プロローグ
「ディカルプス・スレイヤーッッッ!!!」
ドゴォォォォン
「はあっ、はぁっ…! これで倒せたか!?」
「くくくく……」
「!」
「ここまで、私を追い込めるとは………」
「流石だ。褒めてやろう……しかし…」
気づくと闇のオーブに囲まれてしまっていた。
「なっ! しまっ……」
「闇ノ藻屑二消エヨ………」
散りばめられた闇のオーブが一つに集まって……
「悪羅」
大きな闇のオーブがゆっくりとこっちに向かってくる。
「うわぁぁぁぁああ!!!」
その、威力は凄まじく、逃げようにも逃げ場がなくなってしまい、虚しく呑み込まれてしまう。
「この闇のオーブに呑み込まれたモノは全てが無になる」
「これで、お前も終わりだ」
ゴゴゴ…………
「!?」
(なんだ、このオーラは……)
悪羅はまだ、続いている。
しかし、悪羅の中に人影があるではないか。
(……あの人影はなんだ……悪羅に触れたモノ全てが無になるはずだ)
「くっくっくっくっ」
悪羅の中から高い笑い声が聴こえた。
「!!!」
その瞬間、悪羅が二つに分かれた…いや、斬られたのだ。
斬られた間から謎の男と力尽きている奴が見えた。
「貴様……何者だ!!」
その男は派手な紫の浴衣を着ていた。黒い艶美な長い髪をしてい、顔は目のところだけ異様なマスクをしていた。右手には2mもある大きな刀を持っている。その刀で悪羅を斬ったのだろう。
「くっくっく、何、名乗る程ではない」
その男はニヤッと笑いながら、話を続けた。
「!」
「強いて言うなら……私は、世界……いや、宇宙最高の男を目指しているものだ」
キーンコーンカーンコーン……
その音で、今日の妄想は終わった。
(ふぅ……今日もなかなか良い妄想ができたな)
授業が終わった途端に部活に行くだの遊びに行くだの騒がしくなる。
その中で、一人ゆっくりと下校の準備をする男がいた。
名は 羽佐間 一平 。
年は17歳、明音高校の2年生だ。
人とどこが違うかといえば、隠れ中二病であるところだ。
中二病というのは主に中学2年生の思春期に見られる病気である。
彼は高校2年生になってもその中二病を治すことが出来なかった。しかし、自制は効いているのでいきなり、謎の言葉を叫んだり、右手を出して「疼く……」というパターンもやらない。
彼は頭の中で演じながら中二病の病状を抑えている。
妄想で世界を作り、その世界の中で本当の自分とは違う自分を出しているのだ。
……まぁ、時々、なんか訳の分からない言葉を叫びたくなる時はあるんだけどな……
いつもと変わらぬ帰り道を歩いていた。そこの角を曲がれば家に着く。
その時に……
「きゃあっ」
上から悲鳴が聞こえた。
「!?」
ドシーーーーーン
「いったぁい……」
煙が凄く、状況がつかめない。
分かる事といえば、上の方に謎の狭間ができているという事だ。
そこから、悲鳴と共に女の子が落ちてきたのである。
煙が晴れて、ようやくその姿を見ることが出来た。
「うーん……」
その女の子はこことは少し違う服を着ていた。
ワンピースみたいな格好なのだが、薄い光に包まれてい、透明っぽいのに肌が見えないところが少し残念であったのは秘密だ。
「あ、すみません! 私は違う狭間の世界から来たものです!」
その女の子は私に気づいた途端に慌てて立ち上がり、ペコッとお辞儀をした。
「む……?」
その女の子はいきなり、まだ状況がつかめていない私の手をとり、
「突然ですが、私達の世界を救ってください!」
…………………
「……ただいまー」
一平は妄想から帰り、玄関に入った。帰り道での妄想も生活の一環だ。うん、今日も調子がいい。
靴を揃えて、リビングへ向かう。
(……よし、いつもの日課をやるか)
一平はテレビの下にある台の引き出しから、DVDを取り出しDVDプレーヤーに入れた。
彼の日課は学校から帰ったらすぐにアニメを見ることである。
そうする事で、妄想力が高まり、中二病が楽しくなるのだ。
「ふふっ、やっぱり、カッコいいなぁ」
このアニメに出てくる一人のキャラが好きで、彼の中二病の設定も彼と似せるようにしているのだ。
気づくともう、暗くなっていた。
(母さんはまだ帰ってこないか……)
一平の家族は母1人だけであり、父は13年前に原因不明の事故でなくなっていた。母は生活費のために遠いところから仕事に通っている。それで、遅く帰る事がしばしばあるのだ。
(先にお風呂入るか)
テレビのスイッチを消し、お風呂へ向かう。
「うっ、やっぱり、シャワーの始めは冷たいな……」
その冷たさが終わった瞬間の温かさを体にしみながら、シャンプーをとろうとする。
「ウーーーーーーーーー」
「えっ?」
初めは救急車の音だと思った。
「ウーーーーーーーーーーーー」
その音はさらに大きくなる。
「う、うるさいな………救急車にしては少しおかしいな」
一平はそのうるささに耐えきれなく、お風呂から出ようとした。
(あ、シャワー止め忘れた……)
シャワーを止めようとした時、違和感を感じた。目の前にたててある鏡が歪んだように見えたのだ。
(えっ?)
鏡を数秒間見ていると、
ビリリッ
電気が流れるような音と共に手が鏡から出てきたのだ。
(んなっ!)
一平はホラーが大の苦手である。腰を抜かし尻もちをついてしまう。
ビリリッバリッビリッ
手から腕、そこから肩、顔……という順にゆっくりと鏡から出てきた。そして、体が全て出てきたとき、そのまま倒れてきた。
(……あれ、幽霊にしては少し違うような)
その人は、見た目からして子供っぽかった。水色のショートカットで小さな顔、細い体をしており、未来的な服を着ていた。スカートらしきものを履いているところから女の子だろう。
(…………妄想…ではない……)
確かに一平はこのような非現実な事を望んでいた。
しかし、いつもやっている妄想通りのシチュエーションではなかったからなのか、喜びより、驚きの方がやや大きかった。
「………」
体が動いたような気がした。
「! 大丈夫か……?」
一平は、まだ、腰が抜けているのか座り込みながら様子を見る。
女の子は、一平の声に気づいたのかぱっちりと目を開けるとゆっくりと起き上がり、頭を痛そうに抱えながら、こう言った。
「……あなたが、私のマスターですか…?」
「えっ?」
彼女の目はとても透き通っており、悲しい目をしていた。
シャアアア………
シャワーが彼女の身体を少しずつ濡らす。肌が透け通り、妖美でとても子供に見えない様な美しさが彼女にはあった。
彼が望んでいたシチュエーションとは程遠いお風呂の中で一平は呆然と謎の女の子を見ていた……………