似た者同士はどちらも同じ『繋いだ手から伝わる気持ち』
ちょっと短め?です。
「……………。」「……………。」
いつもとは違う通学路。静恵と一葉ちゃんを待たず、ひとけのない廃れた商店街を2人歩いている俺と三葉先輩は、先程置いてきたお互いの妹の事を頭で考え、その事以外何も考えられない状況であった。
俺は不意に静恵が泣いていた事、三葉先輩は一葉ちゃんの事を、そしてもしかすると……静恵の事も純粋に心配してくれているのかもしれない。
しかしそのどちらにせよ……俺は静恵の涙を見てしまった事で、気が気ではなかった。
そんな俺は自分でも信じられない程に、今の静恵の状態が気になり、『先程は了承してしまったが、今からでもあそこに戻ろうか?』と、そこまで頭の中で考えた所でーー
ぎゅっ……。
不意に、俺の手を握っていた三葉がその手に少しだけ力を入れて、驚いて振り向いた俺の事をじっと見つめてくる。
その瞳には俺を責めるような色はなく、どこまでも真っ直ぐに、ただ俺の事だけを見つめていて……俺はその澄んだ美しい瞳に、失っていた冷静さを少しだけ取り戻す。
ーー今の俺たち、2人の間には言葉は無かった。しかしその見つめ合う瞳、繋いだ手から伝わる2人分の鼓動と温もりが、2人の間に見えない糸のようなものを繋いでくれているように感じられて……言葉で伝える以上に、お互いの気持ちをよく理解する事が出来た。
2人の事を信じよう。三葉先輩はそう言った。今の静恵には一葉ちゃんがついているし、2人は大丈夫だと確かに三葉先輩はそう言ったのだ。
そしてその思いが、今も繋いだ指越しに伝わっている。
「(そうだ……。一葉ちゃんが自分から任せてと言ってたんだ。本当にそう口にした訳ではないけど、しっかりとした目でちゃんと……。なのにそれを間近で見ておきながら、俺が一番彼女の事を信じてあげないでどうする?
それに……心配なのは先輩だって同じだ。こんなにも義理堅い、人の気持ちに寄り添う事の出来る三葉先輩が、実の妹の事を心配しない訳がないんだよな……。)」
改めて、三葉先輩の言葉以上の想いのお陰で落ち着いた俺は、心配しているのはなにも自分だけではないという事に気が付いた。
もちろん先輩も一葉ちゃんのことが心配だし、どうなったのか分からないのも俺と同じなのだ。
そして、そこまで頭で考えられたのなら、俺がこの後するべき事はもう分かっている。
「ありがとうございます。三葉先輩。俺が1人焦っていても仕方ないですよね……。今は一葉ちゃんと静恵、2人の事を信じて、俺たちは俺たちが今すべき事をしましょう。
まずは……そうですね。そろそろ学校行きましょうか?このまま立ち止まっていては遅刻してしまいますし。」
と、俺は改めて三葉先輩の気遣いに感謝しつつ、まだ始業時間まで余裕があるが、出来るだけ余裕を持って行こうと思い、再び止まっていた登校への歩みを進める。
すると、それを聞いた三葉先輩は「そうですね。そろそろ行きましょうか。」と言って、ニコッとこちらに可愛い微笑みを見せてくれるのだった……。
そして、俺たちが歩き始めてから少しして、2人のスマホが同時に着信音を響かせたのでーー2人顔を見合わせ、それを同時に確認してみると……
『こっちはもう大丈夫だよ。お兄ちゃん。ホント心配させてごめん……。ちゃんと後にでも説明するね?
