一つの空白を目指して動き出したハナシ。
「焼身の獣」
秋。空。空想は終わらない。わたしという供物を天に捧げ。 私は美しくなる。
第1章
実際のところ、私という存在は全くもって曖昧だ。高鳴る鼓動などなく。私はただ小説家をしている。
もちろん、それは仕事として。くだらない、娼婦の仕事だ。
それを知る前は絵描きを目指していた。結果は残した。完成しないという結果を。
第二章
大体のところ、携帯の電話の連絡は編集からの連絡が多い。大体、あれしろこれしろと五月蝿いのだ。
そら、今も来るぞ。
「もしもし?」
「何すか。荒川編集。用件は的確に」
「君ねぇ…。まあ、いいや。新作の原稿の話なんだけどさ」
「ええ、もちろん進んでいますよ。当然じゃないですか」
これはもちろん嘘だ。三日徹夜したが、一行も書けなかった。誇張なしに。いやホント。
「それは良かった。大学の文化祭の演劇の脚本もあるんだろう? 大丈夫なのか」
その大丈夫は一体何を指しているのだろうか。理解不能だ。
「大丈夫です。終わってます」
これは本当。
「そうか、では新作は大丈夫だね。また三日後に聞かせてくれ」
『ブチッ!』
そういって一方的に叩きられた。
ふ ざ け る な 。
(これだから、回線というやつは嫌いだ。価値がない)
そこで私は頭を掻きむしった。その価値のないという、価値観も。それでは無価値になるではないか。どうしろというのだ。
胃のムカつきというよりも、かえって高鳴る鼓動を押さえ込んで、私は新作の原稿を放り出して大学に向かった。
「結論、小説家は食うにも値しない」