第1女学院生徒会『漂うは冷たい緊張感ー解きほぐすは温かい紅茶』
ペース遅くて申し訳ないです……。
「あっ!こんにちは〜相川くん。アタシ、『第1女学院』生徒会長の猫井 珠子だよ〜!
わざわざ、こっちの学校まで来てもらって悪いね!」
と、俺の対面にいる女生徒、俺たち『第1高校』とは違う制服を着た女性……『第1女学院』の生徒会長である猫井 珠子さんがそのように俺に挨拶してきた。
しかしその顔はニコニコと笑顔を浮かべていて……とても今から行われる、深刻な話し合いに参加する者の表情ではなかった。
「(軽い!あまりにも挨拶が軽い!おそらく学年は1つ上の先輩だとは思うけど……。
女子校の生徒会長だから、もっとお堅い人を想像してた!
あんま華やか過ぎるのもアレだけど、これはこれでやり辛そうだな……。)」
と、俺は若干失礼な事を考えつつ、猫井生徒会長の挨拶に応える。
「はい。こんにちは、そしてはじめまして!俺は『第1高校』1年B組の相川 相太って言います。
それと今回は緊急事態なので、このくらい全然大丈夫です!
お気遣いありがとうございます。猫井生徒会長。」
と、そう出来るだけ丁寧に猫井生徒会長に受け答え、粗相が無いようにと気を遣う。
いくら相手がこちらにフランクな態度で接してきていても、最初から気の抜けた態度ではこちらの印象を悪くしてしまう。
なんと言っても、今回俺は『第1高校』の男子代表としてこちらに来ているのだがら……。
すると、それを聞いた猫井生徒会長はより一層笑みを深くして、うんうんと何やら頷くような仕草を見せる。
「ふぅん……。やっぱり相川くんは静恵たちから聞いていた通り、こっちに色々気を遣っているみたいだね?
ここに来てから文句1つ言わないし、アタシには失礼の無いようにってずっと気を遣ってる。
ちょっと受け応えが堅いような印象も受けるけど……まあ今回が初の対面だし、それはしょうがないか。」
と、先程までのほわほわした顔を一転、真面目な表情で俺の方を見つめると、そのような冷静な分析を自ら確認するように呟く。
その様子は俺が想像するような生徒会長よりも、遥かに貫禄のある堂々としたもので……
「(よかったー!調子に乗った態度で受け応えしなくて本当によかったー!
さっきと同じように笑顔を浮かべてるけど、今度のは本物っぽいやつだな……たぶん。
これは……第1印象はまずまずって感じなのかな?)」
と、ちょっとだけホッとしつつ、少しだけ冷静になって辺りを見渡す。
今、この生徒会室にいるのは俺と猫井生徒会長の2人だけで、他の生徒……俺を連れてきた高木委員長と何故か付き添いで来た三葉先輩は『第1女学院』の副会長2名を呼びに行っている。
最初入ったときには生徒会書記の女の子もいたが、それも猫井生徒会長の指示で高木委員長たちと一緒に呼びに行った。
なので俺は、意図的に猫井生徒会長から2人きりの状況を作られてしまったので、何を言われるんだと、とてもドキドキしていたのだが……、それは色々と考え過ぎだったみたいだ。
そして室内を眺めていて思ったのだが、この部屋にはお菓子やティーカップなどが結構たくさん置いてある。
せんべいや駄菓子、それにスコーン?のようなものまで和と洋どちらのお菓子も置いてあり、ここホントに生徒会室か?と疑ってしまう程だ。
すると、それを見た猫井生徒会長は「相川くん、お菓子食べる?」と聞いてきて
「まあ、簡単なもてなしにはなるけど……はい、お菓子をどうぞ。他の生徒会の子たちが持ってきたものだから、相川くんも遠慮しないで食べてね?
