最期の言葉
登場人物の死の描写があります。
苦手な方は、閲覧を避けることをおすすめします。
幾つ年齢を重ねても
どれ程の時を歩いても
忘れられない言葉がある。
父である国王が崩御して
26歳で王位に着いた私は、
その翌年、隣の小国の王女を妃に迎えた。
この婚姻は小国側からの提案で、
有り体に言えば小国との関係を良好に進める為の
政略結婚だった。
嫁いできた姫はまだ16で、
十以上もの年齢の差故、
私には子供にしか思えず、正直扱いに困った。
多分、姫の方もこの婚姻に戸惑っているだろうと、
私は王城内の離宮に姫を住まわせることにした。
此処なら政治的な問題に巻き込まれることもなく、
落ち着いて生活できるだろうと考えたのだ。
それがこんなことになろうとは
思ってもいなかった。
婚姻から約1年。
王城での晩餐会に姫のご両親である
小国の国王夫妻が現れた。
娘の顔を見たいという二人に、
彼女を晩餐に出席させることを忘れていた私は、
少々気まずい思いをしながら、離宮へと案内した。
離宮には鍵がかかっており、
解錠して中に踏み込んだ際、
異様な違和感に包まれた。
その意味も掴めないまま、姫の部屋へと進む。
姫の部屋もまた施錠されていた。
更なる違和感に襲われながら鍵を開けると、
床に姫が倒れていた。
慌てて抱え起こした彼女は異常に軽く
骨が浮き出る程に細い。
何度も彼女の名を呼ぶと
ゆっくりと瞼を開けて私をその瞳に映し、
小さく、だがはっきりと呟いた。
「食事も、水も、与えなければ、
余計な妻は、勝手に死にますもの。
邪魔者を、簡単に排除する、
素晴らしい、政治的、手腕ですわ。」
王位に就いて間もなかった私には
思い至らなかったのだ。
国王に相手にされず、
王国内に有力な後ろ楯のない妃が
使用人達からどういう扱いを受けるのか。
身の回りの世話をしてもらえなくなり、
掃除をしてもらえなくなり、
食事も回数が減って、挙げ句与えられなくなり、
食事と同時に水さえも与えられなくなり、
更には、その扱いを秘する為、
姫が直談判出来ぬよう鍵を掛けられて、
16の少女にどう抗えたというのだろう。
一体いつから食べていなかったのだろうか。
一体いつから渇いていたのだろうか。
一体どれだけの不安と孤独に
苛まれてきたのだろうか。
王位にあるが故の重責を抱え、
大量の執務に追われていたとはいえ、
どうして私はもっと彼女を
気遣ってあげられなかったのだろう。
どうして私は一度も彼女の様子を
見に行ってあげなかったのだろう。
即座に王城に移し看護をしたが、
その後一度も目覚めることなく、
静かに彼女は逝った。
その後、私は伴侶を得ることなく、
独り政治的手腕を奮い続けた。
そして今、やはり独りで死の淵にある。
この先に彼女はいてくれるだろうか。
私は彼女に逢うことができるだろうか。
つい出来心で、一気に書いてしまいました。
読んでくださって、ありがとうございます。