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特別棟はレベル9の特殊な結界の魔法陣が使われていて、魔法や武器によるダメージを精神的なダメージへと置き換えることが出来る。しかし、実践向きの戦闘を意識してなのか、痛覚は残っているため、この訓練でトラウマを覚え退学をする生徒も少なからずいるらしい。
精神的なダメージへと変換するため、レベルの高い魔法を受け続けていたら精神に多大なショックを受け廃人となる可能性があるため個人の力によて限度が決められており、その限度を超えたら気絶し、控室に転送される。
この魔法訓練はクラス全員によるバトルロワイヤル形式なんだが俺は男子たちの的となるため、瞬殺されていた。魔法訓練であればかなり痛みつけても訓練で済ませることができるため、ゆっくりと気絶をさせたいらしいが、昔の俺はあまりにも弱かったため魔法を2、3発受けたところで気絶をしていた。
けど、今日でそんな日々ともおさらばだ。そう決意をし、トイレから出る。俺はいつもトイレで着替えている。みんなと同じように更衣室で着替えたらまたいちゃもんをつけられ、からまれるからだ。
トイレから出て特別棟に着くともう既にほとんどの生徒は学校指定の黒の機能重視の戦闘服に着替え、自分の獲物の手入れや準備運動をしていた。
学校指定の戦闘服はかなり薄めだが、魔素の籠った糸で作られていて、魔力操作が行いやすくなっている。更にレベル1の付与魔法ではあるが魔力体制や防御力上昇などが掛けられている。
俺が特別棟に着いたことに気づいた男子どもが下種な笑みをうかべている。
「あっ、鴨が来たぜ」
「いつも背負っている楯が無いみたいだけど料理しやすくしてくれたのかなあ」
「アレクズは楯を持ってたほうが料理しやすいだろうが」
「そうだな」
あからさまに俺に聞こえる様に罵り大声で笑った。慣れたこととは言えど気分が悪くならないわけがない、キレそうになるのを我慢するために歯を食いしばる。
それを何も言い返すことができないから歯を食いしばったと勘違いしたのか更に腹を抱え笑っていた。
「皆さん聴こえますかー、全員、揃ったので今から始めたいと思うので控室に入ってください」
ウエスカー先生の風魔法の応用によるアナウンスで玄関の方でたむろしていた連中が控室に入る。
魔法訓練は撃破数によって成績がつけられ、最後まで残った人がクラス代表、2番目が副代表となる。地球の学校とは異なりしょっちゅうクラス代表が入れ替わる。学年代表も月に1回ある1組から8組までのクラス代表、副代表によるトーナメント戦で決められる。
今のところ俺のクラスである3組は学年代表でもあるミラが代表でギルハレース・リハンという上級貴族の坊ちゃんが副代表だ。
リハンはいじめの主犯格で陰湿なやつで、俺をいじめ、不満を出さないことにより男子の支持を得ている。魔導士としての才能があり、リハンが武器として使っている槍は学年でもトップクラスである。
戦闘場所は30人が200メートル間隔で配置できる広さがあり、実践的な訓練ができるように森林や川なども配置されている。更に驚くことは1回として同じ地形になることが無いということだ。
「それじゃあ、始めるよ、開始‼」
開始の合図とともに目の前が白くなる。一瞬だけだが体の全感覚が途切れる。何度も経験しているがこの感覚は慣れない。
視界に色が段々と戻っていく。きっかり、200メートル間隔で転送され訳では無いので周囲を見渡すと、槍を持っている青い髪のリハンがいた。
リハンも俺に気づいたのか口角が吊り上がっている。ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「アレクズ~、土下座したら見逃してやってもいいぞぉ」
土下座をする意味は無いが土下座をしてもリハンは見逃すつもりなんて無い。
なんて、言ったらリハンのプライドを傷つけることができるだろうか。いや、いつも、やられているように瞬殺させたほうがプライドを傷つけることができるだろう。
「おい、てめえ、何、笑ってんだよ」
どうやら、自分でも気づかないうちに口角が吊り上がっていたらしい。
「もういいわ、さっさ死ね」
リハンは俺に時間を取られることが嫌だったのか槍で俺の心臓を刺そうとする。その刺突を上半身だけ横にずらすことで躱す。
リハンが目を見開いている。俺が抵抗を見せたことを驚いているのか、それとも避けられたことなのか。
感覚が研ぎ澄まされているのか、スキルの力なのか分からないのが、1秒がとても長く感じられる。
そして、俺は想像する。今までの屈辱を焼き払う炎を、目の前の相手に見せつける綺麗な炎を、これからずっと忘れられないような恐怖の炎を。
「ヘル・フレイム」
右手から解き放たれた禍々しい黒炎は地獄の番犬であるケルベロスを形作り、目の前のリハンを焼き尽くす。炎魔法がレベル5まで上がると使える様になる魔法でこの黒炎は水魔法か回復魔法で消さなければずっと継続ダメージをくらわせる事ができる。
俺が魔法を放つ瞬間にリハンが驚愕していたが、それは無詠唱で魔法を撃ったことに対してなのか、魔法を使うことができたことに対してかはリハンが気絶した今となっては分からないが多分、両方だろう。
ヘル・フレイムはリハンだけでなく周りの木々や地面をえぐり、辺り一面の大地が荒地となっていた。