卒業
第五章 卒業
そして、高校の卒業式。
この綺麗な門を潜るのもこれで最後かと思いながら一息つく。
私は、森山大に推薦で合格し、晴れて緑山を卒業する。緑山は、私立高校だから、大学も付属なんだけど、将来の夢が在るから、私は森山大に行く。
私の夢は、保育士。だから、大学は保育科に行く事にしたんだ。森山大は、サークルとかも有るらしいから、行くのが楽しみだ。一回、見学で行ったことが有るけれど、本当にいい学校だった。緑が溢れていて、校舎は古いけれど、中は食堂とかもあって、清楚な雰囲気だった。校内には、笑い声や、話声。それから、楽器の音・・・。四月から、この学校に通うんだと思うと、今からワクワクしている。
「薫、何辛気臭い顔してんの?」
親友である七瀬ちゃんが愛加ちゃんと一緒に門を潜って来る。
「んーん。何でもない。」
私は、息を飲んで笑顔で振り向いた。二人とも、笑顔で私を迎え入れてくれ、たわいの無い会話をした。
そんなことをしていると、男子校の方から声が聞こえてきた。私を呼ぶ、声が―――。
「薫・・・。」
透き通った声が、私の耳に届いてきた。私は、男子校の方に首を傾けた。そこには、唯斗が居た。大きな声は出せていないが、私に声を掛けてきてくれた。それだけで胸が、キュンって高鳴った。
「唯斗だ・・・。」
私は唯斗の方へと向かい、走った。
皆は、私たちが双子の兄妹って事は知らない。と言うより、教えていない。
だけど、私はそれでいいと心から思っている。
だって、許されない恋だと解っているんだから。
「どうしたの?唯斗。」
「んーん。姿見かけたから、声掛けただけだよ。・・・あっ、それとこれ。皆で食べなよ?」
唯斗が渡してくれたのは、ショートケーキだった。しかも手作りの。
「溶けちゃうよー、どうしろっていうの、これ。」
「今食え。」
唯斗はそう言うと、柵から飛び降り、歩いて行ってしまった。
「どうしたの?それ。」
いつの間にか、となりに来ていた愛加ちゃんが、タッパを指さして尋ねる。
「唯斗が、友達とたべろって。」
「よーし、卒業式サボって屋上行こっか。」
七瀬はそう言うと、笑顔で屋上に向かった。私達も呆れながら、後をついて行く。
屋上に着いて、タッパの蓋を開けると、ケーキと一緒に、綺麗なオルゴールが入っていた。
「何だろう?これ・・・」
私はちっちゃな取っ手がついている事に気が付き、取っ手に手を掛けた。
そして、開いてみると、そこには、半分に折ってある紙と、シルバーの綺麗な指輪があった。
「素敵ね。これ。」
タッパに入っているケーキの事も忘れ、三人とも、オルゴールに夢中に成っていた。
私は、取り出した半分に折ってある紙を開いた。
私は、はっと息を飲んで、もう一度書いてある文字を呼んだ。
〝俺の病気が治ったら
結婚しよう〟
間違いなくそう書いてあった。綺麗な字で、唯斗の性格がバッチリ出ている字。
私は、指輪と、手紙を交互に見た。
何度確かめても、その光景は変わることがなかった。私はその事が確認できたとき、ポロと涙が溢れた。この涙は、悲しいから出ているんではない。嬉しいから、涙を流してるんだ。
「ちょー・・・薫?どうしたの?」
「薫ちゃん?」
二人が、そう言って、私を心配して見てきた。私は、制服の裾で涙をぬぐい、笑顔を見せた。一片の邪念も曇もない、笑顔を。
「もう・・・、しょうがないなー。」
と呟きながら。