三葉先輩との昼休み『新しい風が舞い込む場所に三つ葉の華が咲く』
まさかの帰ってきてからの即寝落ち、昨日投稿出来ず、本当に申し訳ありません……
「あの……、相太くん……。あなたをここまで引っ張ってきておいて今更な話なんですけど、麗奈さんのことは本当によろしかったのですか?
何やら二人には只ならぬものがあったようにも、今になって思えば感じられるのですが……。
もしかして今回の私のお誘いは、相太くんの迷惑になっていましたか?」
と、屋上の扉を開け二人並んで屋上の床に腰を下ろしたタイミングで、三葉先輩は唐突にそのようなことを、少し悩むような仕草を見せながら俺に尋ねてきた。
ここは私立第一学園の屋上。基本的には一般向けに解放されている場所で、昼休みや放課後、更には休み時間などには人気の休憩スペースである。
しかし今日は天気が良くて、日光が厳しいからなのだろうか?
その屋上には、人が俺たち以外には誰一人としておらず、珍しく閑散とした様子を見せている。
そんな中でも数少ない光の当たらない場所である、屋上扉付近にある軒下の部分、その場所に俺と三葉は座る事にしたのだが……
そこに座ったタイミングでの、先程の質問であった。
やはり三葉先輩には、麗奈とのことを隠し通すことは出来ないようだ。
まあ別に完全に隠し通そうとは思っていなかったのだが……
「いえ……、むしろあそこで先輩が俺のことを引っ張って、外に連れ出してくれたことで、色んな意味で救われたというのが正直な所です。
多分まだ何も説明していないので、今言われてもよく分からないとは思うんですが……。
それでも!あのとき俺を引っ張ってくれて、俺に一歩踏み出す勇気を与えてくれて、本当にありがとうございました!」
と、俺はそんな言葉と感謝の気持ちを胸に、三葉先輩に向かって深々と頭を下げる。
ホント俺は、この人には朝から助けられてばかりだ。
俺からは何も伝えられていないにもかかわらず、俺のことを前に押し出してくれる。
泣いていた俺のことを心配して、その背中を追いかけて来てくれる。
そんな三葉先輩にならば俺のことを話しても……。
そのとき感じた想いについて伝えても……。
俺はそんな想いを胸に……、何も言わずただじっと俺からの言葉を待ってくれていた先輩に伝える。
「すいません……三葉先輩。ちょっとだけ俺たちについての話を聞いて貰えませんか?
俺と麗奈の話、その出会いから別れまでのお話を……。」
「はい、もちろんその話を聞かせて頂きます。
このような少し強引な形になってしまったことは、申し訳なく思いますが……、それでも私は相太くんの事について知りたいです。
それで……、あなたと麗奈さん。二人の間に何があったというのですか?」
三葉先輩はそう言うと、こちらの方に顔を向け、真剣な様子で俺の話を聞こうとしてくれる。
その少し生真面目すぎる姿勢に、少しだけ微笑ましくなり……、その反面少しでも三葉先輩に心配をかけたくないと、そんな風にも感じてしまう。
しかし俺はそれを口にする。
それを求める人がそこにはいるから。
「そうですね、まずは俺と麗奈の出会いの所から話しますね。
俺と麗奈はまず、中学のときに図書室で出会ってーー」
・・・
・・
・
俺はそう話し始め、麗奈との初めての出会い……、中学2年生の時、放課後の図書室で初めて麗奈と話をしたというところから、3年生の中盤ぐらいで付き合い始め、高校生になってから数ヶ月……、昨日、突然の別れを切り出されたことを含めて、全てを三葉先輩に伝えた。
初めて麗奈が俺に笑顔を見せてくれた時……、その笑顔を見て、確かに感じたこの胸の高鳴り。
いざ麗奈と付き合う事になり……、自分でも馬鹿みたいに嬉しかったこの胸の喜び。
最後に麗奈に別れを告げられて……、何にも言うことの出来なかったこの胸の後悔。
それら全てを含め麗奈と過ごした時間、その思い出全部を、今の俺が伝えることの出来る最大限の言葉をもって、それらを三葉先輩に伝えたのだった。
「……という事が、不覚にも俺が今朝先輩の前で泣き顔を見せてしまったその理由という訳です……。
でもこれは蓋を開けてみれば簡単な話で、俺が身の丈に合わない恋をして、そして振られてしまった……というだけの話なのです。
