朝の一幕・登校前『照れる妹は可愛いけれど、何事にも加減が大事/優しい私のお兄ちゃん(短話)』
遅くなってすいません。
1話目からの再編集などをしていたら、時間があっという間になくなっていました。
「それじゃあ、先に学校行くわ静恵。
お前も出る時には、ちゃんと戸締りしてから出て来いよ?この頃何かと物騒な世の中だからな……。
あっ!あと、今日は知り合いの先輩と一緒に帰る約束してるから、少し帰るのが遅くなってーー」
「あー、はいはい。分かったから、お兄ちゃん。
そんなに心配しなくてもちゃんと戸締りするし、友達と一緒に登校するから……、私は大丈夫だよ?
それよりもお兄ちゃん!今日はお弁当ちゃんと持った?
流石に2日も連続で忘れられると私も悲しいし、お兄ちゃんのお小遣いも心配になるからね……?」
と、心配をする俺を他所に、妹の静恵は逆に今日も俺がお弁当を忘れていないのかを心配してくる始末だ。
たかが朝の登校くらいで、このように心配するのも変な話だとは思うが……
こうして心配するのは、俺の心境の変化によるものであった。
これまでも静恵の事は、たった一人の兄妹として、大切にしてきたつもりであった。
だが麗奈との別れで俺が本気で落ち込んでしまったときに、静恵が俺に優しく声を掛け、慰めててくれた事があって……
俺の努力や行動が、麗奈との別れだけでは無駄になり、否定されるものではないと、そう言って俺に立ち直る力を与えてくれた静恵の事を、俺はこれまで以上に大切にしていきたいと思ったのだ。
だから、これまで以上に静恵の事が心配で、こんな風に静恵に声を掛けたという訳なのだが
しかし、当の静恵は俺を心配する始末、これではどちらが歳上なのか分からない。
そしてそんな俺のモヤモヤする内心を他所に、静恵の俺に対する心配事は多いようで……
「そういえばお兄ちゃん。お兄ちゃんが昨日言っていた人、その……三葉さん?
その人のことについても、まだ詳しく聞けてないから、今日の夜にでも私に話してね?お兄ちゃん?
今日一緒に帰る予定の、その三葉先輩について……ね?」
と、少しだけ凄みのある表情で静恵は俺にそう言ってくる。
なぜ静恵が凄んでいるのかは、俺にはよく分からないが……
昨晩、俺が静恵との話の中で出した『三葉先輩』の名前、それをどうやら覚えていたようだ。
ただ、麗奈との一件で励まして貰って、そこから仲良くなった人とだけ伝えていたのだが、静恵には今日一緒に帰る先輩と『三葉先輩』が同一人物であると推測したようだ。
別に誤魔化すつもりなどはなく、静恵には仲良くなった『三葉さん』とその名を伝えていたのだが、この様子だと『三葉先輩』について詳しく話すまでは、今晩眠らせて貰えなさそうだ。
俺はそんな風に俺の事を心配する静恵に苦笑しつつ、ソロソロ行かなければならない時間である事を思い出して……
「あー、そうだな。静恵にはちゃんと『三葉先輩』についても話しておかないといけないかもな。
近いうち家に呼ぶ可能性があるし、あの人なら静恵ともすぐ仲良くしてくれそうなだからな。
だから、うん。今日学校から帰って来たら、今日の下校の事も含めて全部お前に話すことにするよ。」
と、俺はそう言って静恵の頭にポンと手を置く。
昔から静恵を安心させる時には、いつもこうして頭の上に手を置いて、その頭を優しく撫でていた。
だから俺は、そうしたいつもの癖で静恵の頭を撫で、その柔らかい髪を綺麗に梳かす。
サラ…サラ……サラ………
静恵の髪はまるで絹のような触り心地の良い髪の毛で、俺はその感触が小さい頃からとても好きだった。
そしてそんな俺は、静恵が撫でられ始めてから特に何も言ってこないことを良い事に、俺の気が済むまでずっとその髪を撫で続ける。
「(あー、なんかこうしてるとすごい安心する。
昔からこうして静恵の頭を撫でているけど、これって何気にすごい事だよな?
