???『放課後ー生徒会にてー』
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少し短めかも?
「……珠子先輩。それは一体どういうおつもりなんですか?
私が先輩に提案したのは私のお兄ちゃん……いえ、私の兄を相手校の代表として、その誠実な姿勢と態度を実際に生徒会の方々に見てもらい、それを評価してもらう事で、他の生徒たちへ男子生徒の安全性を説明してはどうですか?と、私はそのように珠子先輩には伝えたはずです。」
「ああ、確かにそう言ってたね。静恵はまだ中学生なのに、やっぱり賢い子だなって改めてアタシは思ったよ。
静恵が中学の方の生徒会に、しいてはアタシとの関わりがあってホントに良かったとつくづくそう思うよ。」
ここは下校時間直前の『第1女学院』生徒会室。私と先輩以外の誰もいないその空間で、私はこの学校の生徒会長ーー第1女学院生徒会長である猫井 珠子先輩を問い詰めていた。
しかしその会話からも分かるように、先輩は私の詰問に全く動じた様子はなく、むしろその詰問さえも、1つの会話として楽しんでいるようにすら思える。
「(巴先輩からちゃんと話は聞いたんだから!
珠子先輩がお兄ちゃんとお付き合いしようとしてるって……。今回の合同開催に不安な人たちの事をダシにして、そうお兄ちゃんに提案しようとしてたって事を!)」
私は今朝LINEで巴先輩から送られてきたトーク、その内容を改めて思い出して……とても歯痒い思いになる。
最近、ゾッコンだった彼女に振られてしまい、傷心だった私のお兄ちゃん。その様子にこちらまで心を痛め、どうにか吹っ切れて貰いたいと思っていたその矢先に、降って湧いたように決定した今年の第1高校とわ第1女学院の合同体育祭の開催。
なぜこんな直前でそのような決定がなされたのか、それは私にはよく分からないけど……噂によると相手校とこちらの理事長が急遽決めた事らしい。
その話を聞いた時は、『もしかするとお兄ちゃんと一緒に応援なんか出来ちゃうかも?』なんて、そんな風にお気楽に考えていたんだけど……臨時に行われたそれについての会合で、その状況が一変した。
なぜなら、会合で珠子先輩の口からお兄ちゃんの名前が相手校の代表として、不意に上がったのだ。
「静恵のお兄さんの相川 相太くんって、確か第1高校の生徒さんだよね?」と、会合が始まってすぐの、少しの雑談の時間に。それも珠子先輩から私を名指しで……だ。
勿論雑談の範囲の話だと私は思い、その事実を肯定して、「体育祭の休憩時間なんかに、一緒にご飯を食べれたらいいですね?」なんて、みんなに向けてそう言って、その場ではそれで良かったのだけど……。
男子生徒への不安感についての話題で、再び珠子先輩は私にお兄ちゃんについて話を振ってきたのだ。
それも、私が不安な生徒への対応について提案をする状況で、男子生徒の招待を提案した丁度そのタイミングでだ。
「(周りの子たちも気にしない程度の自然な話の入り方だったし、みんなも特に反対せずにーーむしろ、私のお兄さんなら大丈夫って歓迎する雰囲気すらあった。
相変わらず、珠子先輩は油断も隙もない人……。)」
思い出してみても、あの会合はそもそも始めから色々と変なものだったのだ。私の席がいつもと違い、珠子先輩の対面だった事。それに話を振られる事がいつも以上に私に多かった事など……。
思い出すと、はなから珠子先輩はお兄ちゃんをこちらに呼び出す気まんまんだったらしい。
私はその時から仕組まれていた事だと、それに今の今まで気づかずいた事に歯噛みしていると……
「まあその様子だと、色々と知ってるみたいだから、あえて多くは語らないけど……キミのお兄さんには体育祭期間中に交際して貰う事に決定したよ。
静恵には事後報告という形になってしまったけど、両校の合同開催のために……相太くんには頑張って貰いたいな。」
と、珠子先輩は私が予想した最悪のシナリオを少しの申し訳なさを含んだように聞こえる声で、そう私に伝えてくる。
やはり、そうなってしまったのか……。
私はそんな珠子先輩の企みを見抜けなかった過去の自分に後悔しつつ、どうにか今からでも、それを取り消さないものかと説得する。
「珠子先輩!兄をそんな風に無理やり付き合わすなんて、私納得いきません!
