5話
巣に帰った俺は、ざっと体の汚れを落とすと例の青年のもとへと足を運んだ。
青年は今日も自室で何かを製作中だった。
オッス青年、元気してっか?
部屋の隅に置かれている木の実と根っこは今日のメシか?
たまには肉も食わねぇとリキが出ねぇぞ。
よし、オラが美味ぇもん食わせてやっぞ!
『何を言ってるのか良く分からないけれど…君の初めて獲った獲物か。それじゃあ、有難くご相伴にあずかろうかな。』
そんじゃ、いっちょやってみっか!
オラは…俺は適当なサイズの石を組んでカマドを作り、ダチョウ肉を一口サイズに切り分ける。
今日の帰り道に自生しているのを見つけて引っこ抜いてきた野生のネギ(食えるかは大人に確認済み)も適当にカットして、カマドを作っている間に青年に準備してもらっていた串に刺す。
そう、作っているのは焼き鳥だ。
異世界転生で料理と言えば唐揚げが定番だが、あいにく俺は唐揚げ粉とか作り方も知らん。
なので焼き鳥。
火を噴くダチョウを焼き鳥にしてやるという皮肉も入っているんだがね。
醤油も味噌も無いからタレは無理だが、岩塩はあったので味付けは塩のみ。
正直物足りないが仕方が無い。
早速カマドで焼き始めるが、炭火じゃないから火加減がクソ難しいな。
作ってもらった串がむしろ炭化していっている。
クソがっ!
あ、でも香りは結構良い感じ。
鶏肉の香ばしいオイニーが部屋中に広がっていく。
『なんでだろう…ただ焼いただけなのに、凄く美味しそうな匂いがする。その野草と一緒に焼いたからなのかな?』
ええ、ええ。
そうでげしょう、ダンナ。
…でも本来なら、タレが焦げる殺人的に良いオイニーがするんですよぉ。
アレを知ってると、どうしても数段劣るよなぁ…。
焼き上がった串をデカい葉っぱにのせ、適当に胡座をかいて食べ始める。
…おお!塩だけで不安だったけど結構イケるじゃん!
まぁどちらかというと調理法より素材の力な気もするがね。
青年も美味しそうに食ってる。
『…それにしても、初めての猟で火吹き鳥を狩ってくるとはね。あれって本来、大人が数人で挑んで何人か犠牲者が出る魔物なんだよ?君より確実に格上の魔物なはずなんだけれど。』
は?マジで?
確かに俺達も全滅しかかったけど。
食料庫に普通に骨転がってたから、そこまで格差があると思ってなかったわ。
…それにしても、パネェな。
リザードマンのネーミングセンス。
火吹き鳥って、安直すぎるだろ。
…あ、そうだ。
ダチョウを解体した時に出てきた、変な水晶みたいな物を青年に見せる。
これって何か分かるか?
『これは…魔石って奴だと思う。大型の魔物の体内で稀に精製される、魔力の塊みたいな物なんだって。』
…魔石!魔力!
すげぇファンタジーらしいワードが飛び出してきたぞ。
じゃあアレっすか、魔法とかもやっぱりあるんすかね?
『もちろん。…ただ、リザードマンって種族は魔法の適性が低いらしくてね。僕が知る限りでは、魔法を使える個体はいないね。』
クソだ!
期待した分倍クソだ!
魔法なんてあるなら使ってみたいに決まってるってのに!
…まぁ出来ない物は仕方ない。
あ、それじゃあ火吹き鳥の炎も魔法だったのか?
頭を切り離したら爆発したから、てっきりガスみたいな物を吹き出してるのかと思ってたんだが。
『へぇ…それは面白い解釈だね。そうか、ガス…。…そうなると…。』
青年は魔石を覗き込みながら何やらブツブツ独り言を始めてしまった。
…元々自分の世界に入りやすい奴なんだろうな、ぼっちだったみたいだし。
『ねぇ、この魔石、僕に預けてくれないかな?ちょっと試してみたい事があるんだ。』
別に、構わんよ。
ピカピカ綺麗だけど、そんなもん俺が持ってても仕方ないし。
なんだったらこの魔石を詳しく研究して、魔法の秘密でも解明してもらえると助かる。
…単純に俺が使ってみたいからね。
そんな話をしていると、ふと気配を感じた。
部屋の入り口を見ると、顔にボロ布を巻き付けた奴等がこっちを見ている。
不審者…いや、不審リザードマンだ。
つーか普通に同期の三馬鹿だ。
一緒に盾持ってた奴も居るし。
…きっとあの布の下は、例の薬草を貼付けられているんだろう。
大方焼き鳥の香しいオイニーに誘われてやって来たんだろう。
猟に出るようになったリザードマンは、群れからの食糧供給を絶たれる。
自発的に獲物を獲るように仕向けられるのだ。
そうして、死にものぐるいで獲ってきた獲物も、自分の物になるのは半分だけ。
残りの半分は巣の食料庫にまわされる。
これは実質ボスとその妻達、そして生まれたばかりの子リザードマン達の食糧だ。
つまり、獲物を獲れなかったリザードマンは飯抜きなのだ。
…まぁ当然だな。
働かざる者なんとかってヤツだ。
ちなみに、青年が獲ってくる獲物は魚以外は他のリザードマンには不評らしく、『そんなモンいらん』とのお言葉をいただいているらしい。
『…そこの君達も、一緒にどうだい?』
!?
何言ってんだこの平和ボケ青年は!?
これは俺がこの手を汚して獲ってきた獲物だ!
そう、命を賭して得た対価だ!
それを何勝手に分け与えようとしてるんスか!?
確かに、初めての猟で火吹き鳥なんて格上とあたっちまったのは想定外だったろう。
そう、あれは事故だった。
でもな。
"事故"る奴は…"不運"と"踊"っちまったんだよ…。
『初めての猟で彼等も疲れているだろうし、怪我を治すのにも食事は必要だよ。…君が獲ってきた分を出したく無いって言うなら、僕の食糧を分けてやるのなら良いだろう?』
…クソが…!!
…アッタマきたぞこの野郎っ!!
そんな風に言われて出し渋る程、俺のア◯ルは小さく無ぇんだよ!
おらっテメエ等さっさとこっち来いっ!!
どいつもこいつも物欲しそうな面しやがって!!
ほら遠慮せず食えよ、一歩間違ったら逆にお前等が食われてた鳥をっ!
コンガリ焼けてて美味そうだろう?
炭火じゃ無ぇけど、お前等の生焼けの面よりよっぽど上手く焼けてるだろう!?
…どうした、泣く程美味いか!
まだまだあるから残さず食え!一本一欠片たりとも残すんじゃ無ぇぞ!!
…あ?弓矢の奴じゃねーか、何見てやがる?
『…獲物、一人じゃ食いきれそうに無かったんでな。これも使ってくれ。』
…キザ野郎が、一々やる事が癪に触りやがるっ!!
テメエもそこに座れっ!
お望み通り残さず焼き鳥にしてやるよっ!!
テメエ等で全部食えよ!?残したら頭蓋骨噛み割るかんな!?
…何をニヤニヤしてやがる、青年。
元はお前が言い出した事だろーがっ!?
さっさと追加分の串を作る作業に戻りやがれっ!!
あーもうクソがっ!!
クソ共がっ!!