君さえいれば
季節外れ、すみません!!
そして、久しぶりなのに、短文&悲恋すみません。
桜が満開になり始めた。寒い日が続いたせいか、今年は例年に比べ、開花が遅かった。石神宏弥は一人で桜を眺めていた。ピンク色の桜が空を彩り、風に吹かれて少しだけ舞う。その下を歩く人々が、感嘆の声を上げ、幸せそうな顔をしていた。そんな中宏弥の表情は一人浮いている。泣きそうな、苦しさを押し殺すようなそんな顔。
それもそのはず、宏弥はたった今、2年付き合っていた彼女に別れを告げられたのだ。宏弥は有名企業に就職が決まり、そして彼女は、今年も就職活動を継続することとなった。
嫌いになったのではないと彼女は言った。ただ、宏弥とともにいるとつらいのだと。
彼女には夢があった。映画を作りたいのだと言う。けれど、それは狭き門である。だから彼女は、あきらめた。大学すらも、そこを目指さなかった。少し興味がある分野。自分が入りうる有名大学を選んだ。夢をあきらめてまで将来を考え、行動していた。それなのに、彼女を受け入れる企業は彼女が探した中にはいなかった。それが泣きたくなるくらいつらいと泣きながら彼女は宏弥に言ったのだ。
宏弥は彼女を抱きしめた。けれど、彼女はその手を振り払った。同情なんてするなと、どうして夢もないあなたが選ばれるのだと。そして泣きながら一緒にいたくないと言ったのだ。
そんな彼女を見て、宏弥は頷くことしかできなかった。別れたいというのなら別れよう。それしかできなかったことが悔しかった。
どうして「君だけでいい」と言えないのだろう。宏弥は何度も考えた。「君さえいれば、他は何もいらない」とそう彼女の夢を応援することもできたはずだ。有名企業への就職も捨てて、彼女と夢を追う泥臭いけれど幸せな人生を歩むこともできただろう。けれど宏弥はそうしなかった。彼女より、自分の生活を優先した。あんなに大好きな彼女だったのに。
いろんなものが欲しいかった。金も、地位も、名誉も全部欲しかった。彼女のことが大切なのに。彼女が、優しい言葉を求めているこがわかっていた。嘘の言葉でも、ずっと傍にいると、変わらず好きだと。もう一度夢を追いかければいい、俺が支えるよ。そんな言葉を求めていると知っていた。嘘だって、構わないと思っていることも。
けれど宏弥は何も言わなかった。頑張ればいつかは叶うなんて言葉を。これから先もずっと君が好きなんて理想の言葉も。
どうして、言えないんだろう。どうして、傷つけてしまうんだろう。宏弥は自問自答する。こんなに愛しているのに、どうして、嘘でも言えないんだろう。
「君さえいれば、他は何もいらない」と。言えない自分が悔しくて、言えない自分が嫌いになった。
宏弥は、これから仕事をしていく。いろんなことを覚え、いろんな人と出会うだろう。
「君さえいれば、他は何もいらない」
いつかそう言える日が来るのだろうか。
ここから続けようと思ったけれど、続かなくて、完成としてしまいました。
読んでいただき、ありがとうございました!!!