それでこの話についてですが……、この話に対しての正直な先輩の感想を言ってもらって構いません。
こんな結果、自分でも始めから分かってた事なんですから。俺と麗奈ではどうしたって釣り合う事は無いって。
どんなに俺が麗奈の隣に立てるよう一生懸命に頑張ったとしても、それだけでは麗奈の隣にいる事は出来ないということだって……、始めから分かっていたんで……って、痛っ!」
と、自傷気味に力ない笑みを浮かべながらそう口にした俺に、突然三葉先輩が体当たり気味に抱きついてきたかと思うと……
その身体に俺は力一杯抱きしめられていた。
そして、俺からは表情が見えない位置、俺とは反対側に顔を向けたままで、少しずつではあるが話に対して三葉先輩が感じたことなどを、ゆっくりと落ち着いた声音で話をしてくれる。
「いいですか?相太くん?確かに大好きだった人と別れてしまって、それがとても悲しいことだという事はもちろん私にも分かります。
ですが……、そんな風に大好きだった自分の事を卑下して、その為に頑張ってきた自分の努力でさえ自ら否定してしまうということだけは、絶対にやめましょう。
確かにそんなあなたの麗奈さんに対する努力、それは彼女の目には映ってはおらず、一見その頑張りは無駄にも思えるかもしれないです。現に彼女と別れてしまっている、今のこのタイミングでは。
ですが……、あなたのその頑張りは意味のない事であるはずがない。その頑張ってきた全てが無駄であるはずがないのです。」
そう言って俺の事を優しく抱き締めてくれる三葉先輩は、ゆっくりと俺に教え込ませるように……
まるで母親が子供に大切なことを教えてくれるかのようにして、その言葉一つ一つに愛情を感じさせるような、そんな優しい声色で尚もその言葉を紡ぎ続ける。
「なぜなら、あなたのその頑張りを間近で見て、無駄とは考えなかったからこそ、相太くんの妹さん、その静恵さんという方はそのような嘘偽りのない……、あなたへの肯定のメールをわざわざ送ってきてくれたのでしょう?
それにクラスメイトの和樹さんという方、その方もあなたの麗奈さんへの努力を知っていたからこそ、相談に真剣に答えるという形で、あなたのその努力を認めてくれていたのでしょう?」
と、そう言った三葉先輩の言葉を聞いて、俺は初めて俺を認めてくれていた人たちの存在を認識した。
そうだった……。
俺の努力を見てくれていた人、その頑張りを認めてくれた人たちが、ちゃんと俺の近くには存在していたんだ。
なのに……、なのに俺は、そんな風に俺の事を認めてくれた。俺の努力を肯定してくれていた人たちの想いまで、俺自身が否定してしまっていたんだ……。
俺は先輩のその言葉を聞いて、その考えに行き着いた瞬間……、自然とそのことに対する謝罪の言葉、それとそのことに気づかせてくれたことに対する感謝の言葉が口をついて溢れていた。
「ごめんなさい……。そんな風に自らを否定してしまって……、ですが、ありがとうございます……。そんな単純だけど一番大切なことに気づかせて貰って。」
俺はそう口にすると、その言葉通りの感謝の気持ちを込めてぎゅっと先輩の身体を強く抱きしめる。
俺が今胸に感じている三葉先輩への感謝の気持ち……、その少しでも先輩に届いて欲しいという願いを込めて、その抱きしめる手に力を込めた。
するとそんな俺からの感謝の気持ちが、先輩にもちゃんと届いたからだろうか?
先輩もそれに応える形で俺の事を強く抱きしめ返してくれたかと思うと、さらにお母さんを思わせる優しい手つきで、俺の頭をさわさわと撫でてくれたのだった。
そうして俺たち二人は少しの間抱きしめ合い、お互いの存在を確認しながら優しい時間を過ごした。
その間にも、屋上には優しい風が吹いていて……
改めて隣にこの人がいて良かったと、この人に真実を打ち明けられて本当に良かったのだと俺は心からそう思うのだった……。
甘々と言っていいのか、微妙なのですが…、次話の前半は甘い展開だと思うので許してください…
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