大切にするという事/誰かに向けたアドバイス『寄り添うカタチ・大切にしていきたい言葉
少しだけクラスメイトとの交流を描いてみましたが……色々と難しいです。
「では相太くん。私は2年の教室に向かいますが、くれぐれも猫井さんとのお約束……忘れないようにお願いしますね?
私も具体的には言わないつもりでいますが、何処と無くそういう関係を匂わせる感じでいきたいと思います。
それでは……またお昼休みに会いましょう。今日は一葉と一緒にそちらの教室に向かいますので。」
「はい!分かりました!こちらも何処と無く匂わせるだけにしようと思っています。猫井会長の指示とはいえ、無神経に言いふらす必要はないですし。今のタイミングでは、三葉先輩の方にも悪いウワサが立ちかねないですしね。」
俺と三葉先輩が2人で学校に登校し、学年が違う為別々の階で別れる事になった丁度そのタイミングで、三葉先輩は俺の手を離すとともにそう確認の意味も込めて念を押した。
俺と三葉先輩はこの体育祭期間中。訳あって男女のそういう関係を偽装する事になっているのだが……今朝の登校時を含め、とてつもない注目を俺たちは集めていた。
そのため、この後2人別れてそれぞれの教室に向かうつもりではあるが……そこで2人の関係についての質問を多くされる事は目に見えているので、予め2人でどのように対応するのかを話し合っていたのだ。
そして、そこでは直接先輩に言っていなかったが、先輩の悪いウワサを出来るだけ作るまいと、その旨をここで伝えたのだがーーどうしたのだろう?
三葉先輩はそれまでの笑顔から一転、頬をぷくっと膨らませ、『私は怒っています!』という意思を大変分かりやすく、その顔に表しているのだ。
それに俺は思わず、「ど、どうかしまたか?三葉先輩。何か俺……変な事言いましたか?出来るだけ先輩の悪いウワサを立てないようにって……そう思ってるんですけど。」と、少し困惑しながらそう先輩に尋ねてみた。
すると、三葉先輩は相変わらず頬を膨らませたまま、でも俺の事をしっかりとその目で捉えながら先輩は俺に話す。
「そう!それですよ!相太くん!ここまで一緒にお話ししてきた中でもずっと私は感じでいましたがーーいつも相太くんの考えの中には、いつだって相太くん自身がそれに含まれていません!麗奈さんのときもそうでしたが……今だって私の心配ばかりで、自分にも悪いウワサが立って、嫌がらせを受けてしまう可能性を考えていません!
……もちろん、そうやって相太くんが私の事を心配してくれてるのはすごい嬉しいんですけど!」
三葉先輩はそう言って破顔し、俺の方にスッと手を伸ばすと「相太くんが私にそうであるように、私だって相太くんの事が心配なんです。」と続けながら、大切なものを扱うような、そんな優しい手つきで俺の頭を優しく撫でてくれる。
さわさわと撫でるその手に、俺は思わず顔がニヤけてしまいそうになるがーーなんとか気を引き締めて、顔をニヤけさせないようにと思い留まる。
「(先輩は本当に俺の事を心配してくれたから、わざわざこんな風に言って、俺を安心させようとしてくれているんだ。
それを真摯に受け止めて、その気持ちを大切にしないと、一葉ちゃんや静恵ーーそれに三葉先輩本人にだって顔向け出来なくなる。本当に……ありがとうございます。)」
それに静恵もいつもよく言っているのだ。「お兄ちゃんの計算には、いつも自分がその勘定から抜けてる。もっと自分の事を大切にして?」と。
それを俺はいつも、『自分は静恵の兄貴だから。』『男だから……多少は仕方ない事。』だと、あまりそれを気に掛けていなかったのだがーーそれは違った。
俺が自分を大切にしない事でそれに傷つく人がいるという事を。自己犠牲の精神がときに、それを想う相手の事まで傷つけてしまうという事を。ーー俺は三葉先輩に直接指摘され、それによって静恵からの言葉をふと思い出した事で、その事を初めて自覚した。
そして俺は、思わぬ先輩の優しさに上手く言葉が思いつかず、ただ頭を撫でられるだけになっていても、三葉先輩はそれについては何も言わずに微笑み、その言葉を紡ぐ。
「ありきたりな言い方にはなりますが、私は確かに相太くんの味方です。相太くんが正しい方向に向かえば私はそれに連れ添いますし、逆に間違っていればそれを伝えて、私も一緒に考えてそれに立ち向かいます!
