・大事な人
右方向人影なし、左方向も同じ。
誰にもみられていないことを確認すると、私は肝心の場所を覗き込んだ。
「よし大丈夫、誰も入ってない」
そして私は荷物を抱え、無人の男子トイレへと駆け込んだ。そして、個室に入りこむとすぐに鍵をかける。
「ふぅ、誰にもみられなかったよね?」
ひとりごとに答える声は当然ない。
男子トイレには始めて入ったけれど、個室の中身は女子のものと大差ないようだ。でも、掃除が行き届いていないのか、なんだかすっぱい臭いが鼻につく。
私は臭いを我慢し、便座に座るとスカートの下から自らのパンツをおろした。
そして荷物からインスタントカメラを取り出すと足を開き、自分の性器に向けてシャッターを切る。
パシャリ
パッとフラッシュが焚かれた直後にそんな音がした。
つづけてジーという音とともに白い紙が排出される。それを手に取り待っていると徐々に自分を写した画像が浮かびはじめた。
▼ ▼ ▼
パソコンの履歴で弟が女の人のあそこをみたがっていることを知った。
でも、うちのパソコンには子供用のフィルター機能が設置されているため、弟の願いは叶えられなかったはずだ。
ベッドの下に隠したエッチな本でも肝心な場所は塗りつぶされている。
弟はそれをどんな気持ちでみたのだろうか。
姉としては愛しい弟のため、なんとかしてあげたいところだけれど、直接みせるなんてことは恥ずかしくてできない。
ならば写真ならどうだろう。それならギリギリセーフかもしれない。うん、弟のためならそれくらいのことはできる。幸い我が家にはインスタントカメラもあることだし、それを使えば現像にも困らない。
でも、あそこの写真を撮って直接弟の荷物に入れたのでは、私が犯人であることがすぐにバレてしまう。写真も家で撮っては、余分なものが写り込み、それで私と特定されてしまうかもしれない。
そこで私は何日も何日も考えた。どうすれば自分の正体を明かさずに弟の願望を叶えることができるかを。
そして、時々帰りの遅くなる弟がこのトイレに立ち寄っているという情報を掴んだのだ。
ここに写真を残しておけば、きっと弟の望みは叶うだろう。
それにこの場所で制服姿の写真を撮れば、学校が特定されることはあっても、私であるということはわからないはず。
▲ ▲ ▲
やがて、写真に写されたものが完全に浮かびあがる。
「きれいに写ってないな」
フラッシュは焚いたものの、スカートの影で肝心の部分はうまく写っていない。
これじゃ弟は満足しないかもしれない。
「もっとスカートをちゃんとあげて……、そうだ中ももっとみやすいように……」
撮り直しを決めると、スカートの端を口でくわえ性器も指で広げる。残った手でシャッターを切ろうとすると、今度はバランスがとりにくい。
悪戦苦闘をしているうちに、頭を壁にぶつけ、大きな音を立てた。
「あたた」
頭を押さえる。いったい私は男子トイレでなにをやっているんだろう。不意にそんな冷静な思考が頭をよぎる。
そうだ、ここは男子トイレなのだ。
お腹の弱い弟が帰宅まで我慢できずに立ち寄る男子トイレの個室だ。
その事を意識したら、なぜか胸がキュンとなった。
だから、私は『用事をすませ早く立ち去らなければいけない』と思いながらも、ちょっとだけ長居をしてしまった。
その後、そこに残した写真には、ちょっと考えられないほど湿っていたものが写っていた。