一つのお弁当を二人で分け合う幸福『寄り添う二人に優しい時間を』
遅れてしまいすいません…
今回はシリアスなしです
「さて……、約束のお話も相太くんから聞けましたし、気分を入れ替える意味を込めて一緒にお昼ご飯を食べましょうか!相太くん。
……でも、あれ?相太くんのお昼ご飯はどこですか?
見たところ手には何も持っていないようですが……」
俺と三葉先輩はあの話の後、少しの間だけ2人抱きしめ合うだけの軽い抱擁を交わしていたのだが……
途中で俺の方が少し気恥ずかしくなり、そっと先輩の柔らかな肢体を押し戻した。
そのとき先輩が、ちょっとだけ名残惜しそうな顔を浮かべていたのは……、それを間近で見ることの出来た俺だけの秘密だ。
そして先輩は思い出したかのように、持って来たお弁当を俺の前に出し、その蓋を開けようとお弁当に手を伸ばしたタイミングで……
その間何の動きも無かった俺の方を見て、先程の質問を俺にぶつけてきた。
まあ普通に考えて、先輩は元々俺に「昼ごはんを一緒に食べませんか?」と、誘ってきてる訳だから。
俺がお弁当を持って来てる前提で、俺をここまで引っ張って来たのだろうけど……
生憎今日の俺は、朝から色んなことに気を張っていた為、その肝心のお弁当を家に忘れてしまっていた。
そして俺もその事は先輩たちが訪れる前、昼休みが始まってすぐのタイミングで気付いていた事なので、元より今日の昼は何かを食べるつもりでは無かった。
まあ、育ち盛りの高校生には昼ごはん抜きというのは相当しんどい事なのだろうが、今日の俺は麗奈との事もあって少々食欲減退気味なのだ。
「すいません、先輩。ちょっと今日の俺は、朝からずっと気を張っていまして、恥ずかしながらお弁当を家に置いてきてしまったんですよ……。
あっ!でも安心して下さいね?別に今日は食べなくてもいいやって考えてましたし……。
そして何より、先輩がお弁当を食べる姿をじっくりと堪能しておきますから!
どうぞ!俺のことはお気になさらず、お弁当食べちゃって下さい。」
と、俺は冗談混じりにそう言って、早く食べてと先輩にジェスチャーを送りながら、チラリと先輩のお弁当の中身を拝見する。
そのお弁当の中身は基本的に全て和食で、白米、煮物、シャケの切り身、それとプチトマトにキャベツの千切りという……、ごく一般的なそれとあまり変わりがないようにも見える。
しかし、その一つ一つが丁寧な作業によって作られた、とても形の整ったバランスの良い品目の数々で……
一般的なお弁当の中身であるはずなのに、なぜかそれを食べてみたくなるという、不思議な感覚を覚えるお弁当であった。
俺はそれを見て、静恵のお弁当を家に忘れて来てしまったことを改めて後悔してしまった。
お弁当を食べる先輩を見ておくとは言ったものの、麗奈の事を話して気が楽になった反動か、普通に腹が減ってきてしまったのだ。
そして更に、それを意識してしまうきっかけを作ったのが、この美味しそうな先輩のお弁当なのだ。
俺は半分逆恨みのような感情を抱き、その先輩のお弁当をじいっと眺めていたのだが……
その視線があまりにも露骨過ぎたからなのだろうか?
それを見た先輩は、なぜか素直になれない子供を見るような、バブみさえ感じさせる母親溢れる笑みを浮かべ……
「相太くん。お腹が減ってしまったのなら……、素直に私に言ってくれれば良かったのです。
ふふふ、ホントに相太くんは照れ屋さんなんですから。」
と、言って微笑んだ三葉先輩は、俺の方に身体を寄せて来たかと思うと、二人でお弁当が食べられるようにピトッと俺の肩に自身の肩を触れ合わせてくる。
そして物理的にも縮まったその至近距離で、三葉先輩は俺の顔を横から覗き込むようにして……
「では、相太くん。始めに何から食べたいですか?
やっぱり育ち盛りの男の子ですから、まずは白米からでしょうか?
はい、相太くん!口を開けてくださいね?」
と、先輩は俺にそう言うと、箸の間に白米を器用に挟み込み、俺の口めがけてそーっとその白米を箸で持って運んでくる。
こ、これは俗に言う『あーん』というものではないだろうか?
恋人同士である男がその料理を相手に食べさせて貰うという、男のロマンの1つでもある、あの……
しかし、まだ恋人でもない俺が、三葉先輩とこんなことをしてもよいのだろうか?
もし、先輩に彼氏でもいたら『あーん』なんて行為、絶対に怒られ……
あっ!そういえば俺が高校で初めて仲良くなれた男の人だって、先輩朝の通学路で言っていたような?
そうであれば、今の先輩はフリーなわけで……
「相太くん。早く口を開けて……、そうです。ちゃんとよく噛んでから飲み込んで下さいね?