だからどうか……。私や他の人たちだけを考えるのでなく、どうか自分の事も考えて……。ーー自分も他の人たちと同じように大切にしてください。
それだけが私の唯一感じている、相太くんの直さないといけない所だと……私はそう思っています。」
微笑みながらも真剣な眼差しで紡がれたその言葉は、言葉の意味を理解する以上に、心に直接染み渡るようなーー心に直接訴えかけられているような、そんな暖かな言葉だった。
改めて、俺はこの人と出会えて、こんな風に本音を話せる関係になれて本当に良かったとーー心からそう思った。
だから俺は「ーー本当にありがとうございます。先輩。ではまた、お昼休みに。」と言葉短くそう言って、先輩の返事も待たず、そのまま早足で自身の教室に向かう。
ーー笑顔に濡れたその顔を今度は恥ずかしくて見せられなかったから……。そして、もうこの人の前では、涙は必要ないと心からそう思ったから……。
・・・
・・
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「「「「一体どういう事だぁ!!相川ぁ!!」」」」
「あー……。色々と言いたい事はあるが……まあ、みんな。一旦落ち着いて、一気に俺を取り囲むのは止めてくれ……。
特に西田。その振り上げた英和辞典をサッサと下ろせ。昨日の実行委員に選んだ事を俺に伝えた時の、あの殊勝な態度はどこに行ったんだ……?」
一体この落差はなんなんだろうか?
先程三葉先輩からの優しくて暖かい、胸の温まる言葉を聞いてから早10分。俺が教室に入った瞬間、俺を取り囲んで来た面々(主に非リア同盟とか言っていた男子たち)を前にして、先程から自分の顔がスンと真顔になっているという事を、実際に鏡を見ていなくてもハッキリと分かった。
前は「彼女と別れてざまぁ!」などと散々な事を言って、「俺たち。やっぱり仲間だよな。」「もちろん相川はこちら側に戻ってくるって……みんな信じてたぞ!」と、そんな腹立つ事を言っては喜んでいた奴らが、ここまでの手のひら返しからのこのキレっぷりとは……。
ーー相変わらず、残念を地で行くような奴らだ。
そして一応の説得に応じた西田たちは、その手に持つ武装(英和辞典)をしまうが、俺への包囲網は解いてくれない。
またその包囲網の中の1人……クラス委員長の木村が、俺に鼻息荒く尋ねてくる。ーー普通にキモい。
「あ、相川!お、お前……あの大岡先輩と一体どこで知り合ったんだよ!2年の、それも学校で1・2を争う美人と!
黛のときも思ったけど……なんでお前だけ、そんな美女に縁があるんだよ!!羨ましくて、妬ましいけど……。何かコツがあれば教えてください!お願いします!」
と、またも見事な手の平返しを炸裂させながら、ついでに土下座までかまして俺に頼み込んでくる。
それを見て俺はドン引きしているのだが、なぜか他の奴らもそんな木村に続いて、「俺たちにもお願いします!」と、食い気味にみんな仲良く土下座をキメている。
流石にそれには、俺たちの事を遠巻きに見ていた女子たちも普通にドン引きだった。
俺はこの雰囲気が居た堪れなかったので、木村たちに土下座を止めてもらい、1つだけアドバイスを……「参考になるか分からないけど。」と、先に断りを入れてから話す。
「まあ、そうだな。とりあえず、お前たちに言える事は今みたいにな気持ち悪い事を止めろって言いたいけど……真面目にアドバイスするなら、相手の事を考えて、それから行動するって事かな。平たく言えば、『相手の気持ちを考えて行動しろ』って事なんだけど……1つ。大切なのは、相手を考えると同時に自分もちゃんと考えて行動するって事だな。
ーーいちおうこれが、俺の経験則……なのかな?」
これは先程三葉先輩から教えられた大切な事で、これからの自分が先輩と共に歩く為、共に成長していく為にはとても大切で必要な事だと、そう思ったのだ。
コイツらの場合はそれ以前の話かもしれないが、相手の気持ち、ひいては周りの人たちの気持ちを考え、自分たちの事を考えて行動すれば、少なくとも今のような変な行動をせず、ハナから女子たちから距離を取られるような事にはならないはずだ。
そうすれば、コイツらにもきっとーー
俺はそんな気持ちで、意外にも真面目なアドバイスを木村たちにした所……ガシッ!
「すまなかった!!お前がそんなに俺たちの事を考えて、こんなにもしっかりしたアドバイスまでくれるなんて……。
俺たちはお前の事を完全に誤解していた!ありがとう!相川!お前のアドバイス、しかと胸に焼き付けた!」
木村たちはなぜか感激した様子で俺の手を握り、「心の友よ!」などと言いながら、感涙に咽び泣いている。
すると周りからは、今度は別の意味でコチラに注目が集まってしまっている。……もちろん、悪い意味でだ。
それに俺は『こういう行動が、気持ち悪いと女子から避けられる原因なんだけどなぁ』と、嘆息しながらも、とりあえず角が立たないようにと、その握手には苦笑いで応じておくのだった……。
そしてその後、少し遅めの登校してきた和樹が俺の事を呼び出し、和樹の口からあまり聞きたくなかった事を聞いてしまった話は……また次の機会にしておこう。
それも含めて俺にはーーいや、俺たちには、考える事も時間もまだまだ必要なんだから……。
ご覧いただきありがとうございます。
少し重くなり過ぎないように、クラスメイトとの交流などを書いてみました。
前述の通り……すごい難しかったです。
この後も本作は続きますので、よろしければご覧ください!あと、ブックマーク・評価などもお願いします。