分岐する道『交わした未来への約束/止まった未来への抵抗』
今回はちょっと長めです
「じゃ、じゃあ……、ただ先輩が放課後、先生に学級の仕事のお手伝いを頼まれただけってことですか?
それで今日は俺と一緒に帰れないからと、深刻そうな顔を……?」
と、俺は1-Bの教室を出てから改めて、先輩が先程深刻そうな顔をしていた理由について質問し、先輩の答えたその回答に俺は驚いてしまったため、再び先輩にその回答の真偽について問い質していた。
先程俺は1-Bの教室で、三葉先輩に恥ずかしいプロポーズ紛いの言葉をそのまま伝えてしまい……
恥ずかしいやら、照れ臭いやらで、穴があったら入りたいような気分に、そのときの俺はなっていたのだが……
それを聞いた三葉先輩が、それに対して満更でもない様子で俺に応えてしまったため、一時その場が騒然となったのだ。
そのため、俺と三葉先輩はこれ以上目立たないようにと、教室の外に出て……
気を取り直した話、最初に三葉先輩が俺を訪れた理由である『先輩の俺にどうしても伝えなければならない話』について質問していた訳なのである。
まさかのそれが、俺と一緒に帰ることが出来ないから、あれ程深刻そうな顔をしていたなんて……
「そ、そうですよ!仰る通り、せっかく仲良くなれた相太くんと今日一緒に帰れたら……。またゆっくりお話出来たらなん思っていただけなのですよ!
それなのに……。今日に限って、先生のお手伝いを頼まれてしまうなんて……。」
俺のその言葉に、三葉先輩はぷぅっと口を尖らせ、少し拗ねたような表情でぶつぶつとその事についての不満を口にしている。
そんな拗ねた三葉先輩の表情も新鮮で、とても可愛かったが……、ここはちゃんと先輩に言っておこう。
でないとこんな調子では、その先生の手伝いでさえまともに手がつかないかもしれない。
「先輩のお言葉はありがたいですが……、ちゃんとお手伝いの方には行って下さいね?
確かに俺も、三葉先輩と一緒に帰りたかったことは否定しませんが、それは今日じゃなくても大丈夫でしょう?
俺と三葉先輩、2人が望む限りは一緒に帰る機会だってこれからもあるんですから。
なので先輩、今日は先生の手伝いの方を優先して下さい。
明日の放課後は、俺から先輩のことを教室まで迎えに行きますから……。だから……ね?」
と、そう言って、俺は先輩に次の機会が必ずあるということを予め伝えることにする。
いつでも自分と一緒に帰れるということをダシに、先輩を説得するなど……
自らに自惚れているのか!と、自分でも突っ込みたくなる程のキザな説得の仕方だとは思う。
しかし先輩が俺と一緒に帰りたがっている今では……
そのことを……、いつでも2人さえ望めば一緒に帰る事が出来るのだという事を、先輩にあらかじめ伝えておいた方がいいと考えたのだ。
俺は先輩と長く、みんなに納得はされなくても理解してもらえる関係でいたいと思っているのだ。
俺がいるから先輩がダメになった。などと先輩が周りから批判されるのだけは何としても避けたいと思う。
そう思うからこその……、この説得なのだ。
すると、その説得が功を制したのか、「そうでした……。また明日、その次の機会だってちゃんとありますよね……。」と、三葉先輩はそう小さく呟き……
「分かりました。相太くん。
私、今日は先生のお手伝いの方に行ってくる事にします。
確かに今日の帰宅が一緒じゃないのは残念ですが、相太くんの言う通り、明日もその次もありますしね。
だから今日は、相太くんが明日私を迎えに来てくれることで満足しようと思います。」
と、そのように、ちゃんと先生のお手伝いの方を優先してくれることを俺に約束してくれたのだ。
そして三葉先輩は少々名残惜しそうだったが、遂には俺に「バイバイ」とその手を振りながら、そのまま二階に繋がる階段の方向に背を向けて歩き出した。
そして階段で姿が見えなくなる一歩手前で、一瞬くるりとこちらを振り向き、そして……
「また明日、約束ですよ!相太くん!」
と、それだけを言って、溢れんばかりの笑顔を俺に見せ、本当にそれ以降は振り返る事なく、階段の方に消えていったのだった……
俺はそれに対してこちらも笑顔で応え、先輩の見送り終わると、再び教室にカバンを取りに戻る事にした。
そして俺が教室に戻ると、三葉先輩との関係について、1-Bの生徒たちに問い詰められたという事は言うまでもないだろう……
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ーーーー放課後・生徒会室にてーーーー
「………以上で、本日の生徒会の活動は終了とします。
本日の戸締りは私が最後まで残って行いますので、皆さんはもうこれで帰って貰って構いません。本日はおつかれ様でした。」
と、私は本日の生徒会、その活動の終わりを告げるそんな言葉とともに他のメンバーの帰宅を促した。
今日1日、昼間の相太との一件で周囲から伺うような、何かを探るような視線に晒されてしまい、辟易としていた私であったが……
放課後にはそんな視線も少なくなり、いつもと同じ調子を取り戻した私は、本日も行われていた生徒会活動に顔を出し、その活動を全うしていた。
正直、相太のことを考えていると、なぜか胸の辺りがズキズキと痛む今の私にとっては……
それを考えないで済む今日の生徒会での活動は、とても助かった。……というのが私の本音だ。
そして、そんな活動がひと段落したという段階で、承認印を押していた私は、その手をぴたりと止めて、先程の言葉を他の役員に声掛けたという訳だ。
いくら今の私に助かる仕事量の多さと言っても、他の役員は話が違う。
普通にしんどいだろうし、もう今日は帰りたいというのがみんなの本音だろう。
私はそう考えて、みんなの帰宅を促して……
他の役員はそれに従い「お疲れ様でした!」と、私に一声を掛けてから、続々と帰宅をしていく中……
「ねぇ……。麗奈?ちょっといいかい?
