子供達はビギナー魔法使いのようです。
ブックマークをされていることに気づき感慨深い気持ちになりました。ありがとうございます。引き続き閲覧いただけるよう精進します!
「確かこの辺りのはずなんだけどな〜」
シルトはそう言いながら先頭でキョロキョロと辺りを見渡す。
「なにがこの辺りなんだ?」
「猪のいる所だよ。この間でっけえ奴見かけたんだ!こーーーんなにでけぇの!!」
そういうとシルトは両手を一杯に広げ大袈裟に言う。
「それだけ大きい猪を仕留められたら、しばらく食べ物に困らないな」
半信半疑ながら軽口を叩く。
「あんだけデカけりゃすぐ見つかると思ったんだけど、ダメだなこりゃ」
「まあ、そう気を落とさないで。見つからない日もあるさ」
がっかりと肩を落とし諦めを口にしたシルトを慰める。が
「歩いて探すのを諦めただけだよ。フロック、あれ頼むよ」
「うん」
「…何する気?」
前に出たフロックがこちらに向き直ると
「飛んでくる」
「は?」
そういうとフロックはフワッと浮き上がりビューッと上空に飛んでった。ぽかん、と眺めてるとフロックはゆっくり降下してきた。
「ただいま。あっちに居たよ」
「よし!サンキューフロック!いくぞ!!」
「うん」
「リラも」
そういうと3人はダッ!と駆けていく。
「ちょ!…っと待って皆」
慌てて3人についていく。足速いなおい。
しばらく走ると
「いた」
フロックがそっと呟き木陰に隠れる。それに習い身を隠すと確かにいた。ただそれは猪などというカワイイものではなく
「…アーマー・ボアじゃん」
「「「猪じゃないの?」」」
「魔物だからね!?」
小声で叫ぶという器用な真似をしつつ、魔猪に目を向ける。確かに猪ではあるが、その外見は堅牢な鎧で武装した魔物であり彼らの突進は城壁をも砕く凶悪なもの。更には通常よりも明らかに巨体で且つ3頭ともなれば冒険者ギルドに任せるべき案件である。というのに
「じゃあ1人1頭な」
「失敗しないでね」
「フロックこそ」
この子達、やる気である。
「待って待って。あれ、倒すつもり?」
「んだよ水差すなよ院長〜」
「心配しなくていいよ」
「ん、大丈夫」
「いや、え、えぇ〜…」
見るからにやる気に満ちた様子の3人になにも言えなくなったので、逃げる算段をつけつつ見守ることにした。
「じゃあまず俺がいくからな」
そういうとシルトは光を纏い始めた。なにこれ眩しい。直視出来ないほど輝くシルトにアーマー・ボア3頭も気付く。あちらも眩しい為か動けないでいるようだ。数瞬後光が収まり始めたシルトを見ると、ピカピカに輝く厳つい鎧を着て立っていた。
「いっくぞぉー!」
大きな剣を握るよう構えたその手には光が収束した様なエネルギーの塊が発現しており、またも眩い光を放つ。
「おらっ!」
気付けばアーマー・ボアの前に、恐らく上から下に振り下ろしたと思われる格好のシルトがいた。
「は?」
アーマー・ボアは左右に綺麗に断たれ、その切り口からは血が出ることもなく倒れた。
残された2頭はすぐさまシルトの横を駆け抜けた。野生の勘、あるいは生存本能が働いたのだろうか。一目散に逃げ出す。が、その2頭は駆けなくなった。一方は何かに押し潰されるかのように足取りが重くなり、一方は何かにぶつかったかのような挙動を見せる。
「逃がさないよ」
「ごめんね」
フロックが手を下に振るうと見えない何かでペシャンコに、リラが手を上に振るうと見えない何かで串刺しに、それぞれ無残な魔物と成り果てた。
「は?」
ドズン!とリラがやったらしいボアが倒れた。
「バッカ!フロックお前、潰したら食べれないじゃんかよ!」
「2頭で充分だよ。カル姉が大変だし、何より食べるのが追っつかない」
「売れば儲かったかも。フロックは反省」
「1頭で充分じゃないかな…って、そうじゃない」
フロックが助かったって顔してたけど、違うそうじゃない。
「皆、凄まじい魔法を使ったように見えたんだけど」
「おう!勇者みたいだったろ!?」
「うん、超カッコいい…じゃなくて!」
「潰したのは良くなかった?」
「いや、あれもなかなか…ではなくて!」
「院長…怒ってる?」
「全然怒ってないよ!?でも動揺してる!!」
てっきり皆火の球とか、風の刃とか、氷の塊とかそんな可愛い初級魔法を使うと思っていたところに勇者パーティも青ざめる程の特異魔法。そう、特異魔法なのだ。恐らく光属性のそれも、恐らく重力魔法のそれも、更には何か分からないそれも全部が全部特異魔法であった。そんなことはつゆ知らず3人は褒めて褒めてと駆け寄ってくる。
「数年後には我が院から勇者パーティ誕生だな」
そう呟き3人の気が済むまで撫で回すと、ボアの遺体を回収し元気一杯に帰路につくのであった。
最初からインフレが過ぎました。後悔してます。