえなかった。
「でも、そんな急に面白い話なんて思いつかないですよ」
「じゃあ、少年がここに来るまでの話でもいいさ。とにかく何か話せ。一人で飲むのも寂しいと思ってたんだ」
「飲むって……アイスコーヒーじゃないですか」
「アルコールはダメなんだよ。明日の夕方から仕事なんでね」
「はあ、まあそれくらいなら」
僕はこの屋台に着くまでの経緯を話した。シャリシャリという音をBGMに何となく何かに引っ張られるようにここに来たことを話す。
「そうかい、そうかい。……無意識か、覚えてんのか?」
「え、今何か……」
大きくうなずいた後男が何か言ったが聞き取れず、尋ねようとしたらコトリという音にさえぎられた。かき氷が来たみたいだ。
「マスター、サンキューな」
ゆらゆら揺れることでお辞儀をしているかのような影法師だったが、僕の関心はそこになかった。かき氷の上にかかっていたシロップが真っ黒だったのだ。
まるでこの夜の闇を象徴するようなかき氷に驚いていた。
「食べないのか?」
「あ、いたただきます」
それ以上に驚きだったのは、僕自身がこの真っ黒なかき氷を安全だと確信していることだ。僕はこのかき氷を食べたことがある? やけにこの屋台にたいして懐かしさを覚えると思っていたがその思いがこの黒い闇そのものなかき氷を見た途端より強くなったのだ。
食べたら何か思い出すだろうか?
「何考えてんのかしらねぇが氷が溶けるぞ」
そんな男の声に従って漆黒を口に運んだ。甘やかされるような冷たい甘さが口に広がった。何か思い出せそうだけど、思い出せない。そんなことを思いながら食べていると徐々に眠たくなっていった。このままじゃ帰れない、そう思って起きていられるように気を張るけどすかさず影法師がゆらりと頭に絡みついて来た。
「マスターが寝ても良いってよ」
まるで撫でられているように感じながらぼぉっと眠りに落ちて行った。起き出す原因となった悪夢のような黒い影のようでそうじゃない。マスターの影に触れながら、僕は眠りについた。
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「マスター、それくらいにしておかないと少年が戻ってこれなくなるぞ」
屋台の中で男と影が少年を挟んで会話をしている。影法師はゆらゆらしているだけだが会話は成り立っているようだ。
「あ、戻れなくてもいいじゃん? ダメに決まってんだろ」
「二度あることは三度ある? 確かにそうだが、少年はここに来るのはもう四度目なんだろ?」
男が言うように少年がこの屋台に訪れるのはもう四回目なのである。このお屋台は心に傷を作ったものが訪れ、傷を癒せれば屋台の事を忘れ現実に戻っていく。癒せなければ影法師に取り込まれて、優しい夢を見続けることになる。そんな化け物の屋台なのだった。
「少年はまだ大丈夫なんだろ? ここで寝るくらいには疲れてるみたいだが夜明けまでには帰れるのが分かってんだろ?」
マスターと呼ばれる影法師は揺れる。ここに来るたびやつれてるから早く楽にしてやりたいと言っているようだ。
「そうやって焦った結果が俺だろうが! 無理に干渉しようとするなよ……俺らは化け物なんだからな」
影法師が揺らぐ。
「ここの事を薄っすら覚えてる? それは俺も驚いたが。まあ、ちゃんと心の傷がふさがれば忘れるだろ。ここはそういう場所なんだからな」
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僕は目が覚めたら部屋の中で朝になっていた。さっきの事は夢だったのだろうか? そう思いながら空を見上げるとバカみたいな快晴に灰色の雲がぽっかりと浮かんでいた。
ホラーとジャンルで悩んだけど、そんなに怖くないよね?と思ってローファンタジーにしました。