見失った心/私の好きだった彼『移りゆく関係は、その新しい関係の始まりと共に変化を生じさせる』
今回は麗奈視点だけのお話となっております
更新が遅れたこと、お詫び申し上げます
「俺は……。三葉先輩との先約を優先するわ。
だから、ごめん麗奈。いや黛さん。
また別の……、大・切・な・用事がないときになら、生徒会の手伝いもしてあげることは出来るけど、今日だけはどうしても無理だ。
だからごめんなさい……。黛さん。」
私、黛 麗奈は、彼、相川 相太の発したその言葉の意味を、彼が私の誘いを断ったという現実を、一瞬理解する事が出来なかった。
なんで私が断わられているの?
どうして彼は大岡先輩の手を取って、私の手は離してしまうというの?
なんで……?どうして……?
そんな処理出来ない感情の嵐が、私の中を渦巻いて……、私の心をかき乱す。
そしてそんな中でも、嵐のような感情の波が私の心を止むことなく打ち付けてきて……
痛む心を押さえるように、彼に離されてしまったその手握りしめ、呆然と立ち尽くすだけの私には……
その場から動くことも、言葉を発することも、彼と彼女を呼び止めることも……、その何一つも出来なかった。
しかし無情にも、そんな私を置きざりにしたまま、彼と彼女はキュッとお互いの手を握りしめ、二人でそのまま教室を出て行ってしまう。
「(行かないで!待ってよ……相太!)」
そんな彼を呼び止めるための、口まで出掛かった「待って」の言葉でさえ……
今の私には、彼の離れてしまった心の行方を見失ってしまった今の私には、ついには教室を出て行ってしまった相太にその一言を掛けることでさえ叶わないのであった。
そうして私は、相太のいなくなった机をただじっと見つめ、記憶にある彼の面影をその机に映し出しては、その一つ一つを思い出して、先程の彼の変化を思い浮かべていると……
「どうしたの?あれ……。」「おい!あれどういうことだよ!相太の方が振られたんじゃなかったのか!?」「黛さん、どうしちゃったんだろ?」「だ、誰か黛さんに声を掛けた方がいいのかな?」「でも……、俺たちじゃ黛さんの力には。」「そう……よね、私たちと黛さんでは……。」
と、1-Bの教室からは口々にそんな声が、先程の出来事に対してのさまざまな反応が、このクラスの生徒の人たちからは発せられていた。
その大半は相太の行動に対しての疑問の声であったが、中には立ち尽くすだけの私を心配する人たちの声もチラホラ聞こえてくる。
しかし、そんな人たちの声は聞こえてきたとしても……
「(誰も私の所には近寄って来てくれない……。
誰も私のことを普通の女の子としては見てくれない……。)」
分かってはいた事なのだが、そんな風に改めて自分が周りの人間と違うこと、周りからは自分が違う存在であると認識されている事実を目の当たりして……
「……。戻りましょう。いつもの私に……。」
そう小さく呟くと、私はいつも通りの澄ました顔で、静かに1-Bの生徒たちの方を振り返り、「お騒がせ致しました」と小さく一礼してから、その教室を後にするのだった……
・・・
・・
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ーーーー在りし日の想い出・麗奈視点ーーーー
いつからだろう?
私が彼のことをジッと目で追うようになって、彼のことばかりを考えるようになり……
そして名前も行動も平凡な彼を、私がそこまで意識するようになったのは?
私がそんな彼を意識し始めたのは、初めはなんて事のない……何気ない言動がきっかけだったような気がする。
ただ廊下ですれ違った際に、挨拶をされただけ。
ただ食堂の空いている私の前の席に、たまたま彼が座ってくれただけ。
ただ私がふった話に、彼がニコッと笑ってくれただけ。
ただ彼が私と話をする時に、目をちゃんと合わせて会話をしてくれたというだけ。
そんな何気ないごく平凡に見える普通の行動の数々が、私が彼を意識し始めた、初めて彼のことを気になる相手として認識し始めたキッカケだったと、今ではそう思っている。
しかしそれがキッカケだと言うと、そんな言葉くらい誰だって言うし、誰だってしているよと言って、そんなのが本当にキッカケなのか?と、それを笑う人が沢山出てくるかもしれない。
そんなの嘘だ。どうせ他にもっとちゃんとした、明確な理由があるんだろう?と言いながら……
しかし、そんな人たちに向かって、私は声を大にして言ってやりたい。
「その当たり前の行動を、一体どれほどの人間が私にしてくれたのか?」と。
「黛さんは特別。」「黛さんは人とは違う。」「黛は天才だな。」「黛さんは住む世界の違う人だし……」
私は小さい頃から、そんな風な言葉の数々を周りの人たちから言われ続けて、今まで育ってきた。
人よりも優れた成績、人よりも優れた美貌、人よりも優れた才能。
それら全てに対する評価の結果が、先程の私に対して発せられた言葉の数々であった。
黛は特別だから……、俺たちとは住む世界が違う。
麗奈は天才だから……、なんでも出来て当たり前。
そんな言葉の数々の中で育ってきた私にとって、彼のその言葉や行動は、当時の私にはどれ程眩しく、そしてかけがえのないものとして映っていたことだろうか?
廊下をすれ違った際に、余所余所しい様子が見られず、普通に挨拶してくれる彼 。
満員の食堂でも誰一人として座らない私の前の席に、当たり前のようにして座ってくれる彼。
私がふった何気ない会話に、強張った作り笑いなどではない、本心からの笑顔をみせてくれる彼。
私に話しかけてくる時に、ちゃんと目を逸らすことなく、私の目を見て会話をしてくれる彼。
その彼の言動のどれもが私にはとても嬉しく、そして他とは違う人間である自分を唯一、同じ人間として見てくれているような気がして……、とてもドキドキしてしまった。
そしてそんな風に彼を意識し始めて、それを自覚した私のそれからの行動は……、とても早急なものであった。
自覚した次の日には彼を放課後の空き教室の一室に呼び出し、そこで彼に告白して……、その場で私と付き合うことを彼に承諾させたのだ。
自分を普通の女の子として見てくれる彼と、少しでも一緒に会話していたい。
他の誰にもない、そんな当たり前の魅力を持つ彼を他の人に渡すことなんて絶対にしない。
そんな私の思いからのその行動の速さであった。
しかし当時の私は、まだその行動の意味を……、その行動がもたらす彼への変化の意味について、その時はまだ気づくことが出来なかった。
そうして中学3年生の冬、何も知らない私と彼の関係は、その始まりを迎えると同時に終わりを迎えることになったのだった……
掛け違えたボタンの存在を、その時はまだ知らずに。
初めての人称を変えての視点
その心の動きを表現するのが難しく、少し難解な文章になっているかもしれません…
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