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第九章 二人の秘密 4

 ガルドから動いて見せてくれと言われ、ゆっくりとした動作の型を見せる。作られた防具はトーアの動きを妨げないようになっており、それをイデルがミデールに説明していた。


「あんた、ギルが来たからこっちに通すけどいいかい?」

「ああ。ついでにトラースを呼んできてくれ」


 わかったよと顔を出したカンナが戸口に引っ込むと、すぐにトラースに案内されたギルが姿を見せる。

 トーアのほうに視線を向けると懐かしそうな顔をしていた。思い返してみれば今の装備はCWOで一時期、身につけていた装備に似ている。

 月下の鍛冶屋の面々と挨拶を済ませたギルに作った防具を手渡した。一人で手早く防具を身につけたギルは腕や脚の曲げ伸ばしを行い、調子を確かめ満足げに口角をあげる。

 イデルの解説が終わってからトーアはフィオンが待つギルドへ行こうとギルに声をかけた。そうだねと頷いてそのまま出て行こうとするギルを呼び止める。防具を身につけたままというのはある意味、非常にまずかった。


「ギル、外に出るなら防具は外して欲しいな」

「ん、どうして?」


 防具を身につけた冒険者などが日常的に歩いているため防具を外してくれというのは不思議だったのか、ギルは首をかしげた。


「……アメリアに見つかったら面倒そうだから……」

「そういう理由……」


 可哀想なものを見る目でギルに見られるが、またアメリアに決闘!と言われるよりは多少はましだった。


――流石にこんな短い期間で何度も決闘はしたくないし……まぁ、決闘する事になったら全力で戦うけどね。


 我ながら好戦的とも思いながら、ギルと共に防具を取り外してリュックサックにつめるように見せかけてチェストゲートに収納する。


「トーア、昼ごはん食べて行きな。ギルもね」

「あ、手伝います」


 カンナと共に調理場でいつものようにエプロンを身につけて調理を始める。さいころ状に切ったホーンディアの肉を焼き、フライパンに残った肉汁に茹でておいたパスタを絡めて、こってりがっつり系のパスタを完成させる。

 どんと山盛りになったパスタのうえに大きめに切られた肉が乗せられた昼食に、もともとがっつり食べるイデルや食べ盛りのトラースは目を輝かせていた。


 昼食を食べたあと月下の鍛冶屋の面々に挨拶をして、トーアはギルと共にギルドへと向かった。


「まず防具は出来たとして、最初にどっちの異界迷宮に行く?」

「うーん、出来れば『灰色狼の草原』に行きたい」

「ああ、トーアにとってそれは死活問題だからね」


 笑いながらギルに頭を撫でられ、唇を尖らせる。


「僕は特にどちらがいいってないから、『灰色狼の草原』で構わないよ」

「なら、あとはフィオンと相談してみよう」


 頷いたギルは笑みを深めた。


 ギルドに到着し、中を見渡してみてもフィオンの姿はなかった。ギルと顔を見合わせて首を傾げる。資料室も確認したがフィオンは居なかった。

 資料室から出たところに灰鋭石の硬剣フレッジブレードの一件やアメリアとの決闘の際に、ギルドとの連絡や案内役を務めたギルド職員が近づいてくる。


「リトアリスさん、ギルビットさん、フィオーネさんをお探しでしょうか」

「はい。何かご存知ですか?」

「フィオーネさんから伝言がありまして、『ギルド裏の広場で待っているね』とのことです」


 その言葉に再びギルと顔を見合わせて首をかしげた。


「……まさか」

「なにか思い当たる事あるの?」

「一人で鍛錬してるかもしれない」


 ありえないとも言い切れず、微妙な顔をしたままギルと共に広場へと向かう。何もイベントがない広場は、鍛錬をする冒険者の姿がちらちらとある程度で閑散としている。

 その一画でフィオンが剣の素振りをしていた。


「フィオン、お待たせ」

「あっ、トーアちゃん、ギルさん。防具の方は出来たの?」

「うん、今は仕舞ってあるよ」


 息を整えるフィオンにタオルを渡す。何かを察したのか苦笑いを浮かべていた。


「アメリアさんが何を言い出すかわからないからね」

「まぁ、そういうこと。迷宮に行く日には見せれるし、そんな変わったものでもないから」


 ギルドの資料室にふたたび戻り、エレハーレの冒険者達が集めた情報を纏めたファイルを取り出して閲覧用の机の上に置いた。


「そうだ、フィオン、『灰色狼の草原』、『小鬼の洞窟』どちらから攻略したいっていう要望はある?」

「え、うーん……とりあえず、説明を読んでから考えたいかな」


 フィオンの言葉に確かにと頷いて資料のページを捲り、異界迷宮の項目が書かれたページを開く。

 以前、『小鬼の洞窟』に行く際に確認した異界迷宮に関する内容に追記や変更された部分がないか念のため、声に出さずに読んでいく。


――流石にここの内容は代わり映えしないか……。


 フィオンとギルも目を通したのを確認してページを捲り『小鬼の洞窟』についての内容が書かれたページを開く。内容は以前と代わり映えすることなく、流し読みで済ませた。

 『小鬼の洞窟』に出現する魔獣や魔物、鉱物などの情報の後には『灰色狼の草原』の解説が書かれたページがあり、次はしっかりと目を通していく。


―【異界迷宮ゲートダンジョン】ランクF 灰色狼の草原

 エレハーレで二番目に発見された異界迷宮で内部は草原となだらかな丘、林が点在した場所になっている。植物の分布がエレハーレ周辺と異なるため、採取依頼が多く出されている迷宮でもある。