思春期真っ只中の妹の髪を、こうして怒られずに触らして貰えるって……。)」
俺はふとそんな事を考えながら、黙ったまま何も言わない静恵の様子を伺ってみたところ
「えっ?……なんで、顔真っ赤……?」
俺が覗き込んだ静恵のその顔は……、まるで熟れたリンゴのように真っ赤になっていたのだった。
俺はそんな真っ赤な顔でポーッとしている静恵の事が心配になり、その顔を至近距離で覗き込もうとすると……
「はっ!な、何を言ってるのかな!?お兄ちゃんは!
顔が真っ赤なんてそんな、そんなことって……、あるわけ無いじゃん!
ほら!バカな事を言ってないでさっさと行く!
帰ってからその『三葉さん』についての話を、ちゃんと聞くことにするから……、じゃあ、行ってらっしゃい!お兄ちゃん!」
と、言って我に返った静恵は、真っ赤な顔のままグイグイと俺の背中を押し、「早く出て行け」と言わんばかりの勢いで俺を家から追い出そうとする。
その顔はとても恥ずかしくてたまらないといった表情で、その顔と焦る態度を確認した俺は……
「……悪かった静恵。少し調子乗ってやり過ぎた。
お前を撫でてる時が俺が一番落ち着く時間だから、それでやり過ぎて……。とにかくゴメン!静恵!
とりあえずはもうソロソロ時間がないし、俺はもう行くから……、さっきも言ったけど戸締りは気を付けてな!」
と、やり過ぎたことを素直に静恵に謝罪してから、登校するべく家の扉を開ける。
そして俺は最後に静恵の方を振り返って、片手をひらひら振りながら、「じゃあ、行ってきます!」と言ってそのまま家を出る。
すると、後ろから「行ってらっしゃい!お兄ちゃん。気を付けてね!」という、いつも通りの温かい静恵の声が聞こえてきて
俺は今日も1日頑張れるような気がした。
そうして俺は昨日よりも明るく、眩しく見える青空を見上げながら、いつもと同じ道をいつも以上に軽い足取りで登校して行くのだった。
ーーーー登校前・玄関にてーーーー
「もう……。お兄ちゃんってば……。朝の登校までの時間で全然ゆっくりしている暇なんてないのに、そんなタイミングで、私の頭を撫でてくるなんて……。」
私、相川 静恵は先に登校した兄、相川 相太を見送って、誰もいなくなって静かになったドアの前でそう呟いた。
先程私はお兄ちゃんから頭を撫でられて夢心地だった。
そしてその蕩けたような、気持ちよくてだらしなくなってしまった私の顔を、あろうことかお兄ちゃん本人に至近距離から覗き込まれてしまったのだ。
当然、私は顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまい、半ば強引に……、家から追い出すような形でお兄ちゃんを学校に登校させてしまった。
そんな風にお兄ちゃんを送り出してしまったことを、私はそう言ってしまった直後から後悔していたのだが……
優しいお兄ちゃんは、真っ赤になったその理由については深くは触れずにいてくれて……。
それどころか自ら私に謝罪し、時間がないことを理由に出て行くと言い、私がお兄ちゃんを追い出した形にならないようにと、そのフォローまでしてくれたのだ。
私はそんないつも通りの優しいお兄ちゃんの気遣いに感謝し、いつも通りの私で、お兄ちゃんをお見送りする事が出来たと思う。
それがなんだか照れ臭くもあり、誇らしかったりもする。
私はそんな想いを抱きながら、今日帰ってからお兄ちゃんが話してくれるお話……、そのお兄ちゃんが気にかけているという『三葉さん』のお話を聴くまでの時間が、とても待ち遠しく感じられるのだった。
今回の『登校前』と次回の『登校後』の2つのお話となっております。
次もおそらくほのぼの回なので、よろしければご覧ください。
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