あっ、それと紅茶も淹れてあげるね?紅茶飲めるよね?」
と、最初のように心配になるようなフランクさではないものの、かなり砕けた口調でそう俺に問いかける。
というか、俺が返事をするよりも先にティーポットを手に取り、ポコポコと紅茶を2つ分のティーカップに注ぎ込んでいる。
しかし、その所作は口調に似合わずとても丁寧なもので……正直、その違和感がハンパない。
だがそれを直接言及する程、俺も馬鹿ではないので
「はい。ありがたくいただきます。紅茶は俺も好きですし、お菓子も遠慮なくいただきます。
正直に言うと、猫井生徒会長に紅茶を淹れていただけるなんて想像もしていなかったです。
なので実際に紅茶を淹れていただいて、俺の猫井生徒会長に対する印象が変わったので、とても新鮮に感じます。」
と、失礼にならないように気を使って、その違和感をオブラートに包み込む。
別にそれについて触れなくてもいい事なのだが、この人に対しては思った事を包み隠して誤魔化すより、ハッキリと違和感を感じたと伝えた方が良いと思ったのだ。
(まあそれを、オブラートに包んだ言い方をする必要は、もちろんあるのだが……。)
おそらく、このタイプの冷静に人の言動を分析する人には、変な嘘や誤魔化しは通用しない。
それどころか、逆にそれが原因で相手の俺に対する不信感が増す結果に繋がったりするのだ。
そして今の俺は試される立場なのだ。そのような迂闊な言動でのマイナス評価は出来る限り避けたい。
俺はそのような考えで、猫井生徒会長に感じた違和感をオブラートに包んで伝えた訳なのだが……
なぜか猫井生徒会長はその言葉に嬉しそうに反応して
「へぇ……?相太くんにはアタシが紅茶を自ら淹れたことが新鮮に感じたんだ?
アタシ結構みんなから淑女って言われるのに、そんな事言われてすごいショックだなぁ。……なんて、ねっ?
まあ、アタシが紅茶を淹れる事なんて殆どないことだからね。相太くんが違和感を感じても仕方ないことだと思うよ?
でも、それをしっかり言ってくるのは正直アタシも意外だったかな?でも、そこがいいね。すごくいい。」
と、笑みを浮かべる節々に微弱ながらの鋭さをチラつかせながら、そのように言って俺に微笑みかける。
そして意識的か無意識的にかは定かではないが、猫井生徒会長は時折、その名と同じ猫のような見定めるような視線を俺に向けてくる。
それが恐ろしくもありながら、不思議な魅力にも感じる。
「(俺はMっ気なんて無いと思ってたんだが……、このゾクっとする感覚がソレなのかな?)」
と、そんな馬鹿な事を現実逃避気味に考えながらも、どう答えればいいのかと考えあぐね、押し黙っていると
「ああ、別に今の話に何か答えなくても大丈夫だよ。
さっきのはアタシの独り言だから安心して?
ほら、それよりも紅茶が出来たよ。お菓子も一緒にどうぞ。
うん!我ながらいい出来かな?珠子お手製紅茶の出来栄えはいい感じだね。」
と、明るめの口調で猫井生徒会長はそう言うと、俺に紅茶入りのティーカップとお菓子を差し出す。
そして俺と生徒会長は向かい合う形で座り、そのままお菓子タイムに突入する。
「そういえば、静恵はなんでこっちの学校なの?
君らの仲なら、『同じ学校がいい』ってならなかったの?」
「いえ……たしかに静恵はそのように言ってたんですが、俺の父親がそれを嫌がりまして……。
それに静恵が気を使っちゃったみたいで、こちらの学校になったので……。
あっ!でも、本人は結果的には良かったって言ってましたよ。やっぱり女同士で気が楽な事が多いみたいです。」
と、いった感じで取り留めのない内容を猫井生徒会長と話し、副会長たちの到着を待つ。
その間に紅茶をお代わりなんかもして……。
俺自身も猫井生徒会長の気遣いで、少し緊張が和らいだ気がする。
「(もしかして猫井生徒会長は、予めこれを狙って俺と2人きりになったのか?
まあ……なんかこの人なら、あり得そうだ。
何はともあれ、もてなしてくれているのは確かだから感謝しないとな。)」
と、そんな風に猫井生徒会長に感謝しつつ、俺と生徒会長が取り留めのない会話に花を咲かせていると
コンコン……。ガチャッ!
「「「「失礼します。」」」」
突然部屋の扉が鳴り、そのような声とともに生徒4名が中に入ってくる。
そのうち2人は俺が知る生徒……三葉先輩と高木委員長なので見知った顔なのだが、もう2人の見覚えのない生徒がその副会長たちなのだろう。……これからが説得本番だ。
とりあえずは相手校でのファーストコンタクトです!
少し話が飛んでるようにも見えますが、次でそこまでの経緯を描写する予定です。(視点が変わるかも)
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