それで……、どうですか?この白米。炊き方から少しこだわって炊いてますので、相太くんのお口に合えば嬉しいのですが……
あっ!それはそうと、相太くん。次は何が食べたいですか?このシャケなんか良い脂が乗っていまして、相太くんにもぜひ食べて貰いたいって思って!
……って、あれ?どうかしたのですか?相太くん。なんでそんな嬉しそうな顔をして……
あっ!もしかして、先程の白米が美味しかったのですか?
そうと言ってくれれば……。では、また白米にしますね?」
と、それまでも甲斐甲斐しく俺の世話を焼いていた三葉先輩はそう言うと、再び白米を箸の間に挟み込み、「しょうがないですね」と言わんばかりの優しい表情をその顔に浮かべて……
俺にその白米の乗った箸をゆっくりと近づけてくる。
何やら先輩は、俺が白米をもっと求めていると盛大に勘違いしているようであるが……
まあ、そんな勘違いしている様子も可愛いし。
そして何よりも……、この白米がすごい美味しいから、特に文句は言わないでおこう。
ていうかそもそもの話、先輩のお弁当を分けて貰えるだけでもありがたい事なのだ。
でも、そうか……。俺は先輩から見て分かる程に、嬉しそうな顔をしていたのか……
先程から俺に『あーん』をしてくれている三葉先輩は、俺に『あーん』する行為に対して、何か躊躇うような素振りや何かを考えるような様子を見せていない。
普通この行為は、恋人の関係にある男女が行う行為であり、少なくとも他に彼氏……、もしくは好きな男がいる女性が彼氏でもない男性に行う行為ではない。
もし先輩に現在、彼氏や好きな人が他にいると言うのであれば……、普通に考えて、この行為を想い人に対する裏切りと感じて、何か悩むなどと言ったどこか躊躇うような素振りを少しくらいは見せるはずだ。
でも先輩は別にそれを気にしている様子はないし……、そして何よりも、この状況をどこか楽しんでいるようにも見える。
であればそれは……、今の先輩には彼氏にあたる人物、もしくはそれに似た好きな相手がいないということを意味しており、先輩が現在二重の意味でフリーであるということを示していて……
そしてそれを知った俺は、先輩に現在彼氏がおらず、好きな人もいないという事を理解していて、そのことを嬉しいと感じている。
それが意味することは、俺が先輩のことを好きかもしれないということを示すものであって……
「……っ!ホントに俺はそうなのか?
麗奈と別れて間もない俺が、先輩のことを……?」
「はい?何か言いましたか?相太くん?
先輩のこと……。つまり私がどうかしましたか?」
と、俺が小さく呟いたその呟きに、隣に座っていた三葉先輩がすぐに反応する。
って!それはこんな至近距離に座って、その隣で呟いていれば当たり前か!
寧ろ聞こえない方がおかしいレベルの、距離の近さなのだから……
しかし幸いなことに、先輩にはその呟きの全部は聞こえなかったみたいだ。先輩が俺に食べさせることに夢中になっていて本当に助かった……
けど、よりにもよって先輩本人にこの呟きが聞かれるなんて……
どうにかしないと…、どうにかして先輩の気を逸らして……
「そ、そうです!先輩!三葉先輩にも俺から食べさせてあげますよ!そのお弁当!
俺ばっかり食べさせて貰っていては、心苦しいし……、何より不平等なので!はい、先輩!あーん。」
と、先輩の気を逸らそうと必死になった俺は、そんなテキトウな誤魔化しの言葉とともに、少し強引な『あーん』を先輩に対して行う。
流石にこの切り返しは不自然かな?と、俺が少し不安になって三葉先輩を見ると……
すると、それを素直に信じてくれたのか、上手く誤魔化された先輩は、「いいのですか!」と無邪気に喜び、可愛らしくその小さな口をあーんと開け……
パクっと俺が差し出した先輩のシャケの切り身を一口頬張り、「相太くんが食べさせてくれたので、より美味しく感じます!」と言って、可憐な微笑みを俺に見せてくれるのだった。
そうして俺と三葉先輩は、そのままお互いに食べさせ合いながらお弁当を食べ進め続け……
最後にそれを完食した時には、二人とも赤らんだ顔を見合わせ、二人して笑い合うのだった。
次話は恐らく麗奈視点
相太との別れについて触れていきます
それと全く関係ない話なのですが、昨日ツイッターのトレンドになっていた『あなたに惚れてしまった人』という診断を私は診断してみたのですが…
自身の名前だと、当然のように0人で泣きました
それでこれは0人以外にちゃんと表示されるのかを検証してみたくなって、別の名前を入力して診断した結果…
『相川 相太に惚れてしまった人は1人います。運命の人です。』と表示されたので、本当にびっくりしてしまいました
惚れた人は1人で、それが運命の相手…
それは一体誰のことを示しているのでしょうか?
とまあ、これが私の話したかった全く関係のない話でした
少しでも面白い・続きが読みたいと思って頂ければ、ブックマーク・評価をお願いします!