駄菓子
一学期が終わり。
蝉の鳴き声が響き渡ると、太陽は普段より自己主張を始め、空には溢れんばかりの青空が広がる。
世はまさに夏休み。
僕は半袖短パン姿で家を飛び出すと、右手に100円玉を握りしめて駄菓子屋さんへと駆けつけた。
最近ではめっきり見かけなくなった昔ながらの雰囲気を保った駄菓子屋だ。
店頭にはガチャポンが三機あり、どれもこれもが物欲をそそるが、予算100円では手の届かぬ高嶺の花。
結局眺めるだけにとどめて、店内へと侵入し今度は駄菓子の物色を始める。
10円、20円、30円。
値段が上がればそれだけ駄菓子としての質は上がるが、それに反して量が減る。
僕はあれこれ悩んだ挙句、10円のラムネ菓子を10個選んだ。
「おばちゃん!これ!」
「はいよ。ちょうど100円ね」
100円玉を店番のおばあちゃんに渡し、すぐにラムネを口に運ぶと、たちどころに幸せが広がった。
単調な味付けに独特な食感。
駄菓子の醍醐味だ。
僕が店先で駄菓子に舌鼓を打っていると、学校の友達も駆けつけてきたようだ。
「ベイゴマしようよ!」
一人が提案すると、やろうやろうと店先でベイゴマ大会が始まった。
なんて楽しいんだろう。
なんて嬉しいんだろう。
そして、なんて懐かしいんだろう・・・
そう思った時、突如として目眩がした。
視界はぼやけ、周りの風景は霞む。
おかしいなと気づいた時には、周りの景色が都会の路地裏通りに早変わりし
ベイゴマを楽しむ子供達の姿が薄汚い大人の姿へと様変わりする。
割れた窓ガラスには自分の姿が映った。
ヨレヨレのスーツ姿にボロボロのスーツケースで、目には全く覇気が感じられない。
だが、それが見えたのも一瞬のこと。
駄菓子が足りないことに気づいた僕は、ラムネを口いっぱいに頬張ると、再びあの日の夏へと帰っていった。
物語を思いついた時、「だがし」を文字って「人を駄目にするお菓子」と書いて「駄菓子」としました。
よく見りゃまんまです。
薬物の隠語になっていてもおかしくありませんね・・・