少し今日の事……。正確には昼休みに起きたことについて、少し麗奈に聞きたいことがあるから、この後、みんなが帰った後にちょっとボクに時間をくれないかな?」
と、不意に私に近寄ってきた副会長、生徒会副会長の長谷川 詩織先輩がそう私に声を掛けてきた。
私はそんな詩織先輩の言葉を聞いて、「しまった……。生徒会にはこの先輩がいたんだ。」と、少し嘆息してしまった。
今日の生徒会では、昼間の一件について触れてくる者、それに関して何か探りを入れてくるような人は誰一人としておらず。
私は少し安心して、今日の生徒会活動に励んでいたのだが……
やはり付き合いの1番長い、生徒会の中で最も私のことをよく知る詩織先輩の目は、そう簡単には欺くことは出来なかったようだ。
そんな風に誰も居なくなって生徒会室で、私に話しかけてくる詩織先輩は、現高校2年生の先輩で私とは中学の時から付き合いのある一個上の先輩だ。
そんな詩織先輩は、生徒会と歌唱部を兼任して所属していて……、その容姿と歌声の美しさから『私立第一学園』の姫、『四詩の歌美姫』と周囲から称されている。
本人はそのことについて、特に気にしていないようではあるが、私から見てもとても綺麗な先輩だと思う。
それに部活と生徒会の両立をしっかりと出来ていて、周囲からの評価もかなり高いことから……
私にとっても、信頼の厚い先輩だ。
しかし、そんな完璧で一見隙のないように見えるこの先輩の、唯一欠点と言わざるを得ない。
そして私がこの先輩に声を掛けられて嘆息してしまう。そんな原因となっている欠点とは……
「さて……、やっと二人っきりになれたね?
じゃあ、今日の昼休みの1-Bで起きたその事件について、詳しくボクに聞かせて貰えないかな?
もちろん麗奈本人の口から直接ね?」
と、言った詩織先輩は、スタスタと私の方に歩み寄ってくると、なぜか私の肩にポンと手を置いて、そのまま休息用に置かれている生徒会の備品の一つであるベッドの方に案内してくる。
そしてそこに腰かけた先輩と私は、そのベッドにてとても近い距離で向き合う格好になってしまう。
するとそれを認識した詩織先輩は、「ふふ!」と微笑み……
「なんだかこうしていると……、ボクと麗奈が恋人みたいに見えるね?
もちろん、ボクと麗奈はそんな関係じゃないけど……、ちょっとドキドキするシュチュエーションじゃないかな?これ?」
と、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような、そんなキザったらしい質問を軽いウィンクとともに私にしてくるのだった。
私は「思いませんよ……詩織先輩。」と返しながら、改めて対面に座り直す。
私はそんな悪い冗談を言ってくる、詩織先輩の悪癖について溜息を吐きたい気分だった。
そう……、これが長谷川 詩織先輩の唯一の欠点、そして私が苦手と感じてしまうその一点なのだった。
それは……、彼女自身はそういう趣味はないと言っているのだが、よくそのように聞こえる言動、彼女が女性を口説いていると勘違いされるような言動を周囲に平然と、何気ない会話をするような形で行なっているといった点であった。
私自身、中学の頃から詩織先輩のことはよく見てきているが、先輩が女性に対し普通の言動を行なっている所をかつて一度も見たことがなかった。
そしてその問題の言動は、女性である私にも当然行われるため……
また対応に困る行動をされるのでは?と思い、私は詩織先輩に声を掛けられた際、少し嘆息してしまったのだ。
でもそんな詩織先輩はそういう点を除けば、私にとっても非常に頼りになる信用出来る先輩なので……
私の異変に気付いて、そのように声を掛けられた時点で、私は先輩には自分から心の中のモヤモヤについて話そうと思っていた。
なので、私はスッと居住まいを正し。
「では……、冗談はそれぐらいにして……。
今日私の訪れた、昼休みの1-Bの教室にて起こった出来事、そしてそれらにまつわる話について、詩織先輩にはお話し致します。」
と、私は改めてきちんとベッドに座り直し、そのように言ってから詩織先輩に話を切り出す。
するとそれを聞いた先輩も、さっきのふざけた雰囲気とは一転、真剣な顔をして頷き。
「うん、麗奈にはちゃんと聞かせて貰うよ。
なんで君が昼休みに、君の運ぶ必要がない重い荷物を、一人でここまで運んで来ていたのか?
そしてなぜそんなにも、今の麗奈には心の余裕がない状態なのかを……ね?」
と、先輩は私の何もかもを見透かすような、全て知っているのではないかと疑ってしまうほどの的確な問いを、私に尋ねてくるのであった。
こうやって先輩に昼間のそれを話した事によって、私に何か変化が起こるかは、それは今はまだ分からない。
でも……、それでも私は。
今日の昼間の光景を目の当たりにして、何も出来なかった理由を、私自身の心がなぜこんなにも痛むのかを少しでも理解出来たらと、そんな風に思うのだった……
新しいヒロインは副会長、ボクっ娘でした
ついでに数少ない麗奈の信頼する相手でもあります
相太の放課後の話もちゃんと執筆致しますので、よろしければこれからもよろしくお願いします!
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