それと、私は一葉ちゃんと途中まで一緒に登校するから、こっちの心配はしないでね?あっ!あと……三葉さんによろしく言っておいてね!お兄ちゃん!行ってきます!』
『こっちは無事元気になってくれたよ( ^∀^)
静恵ちゃんとも仲良くなれたから、私今日は静恵ちゃんと一緒に行くね(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
それと、お姉ちゃんから相太さんによろしく伝えておいて!じゃあ、行ってきます!』
と、どちらも大丈夫だったとの連絡が俺と三葉先輩の2人共に……それも同時に入ったのだった。
そして、静恵の突然の一葉ちゃん呼びや意外にも可愛らしい絵文字を使っている一葉ちゃんのLINEなどーー色々と気になる所はあるのだが、唯今の俺たち兄・姉が言える事は1つだけ。
「「よかったぁぁ(です)……。」」
と、2人の無事を心底安堵する、安心から来る心の叫び、ただ1つだけなのだった。
そして2人同時に肩を撫で下ろし、安堵の声が漏れた事に思わず2人、お互いに顔を見合わせて……
「「ぷっ!あははは!!」」
なんだか2人可笑しくなり、周りの目も気にせず2人して笑い合うのだった……。
・・・
・・
・
「おい!あれ見ろよ!」「あれ?って……えぇ!?」
「えっ!あれって大岡さん!?その隣にいるのは……え?」
「確かあの相川って子……つい先日1年の黛と別れたんじゃ?」「でもあれは確かに大岡さん……。えぇ?これって一体どういう事なの?」「わ、わからない……。なんで?」
ざわざわ……。ざわざわ……。
俺と三葉先輩が2人喋りながらちょうど商店街の道を抜け、『第一高校』と『第一女学院』の共同校区、登校する生徒たちが急に増えだしたあたりで、俺たちがとても注目され、ひそひそウワサされている事に気が付いた。
先輩との話に集中し過ぎて、全然気づかなかった……。
俺は予想以上に周りからの注目を集めている事に戸惑い、少しだけ肩身の狭い思いをしてしまうが……
「えい!」「えっ!?せ、先輩……?」
突然そのような掛け声と共に、三葉先輩が俺の腕にぴたりと抱きついてきて、居心地の悪かった気持ちがアッサリと霧散してしまう。
突然抱きついてきた事も謎なのだが……どうしてこんな、もっと周りから目立つようになる真似を……?
現にそれを見た……主に男性陣の皆さんから、殺意にも似たとてつもない視線の数々を一身に受けている気がする。
そして、俺が「どうしたんですか?」と先輩の方を見ると、三葉先輩は少しだけ頬を赤らめ、俺からプイッと目を逸らしながら少しだけ早口で答える。
「こ、これは……そう!猫井さんに言われている『偽装交際』の一環です!私たちは『第1女学院』の生徒さんから見た理想の彼氏彼女を演じないといけないんですから……。
こ、こうして、腕を組むのも当然の事で、これは仕方のない事なんです!そうなんです!
ーーべ、別に相太くんの気を引きたかったとか、そういう訳じゃないんです……。そうなんです……。」
そして、ごにょごにょと言い訳じみた事を言った三葉先輩は、それを言い終わる頃には耳まで真っ赤になっていて……控えめに言って大変可愛らし過ぎて困る……。
俺にだけ聞こえる声、その照れた声が近過ぎるが故に俺だけ聞こえてしまったという事実が……どうしようもなく恥ずかしくて、そして何よりも嬉しい。
俺だけが、今はこの人の1番近くにいていられる。
俺だけが、今この人の1番近くでその声を聞けて、誰よりも近くで一緒にお話をする事が出来る。
俺はその幸運を腕から伝わる三葉先輩の温もりから実感し、それがとても掛け替えのないものであると、改めて認識する事が出来た。
そして、照れて赤くなった顔を逸らしている先輩に、俺が答える理想の言い訳は唯1つ。
「そう……ですね。これも仕方のない事ですよね?
俺もその理想の彼氏彼女を演じるため……今だけは、俺も理想の彼氏として先輩だけを見る事にしますね?」
そう言った俺は、驚く先輩が先ほど組んだ腕を組みやすいように組み直し、今は三葉先輩だけの理想の彼氏だと自身に言い聞かせて、その言い訳に笑顔で応えるのだった。
そして、俺と三葉先輩はそれまで以上に注目されたまま無事?学校に到着し、1年と2年が別々の階に分かれるその時まで、一緒にお話をしながらそれぞれの教室に向かうのだった……。
あと俺が1年の階で三葉先輩に別れを告げた際、名残惜しそうに手を離した先輩が「では……また相太くんに会いに行きます。」と耳元で囁き、俺の事を再びドキッとさせたのはーー俺だけの秘密にしておこう。
こうして、俺と三葉先輩の間で始まった偽りの恋人関係は初めから多くの衝撃を与え、客観的な関係の変化は多くの葛藤と選択を人々にもたらすのであった……。
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