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桜が散り、初夏の爽やかな風と暑さが押し寄せて来る。白い遮光性のカーテンで光は遮られているはずだが、薄っすらと光が零れている。
俺が寝たきりの生活をするようになってから、もう一年くらい経っている。界生病と言われ、今のところ、治療法の見つかっていない難病だ。内臓やらの器官が一斉に機能しなくなる。
本当であれば、3ヵ月前には死んでいるはずだったのに何の間違いか今日まで生き長らえている。だけど、今日で終わりだ。
医者に言わせればもう少し生きられるらしいが自分の体のことは自分の方がよくわかる。両親には置手紙も残して置いた。やらなければいけないことも終ったので最期くらいは自分の好きな読書をしながら終わりたい。
「ありがとう」
俺はそっと呟いた。
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「………きてください、起きてください!」
俺は誰かの澄んだ声で意識が覚醒する。まばたきを2、3回、ゆっくりとして目を開ける。回診の時間で起こされたのかと思ったのだが、よく考えれば俺は死んでいる。
一先ず、声のしたほうに顔を向けると、そこには女神がいた。
「起きましたか?」
「起きたけど、ここは天国なの?」
辺りには何もなく、ここがとてつもなく広い空間だということしかわからない。天国というにはあまりにも寂しい。
生と死の狭間のようなそんな空間だ。生きていた時の未練があるわけではないため、何故、ここにいるのかが分からない。
「だいたい、合ってますよ、ここは生と死の狭間です」
「俺が考えている事はやっぱりわかるのか」
「あれ、驚かないんですね」
「本をたくさん読んできたから、むしろ、感動しているくらいだ」
テストの10分前に見たページがテストに出たみたいな感じだ。
今まで物語のなかの出来事が目に前で起こっている。俺はこんな非日常が好きだったのでノンフィクションの小説をよく読んでいた。特に好きだったのは……
「異世界に転生する物語でしょ?」
音が聞こえてきそうなほどウインクをされる。
「そんなあなたに朗報です」
女神はもったいぶるように一呼吸置いたので、次の展開は予想できるので、言ってやろうかと考える。
しかし、女神が人差し指を俺の口に当ててきたので仕方なく黙っておくことにした。
「異世界転生しませんか?」
「します」
「知ってたけど、返答が早い」
「で、能力とかのパラメーターは決めることはできるのか?」
「展開も早いね、時間が経っても理解が追い付かない人よりはありがたいんだけど」
異世界転生ではお約束だが、それにもいくつか種類がある。チートなスキルや能力を授かったり、パラメーター値の設定ができたり様々だ。
「もう私に興味がなくなってる!?」
女神がとりあってほしそうに頬を膨らましているので、少しは話を聞いてあげよう。登場人物の気持ちだけで物語が進んだら読者が置いてけぼりになってしまう。
「どんな世界に転生するんだ?」
「私が置いてけぼりになるのはいいんだ!?」
「あなたから俺を置いてけぼりするような話を持ち掛けてきた気がするんだが……」
「ちぇっ、からかいがいのない子だね」
ふてくされるような態度をとっているがそれも様になっているのをみると、美形だということだけで得をするのか。
「もう、つっこむのも疲れたから本題に移るよ」
やれやれと言わんばかりだが話をずらしたのは女神のほうなんだよな。一瞬、睨まれた気がするが気のせいだろう。
「まず、君が転生するのは人類と魔物が戦いあっている世界で、魔王も存在するよ」
「魔法はレベル制になってて習熟度でレベルが上がる、魔法を使うのに必要な魔力だったり、筋力、知力だったりのパラメーターも一緒で使えば使うほど上がる」
まぁ、ここまでは基本的な説明が続くがこれは異世界転生してからでも知れそうな話だ。しかし、俺がしりたいのはこんな話じゃない。
「はいはい、そんなことを考えなくても言うよ、異世界転生特典のチートがなんなのかでしょ」
「そうだ」
「簡単に言うと、キャラクター設定権だね、君の異世界転生したときの基礎値だったりを選べたりするよ」
「けど、限度があるからね、分かりやすくポイント制にしておくから合計で1000までにしてね」
1000っていうと少なく感じるが、実際のところはどうなんだろうか。
「ちなみにあなたが16歳で転生するんだけど、その年の平均がだいたい100ポイントだからね」
平均が100となるとかなり強い人がいた場合でも500くらいだと考える。更に16歳の時の平均と言っていたから1000くらいであればかなりいるだろう。
ということはパラメタ―設定をするときによく考えたほうがいいのか。
「あとはこのタブレットで魔法やスキルの詳細を知れたり、キャラクター設定ができるから終わったら言ってね」
俺は女神からタブレットを受け取る。そして俺はタブレットに意識を集中させた。
~4時間後~
俺はやっと 魔法やスキルなどの詳細を読み終わった。これだけ目を集中させたら目や腰だったり痛くなると思ったが痛くもなんともない。
今、気づいたけど、平衡感覚とかの感覚がなく、立っているのか寝ている分からない。
無重力とはまた違うフワフワな感じだ。
「終わったの?」
「いや、ここからキャラクター設定に移るが」
「え?うそでしょ」
「嘘を言ったてしょうがないだろ」
女神はまるでこの世の終わりだと言わんばかりなうつろな目をしているが俺はもう気にも向けずにキャラクター設定に移った。
~更に2時間後~
「終わった」
女神はその言葉を聞くと今まで愚痴っていたのが嘘のような綺麗な笑顔をうかべる。
俺はその笑顔に少しドキッとしてしまった。ずっと、こうであれば普通にかわいいと思えるのにな。
「言い忘れてたけど、君の記憶は16歳になるまではここであったことや地球上での出来事は覚えてないからね」
「わかった、長らく突き合わせて悪かったな」
「いやいや、いいよ~、あんまり気にしてないし、じゃあ、またね~」