そもそも、兄の誠実さを……ひいては男子生徒の安全性を証明する事に、男女の交際は必要ないはずです!
それなのに……。どうして珠子先輩が兄と無理やり交際をするのですか!?」
この時だけは、自分が下級生で上級生にこんな態度は失礼であるという事を忘れて、私は珠子先輩に詰め寄った。
お兄ちゃんがお付き合いする事……それ自体もあまりいい思いではないし、それ以上にお兄ちゃんの気持ちをーー
しかし、そう言って詰め寄った私に返答する珠子先輩は、なぜかニコニコと笑みをその顔に浮かべていて……
「あははは!やっぱり静恵はそう聞いてたんだね?ね?
アタシが相太くんと体育祭期間お付き合いして、それで反対の子たちを安心させるってやつ……。
まあアタシは、あの子だったらそれでも全然アリだったんだけど……ね?ちょっと事情が変わって、少しだけ予定が変更されたんだよね?まあ、キミのお兄さんに頑張って貰う事自体は何も変わってないんだけど……。」
「……?一体どういう意味ですか?少しだけ予定が変わったっていうのは?」
「ああ、実はね。今日の話し合いにね、意外な人が相太くんと参加していてねーー」
・・・
・・
・
私はその後、珠子先輩から今日の話し合いの概要と決定を聞き、「相太くんによろしく伝えておいて。」との伝言を預かって、今日はそのまま自宅に帰宅した。
そして、帰ってきた私にお兄ちゃんは「おかえり、静恵。」と言い、それに続けて「今朝のお前に話すって約束だけど……少し事情が変わってーー」と、そう話を切り出そうとしたのでーー
「大丈夫だよお兄ちゃん。私ちゃんと知ってるから。
色々思う事はあるにはあるけど……そのお話はまた後日にでもしよっか?体育祭が終わった後とか、時間がたっぷり取れる時なんかにその人と一緒にね。
ああ、それと……。明日……私もついてくから。」
と、私は出来るだけこちらの顔が伺えないように、少しだけ下を向いてそうお兄ちゃんに伝える。
別にそれはお兄ちゃんに対して怒ってるとか、困らせてやろうとか、そんな事をしようとしている訳ではない。
私は唯、少し拗ねているだけなのだ。
私が出来ない事を軽々と出来てしまうその人の事を、そして、そんなお兄ちゃんとその人の事をまた見送る事しか出来ない、そんな自分自身に……。
すると、私が事情を知って怒っているのだと思ったのだろう。お兄ちゃんはあたふたとしながら何か言っている。
余程慌てているのか、夕飯を知らせるお母さんの声も耳に入っておらず、目を泳がせながら必死に私に弁明する様は……わちゃわちゃと慌てる小動物のようで、なんだか少しだけ可愛らしい。
私はそんなお兄ちゃんの様子に破顔して、「冗談だよ。そんなに慌てないでよ。お兄ちゃん。」と、そう軽くフォローを入れ、その後2人で夕飯に向かう。
そしてその夕飯の後、お兄ちゃんが「さっきの冗談って話……。明日の登校についてくるってのも……そうだよな?」と、私に聞いてきた。
その様子は私が「うん。」と頷くと思い込んでいるーーそんな様子に見えたので……。
勿論、私は笑顔で答えた。「ううん。明日はお兄ちゃんたちに私もついていくよ?これはもう、決定事項だからね?」と……。
こうして今日も私の1日は、お兄ちゃんに始まり、お兄ちゃんで終わる……。そんないつも通りのーーでも、いつも以上に濃密で多忙な、そんな1日になったのだった。
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