院長は子供にたかるようです。
「院長がもどりましたよーっと」
茶の間の扉を開けつつカルキのお菓子を食べる子供達へ声をかける。
「シルトとり過ぎ」
「フロックのやつ、でかいからいいじゃん」
「ふぃんちょうおふぁえりあむあむ」
案の定おやつに夢中になっている子供達。リラだけは返事をくれたが視線はこちらを向いていない。今日のお菓子はアップルパイのようだ。
「カルキー、院長にも甘いものくれー」
「残念、今出てるので最後だし」
「マジか」
ひょっこり厨房から顔を出したカルキは言うが
テーブルにはすでに空になった大皿しかない。もちろん、子供達の皿を除けば、だ。
「いいなぁ、美味しそうだなぁ」
3人が並んで座る対面に腰を下ろし羨望の眼差しを向けてみる。
「世の中早い者勝ちだぜ、ふぃんちょう」
先ほどまで皿一杯にあったアップルパイの最後の一口を頬張ってシルトは勝ち誇って言う。
「ごめんね、院長。お姉ちゃんのアップルパイは誰にも譲れないの」
リラは世の中の常識と言わんばかりの声色で言うと迷いなく完食した。
「・・・」
残るフロックを無言で見つめてみた。
「・・・」
フロックは食べるのをやめて冷たい視線を向けてきた。が、そんなことは関係ない。私だって食べたい。それがカルキ製の甘いものなら尚更。
「・・・」
「…はぁ、半分だけね」
「フロック!!!」
やはりこの子は話がわかる子だ。感激のあまり普段の3倍くらいの声が出た。
「ただし」
「へ?」
「今度街に行くときは僕も連れてってね」
「「あ、ズルい!」」
訂正。話がわかりすぎる子だった。イニシアチブを握るやいなや、即座に取引に持ち込む。さらにこちらに断るという選択肢がない事も把握しているに違いない。恐ろしい子。まあいいんだけど。
「任せなさい。お小遣いもつけよう」
「「そんな!?」」
「ふっ、三分の二にしてあげよう」
こうしてWinWinな取引を成立させアップルパイにありついた。シルトとリラはひどく落ち込み、フロックはその2人を見てご満悦な様子。それはさておき
「いただきます!」
それはアップルパイと呼ぶにはあまりにも美味だった。
林檎の果肉が大きく、
生地が分厚く、
そして甘さが絶妙すぎた。
それはまさに午後三時の帝王だった。
「馬鹿言ってないで早く片付けるし」
「あ、はい」
「ごちそうさん」
「はい、お粗末様。にしても子供にたかるなんて院長の風上にも置けないし」
「ほかの甘味ならいざ知らず、カルキのお手製なら人類皆こうなるさ」
トゲのある言葉を受けたが、いつも通り軽口を返す。
「ほんと、アンタが誰より子供だし」
そういうカルキだったが少し耳が赤い。つまりあれは照れてる、とそういうことだ。
あれから子供達はすぐに外に駆けていった。
フロックの策略に一枚噛ませてもらおうというシルトとリラにより追いかけられるフロックは若干不憫だった。それにしても昼間に魔物狩りしたというのに凄まじい体力である。
「あ、そうだカルキ。今日の話だけど」
「やっぱり仕事だったの?」
「うん、だから悪いけど今晩また付き合ってもらえる?」
基本的に神様からの依頼はその日の夜中に済ませるようにしている。期日を明確に言われることはあまりないが早く済ませるに越したことはない。
「別にそんなかしこまらなくていいし。あの人来た時点でそうだろうと思ってたし」
「あんまり危険な所には付き合わせたくないけど、一人じゃあんまり自信ないから本当助かる」
「じゃあ今から夕ご飯の支度するから」
そういうとカルキは再度厨房にこもった。
「なにからなにまで頼りになるわ、ほんと」
さて、仕事に行く前に子供達に癒されてこよう。
「おーい!院長もまぜておくれよー」
特にすることのない院長は、中庭で駆け回る子供達に遊んでもらうのであった。
某伝説的漫画の表現をパク…オマージュしたけど大丈夫なのか心配。