プロローグ
俺、田島一郎はいつものように教室の隅の席で寝ていた。別にいじめられているとか、ぼっちだとか、そういうんじゃない。
別に極めて不細工と言うわけでもない。いつも清潔感を保っているのでいじめられる要素がない。
あえて言うなら物凄くモブっぽい顔立ちをしている。特に特徴のない顔だからそう見えるのだろうか?
今、俺は高校2年だが、1年の時はもっと友達もいたし、普通の高校生だった。
まぁ、少し事件があって無口になってしまった俺にどう接すればいいか先生も生徒も分からず、今では腫れ物扱いされている訳だ。
もちろん、今でも仲良くしてくれている友達もいるので特に困ったことはない。
俺は朝のHRまでまだ時間があるので机の上に突っ伏して意識を手放した。
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誰かに頭をつつかれる感覚と共に俺は起こされた。俺の幼馴染かと思い顔だけ向けて起きたことを伝えようとする。
が、至近距離で目に映ったのは幼馴染の顔ではなく長耳の美しい女性だった。
俺はあまりの美しさに相手の顔をマジマジと観察してしまった。
ほりはそこまで深くないので日本人ぽい顔つきをしている。
だが、1番異彩を放つのは地毛であろう綺麗な金髪と、黄緑と蒼色のオッドアイという事だ。
いつまで見つめあっていただろうか、相手の女性の方が先に顔を逸らして教壇の方へテテテと行ってしまった。
しかし、長耳が赤くなって揺れていたことだけは見逃さなかった。
あんな人いなかったよな。と思いつつ周りを見渡すと教室が真っ白になっていた。
というかあの女性と俺以外の色を全て落としたような世界になっている。窓からの景色も色が抜け落ちている。
「コホン。申し遅れました。私はフレイヤと申します。以後フレイとお呼びください。」
「おう?」
俺は自然と受け答え出来ていることに驚いた。いつもなら喋りかけられてもろくに喋ることさえ出来ないのに。
俺が驚いているなか、クスクスと笑っていたフレイヤもといフレイは急に真面目な顔をして言う。
「申し訳ありません。今から貴方達は異世界に転移されてしまいます。」
「あっ、はい。」
「なので、せめて異世界でも十分に生きていけるように私から何かしらのスキルや武器などを差し上げたいと思います。」
フレイはどこから出してきたのか右手にある杖を俺に向けて振った。すると、俺の目の前にスマホが出てきた。
俺が手にすると自動で電源がオンになり、アンケートなどのチェックリストのようなものが出てきた。
「その中から好きなものを5つ選んでください。」
剣︰〇エクスカリバー 〇アロンダイト
〇ティルフィング 〇フラガラッハ
〇クラウ・ソラス 〇アスカロン
槍︰〇ロンギヌス 〇トライデント
〇グンニグル 〇ゲイ・ボルグ
〇ブリューナク
など沢山ある。全部見ようものなら2時間ぐらいかかりそうだ。俺はめんどくさくなって適当にスクロールしていると武器カテゴリの最後の方に、
銃︰〇ヘイル・オブ・バレット
〇サリエル・ビターティアーズ
とあるのを発見した。剣や槍にも憧れるが使いこなせる気がしないので、比較的使いこなせそうな2つの銃を選択する。
あと、3つをスキルで埋めるため、スキルの所を見てみる。
剣技やら俊足やら色々あるがもうスキルは俺の中では決まっていた。
1つは銃の弾を複製するために、鉱物複製スキル。
1つは銃をすぐ扱えるように器用スキル。
1つは戦闘の補助に見切りスキル。
この3つを選んだ。
「決まりましたか?それでは、」
「待て待て、俺に質問させてくれよ。」
「あっ!そうでした!すごく流れるように確認が進んだのでつい転移させようとしてました。」
以外とおっちょこちょいなんですね。
それから俺の質問タイムが始まった。
どうやらあちらの世界はアーリスという世界らしい。魔王の復活により世界の7割が魔族の手に落ちており、そこで唯一の人間の国ライン王国は勇者の召喚儀式をした。
そして、召喚に選ばれたここのクラス43人が転移してしまうという話らしい。
それを感知した地球の神の1人であるフレイヤは彼らの意識だけをこちらに留め、一人一人異世界の説明をして、装備を彼らに託すことにしたらしい。だから、俺は1人で教室で寝てたわけである。
アーリスの世界では魔法は一般的に使われており、魔物を倒す時から鍋に火をかける時まで様々な所で使用されている。
あちらの世界の強さの評価はステータスによって決まるらしい。
ちなみに今の俺は
田島一郎 Lv1
MP 1000/1000
STR 100
DEF 100
INT 100
AGI 100
DEX 100
LUK 100
スキル
《アイテムボックス》《鉱物複製》《器用》《見切り》
称号
【勇者】【ガンナー】
奥義
『ヘイル・オブ・バレット』『死の神』
となる。
