最終章 証
最終章 証
卒業式にもらった指輪は、毎日身に着けて離していない。唯斗にもyesの返事を返した。ケーキも美味しかったし、何より、あの綺麗なオルゴール。あれも唯斗の手作りだったらしく、桜と言う曲が入っている。
何もかもが、私にとって、思い出であり、宝物に成った。
そして、手術の日。
私は、台に乗って居る唯斗をずっと隣で見ていた。一言だけだけど、弱音をわたしに吐いて来た。
「俺、死にたくないよ。」
私は、強く唯斗の手を握り、勇気づける為にこう言った。
「大丈夫。唯斗。貴方は死なない。だって、約束でしょ?」
左手の薬指に輝く指輪を見せた。
「そうだよな。俺は、お前に約束したもんな。死なねぇって。」
「そうだよ。これが〝証〟なんだもん。」
私は、そう言って左手を見せて、今出来る、精一杯の笑顔を唯斗に向けた。
「解った。行ってくるな?薫。」
「うん、頑張ってね。」
私は、先生に唯斗をお願いし、手術室の外にある椅子に腰を掛けた。
そして、手を握り、祈った。
―神様、唯斗を死なせないで下さい。お願いします。唯斗を助けてあげて下さい。―
私は、涙を流しながら、神様に祈った。
それから数時間が経ち、出頭してくれた、山西先生が手術室から出てきて、私に頭を下げてきた。
「最大の手段を尽くしました。もう大丈夫ですよ。声帯の方も傷ついて居ませんから。」
そう言って笑顔を向けて、山西先生が去っていった後、私は力なく地べたに座り込んだ。
それから一週間が過ぎ、唯斗は退院した。
「先生、声帯の方もカバーして頂き、有難う御座いました。」
唯斗が深々と頭を下げながらそういった。
私も唯斗同様にお礼を行って、頭を下げた。
「いいえ、どう致しまして。もう声の方は大丈夫そうだね?」
「はい。もう大丈夫です。有難う御座いました。」
唯斗は笑顔を向けると、私の左手を絡めとった。
「行こうか?」
「うん。」
唯斗が私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いてくれる。私はたったそれでけの事なのに、ついつい、笑みがこぼれてしまう。それが何故なのか、件等もつかないけど、今はそれでもいいから、互の時間を大事にしたいと思った。たとえそれが、つかぬまの事だとしても、唯斗とこの先、生きてゆけるという実感があるなら、今を大事にしたいと本気で思った。
私達は、事前に買っておいたマンションに、帰った。そこには、今日唯斗が退院すると聞いて集まったブラストのメンバー、それから、愛加ちゃんと七瀬ちゃん。皆が集まっていた。
唯斗はまだ状況が掴めないらしく、ポカンとしていた。
私はそんな唯斗に耳打ちした。
『今日、これが終わったら二人でどっか行こう』
と言ったのだ。
「何なに?二人してー。」
「そうそう、席ついてよー。」
「そうだよー。」
愛加ちゃんと七瀬ちゃん、宮磨君が、そう言ってくれた。
その夜。皆はもう遅いからと言って、帰っていき二人きりになった。
私も、散らかった部屋を片付けると、唯斗の隣に腰を下ろし、肩に持たれた。
何を話さなくても、気持ちが伝わるとは思っていない。でも、今は・・・、今だけは、この二人の時間に浸って居たい。私はそう思うと、唯斗の手を、強く握った。唯斗は、ギュッと私を引き寄せると、見つめ合い、口付けをした。
お互いの存在を確かめ合うかのように、唇を重ねた。
「薫っ、大好きだ。」
そう言って強く、私を抱き締めた。
―これからもこの幸せが、続きますように―