レベルは魔物を倒すだけでなく自分で特訓するなどでも上がる。
しかし、魔物を倒す方が断然楽らしい。
ちなみに、魔族の最高レベルは魔王のLv5000。
対して、人間のレベル上限は1000。
倒せる気がしない。
スキルはレベルとは違い、ある一定の基準を超えないと取得できないらしい。
例えば、夜でも視界が良くなる視界良好スキルは夜にモンスターと30回戦わなくてはならない。
称号というのは身分や功績を表すためにあるらしい。
こちらはパッシブスキルのようなもので、【勇者】は最終ステータスに1.5倍の補正がかかる。
本題だが、魔王を倒すにはかつて魔王と戦ったとされる戦乙女と共に戦う必要があるとか。
戦乙女は魔王との戦いの後の魔王復活のために自身の魂を洞窟の奥深くに封印し、勇者が解放してくれるまで眠っているという。
しかし、解放される前に魔王軍によって洞窟が占領され、ダンジョンとなっているらしい。
もちろん、戦乙女の魂の前には魔王の四天王が門番として守っている。
「うわぁー。無理難題。」
俺は一通り質問し終わり絶望にくれていた。
「俺ら1レベから始まる上に魔王はもう復活してる。世界は7割が占拠。勝ち目が見つからん。」
「確かに、少しきつい所はありますね。」
「死んだら復活とかないんでしょ?」
「《癒し》の戦乙女は死後三日以内なら復活させる魔法を持っていますが、それ以外にはありません。」
「さらに絶望的になった。」
そんなことを言っているうちに名案を思い着いた俺はフレイに質問してみる。
「フレイさん?魂だけをこちらに止めていると言うことはここでもレベル上げ出来るんじゃね?」
「敬称は慣れていないのでフレイでいいですよ?確かにやってみる価値はあるのではないでしょうか?」
結果。
『レベルアップおめでとうございます。』
レベルが上がった。
それから俺はフレイの見守る中1人で特訓を始めた。
最初はただひたすら窓のサッシに向かって銃を撃つ練習をしていたが、あまりにも効率が悪い。
よってフレイ考案で、あちらの世界のモンスターをフレイに仮想で作り上げてもらいひたすら戦い続ける方法になった。
最初はスライムから。そしてだんだんと強い敵と戦っていった。
中でも強かったのがゾンビ。
腐敗臭で鼻が曲がりそうな中、銃を撃つと人間の見えちゃいかんもんがボトボト落ちるのである。やけに生々しいものに何度精神的ダメージを受けて吐いたことか。
そうして、どんどん強くなる実感と共にフレイとの仲も深まっていった。
神の生活はほんとに暇らしい。日々、眠くもないお腹もすかない空間でただただ人間のシュミレーションを見続ける。
ただ、彼女は人の料理に興味があったらしく自分で1日3食お腹がすかずとも作って食べていたという。
実際彼女の作る料理はとても美味しかった。
毎日訓練とフレイとの会話だったため、彼女に恋ごころを抱くのにそう時間はかからなかった。
彼女のことが知りたいと訓練に打ち込んだあとは色々な質問をする。彼女もきちんと答え、こちらにも質問してくる。
そんな有意義な日々がどれぐらい続いたか分からない。
いつしか、彼女の思っていることが手に取るように分かるようになった。逆もまた然り。
しかし、楽しい時間はあっという間にすぎて行き、旅たつ時が来てしまう。
今の俺のステータスは、
田島一郎 Lv500
MP 7000/7000
STR 5400
DEF 3200
INT 3200
AGI 10900
DEX 9200
LUK 2800
スキル
《アイテムボックス︰極》《鉱物複製》《器用》Lv17
《見切り》Lv29《疾風︰極》《体術︰極》《視界良好》
《威圧︰極》《完全耐性》《武術》Lv5《再起》
《支配︰極》《察知︰極》《索敵》Lv2《気配遮断》
《鑑定》
《赤魔法》Lv1《青魔法》Lv1《白魔法》Lv25
《付与魔法︰極》
固有スキル
《邪眼︰極》《血涙》Lv1《倍加》Lv8《3倍化》Lv2
《5倍化︰極》《10倍化》Lv1《念話》
称号
【勇者】
最終ステータスに1.5倍補正
【銃を極めし者】
武器が銃の時、DEXに2倍補正
【神に抱きし恋心】
神族のパーティー1人につきステータス2倍の補正
人族パーティー1人につきステータス1/2倍の補正
奥義
『ヘイル・オブ・バレット』『死を司る天使』
『ウィークポインタ』『全魔力解放』
少しでも長くフレイと居たいがためにここまで強くなってしまった。
が、魔王はLv5000なのでまだまだ未熟である。
「じゃあ、よろしく頼むわ。」
悲しさが声に出ないように明るく振る舞う。
「じゃあ.....転移しますね。」
フレイと向き合っていると行きたくないと駄々をこねそうになるのでフレイに背を向けて別れることにした。
だんだん白くなっていく自分の意識と感覚の中でも背中に伝わる彼女の温もりと、
「一郎様。いつまでもお慕い申しております。」
の声だけはしっかりと伝わった。