 迷宮の名前にもなっている灰色狼、アッシュウルフはブラウンウルフを引き連れて群れで行動しているため、パーティでの攻略を推奨する。

 迷宮内には『現世戻りの石板』は存在していない。そのため、移動は全て『異界渡りの石板』によって行う事になるため注意が必要である。

 『異界渡りの石板』から出て灰色狼の草原を真っ直ぐに進むと、いつの間にか『異界渡りの石板』のある場所へと戻ってきてしまう。原因は不明だが異界迷宮内で道に迷った場合は、真っ直ぐに進むのも手であるだろう。

 出没する魔獣・魔物:アッシュウルフ、ブラウンボア、ホーンラビット、ファットラビット、スチールシープ、シェルゴート


 続けて生息している生物の特徴などが書かれた項目にも目を通すと伐採用の斧だけでは『灰色狼の草原』で取れる素材を全て採取するのは無理だとわかる。


――シェルゴートは説明を見る限りCWOと同じっぽいけど、その弱点について何も書かれていないし……。スチールシープのために金切り鋏が必要か……。


 防具を作ったときに伐採用の手斧や鋏も作っておけばよかったと若干、後悔しつつ、ツルハシと同じように買って間に合わせるしかないかと思った。フィオンはチェストゲートを使えるトーアとギルのように無期限に食料を保存できないため、それらの買い出しを頼んでその間に斧や鋏を買おうとトーアは考える。

 資料から顔を上げたフィオンは、腕を組みどちらを先に行くか悩んでいるようだった。


「うーん……どっちがいいのかなぁ」

「最終的にはどちらも行こうと思ってるけど、私は『灰色狼の草原』に行ってみたいかな」

「僕はどちらでもいいよ」


 ぐっと手を握りながら、フィオンは立ち上がる。


「なら『灰色狼の草原』に行ってみよう!」

「いいの?」


 うんとフィオンは力強く頷く。本音は異界迷宮に挑戦できるとなり、楽しみすぎて決められないとの事だった。


「ならフィオン、買い出しお願いできるかな」

「買い出し?あー、保存食とか買わないといけないからね」


 何度か頷きながらフィオンは資料室の椅子に座り直す。滞在する日数を三日と決め、主食は夕凪の宿で頼める固焼きパン、あとは干し肉や乾燥野菜と言ったものを揃えることになった。

 代金はトーアが出してあとでそれぞれ清算する事になり、トーアは必要な物を書き出した紙の上に代金を置く。


「保存食は私の実家で売ってると思うから、そっちで買えばいいかな」

「うん、お願い。ギルは……荷物持ち、お願いできる?」


 ギルは少しだけ困ったように笑って頷いた。トーアはアイコンタクトでチェストゲートに収納しておくように頼み、ギルは再び小さく頷く。


「トーアちゃんはどうするの?」

「ちょっと買いたいものがあるから冒険者横丁に行ってくるよ」

「冒険者横丁に?」


 うんと頷くと怪訝そうな顔をしていたフィオンだったものの、それ以上聞くのは野暮と思ったのかわかったと頷いた。

 買い物を済ませた後、ロータリーで集合する事を決めてギルド前で別れる。

 二人がエレハーレ商店街へ歩いて行くのを見送り、冒険者横丁へと足を向けた。

 以前、つるはしを購入した店に向かい、伐採用の手斧、羊毛を刈り取る為のはさみ、金属を切るための頑丈な鋏をそれぞれ購入する。そして、別の店で魔獣の解体に使っている荒縄を購入した。


――オークションで稼いだお金があるお陰で大分生活に余裕はある。けど、店を持つとかになると、全然足らないんだろうなぁ……。


 小さく嘆息してリュックサックを通じてチェストゲートに買ったものを収納し、他に必要な物はないか考えてロータリーに向かって歩き出した。

 店を持つことは難しいが好きに生産できるであろうホームドアの整備の目処が立ちそうと頬を緩ませて考えていたが、ふと木を切っている事や今後行くであろう『小鬼の洞窟』で採掘している事が、フィオンにばれた時にどう説明するべきか何も考えていない事に気が付いて足を止める。


――今後、フィオンと行動するならいつかばれるであろう事だし……チェストゲートの事だけでも話してしまおうかな。


 トーアだけの問題ではなくギルにも相談するべきと考え、今夜相談してみようと思い、再びロータリーに向けて歩き出した。


 ロータリーで買い物を済ませたギルとフィオンと合流し、購入した保存食を受け取る。明日に備えて早めに宿に戻る。カウンターに居たベルガルムに三人分、三日分の固焼きパンを頼み、準備という事でそれぞれの部屋に戻ることにした。

 チェストゲートの事を相談するため、部屋に入ろうとするギルに声をかける。


「トーア?」

「ちょっと話したいことがあって……いいかな?」

「ん、わ、わかった」


 どこかどぎまぎした様子のギルに内心、首を傾げるものの部屋に招き、扉の鍵をかけてホームドアを発動する。

 ホームドアの中でいつものように向かい合って床に座った。


「それで、話って?」

「フィオンにチェストゲートの事を話そうと思うんだけど……」


 ギルは僅かに目を見張り少し驚いたようだったが、すぐに考えを纏めたようだった。


「僕はいいんじゃないかと思う。トーアがチェストゲートの事を隠していたのは、ウィアッドのディッシュさんから隠すよう言われたからだったよね?」

「そう。でもそれは、私に力が無いから付け入られたり、利用されたりする可能性があると思ったから言ってくれたんだと思う」


 ウィアッド、むしろこの世界に来たときは【初心者ノービス】であった事に加え、なぜこの世界に来たのかもわからず、まずは生きて行く方法を考えなければいけなかった。

 だが、今は灰鋭石の硬剣フレッジブレードでの騒動や、アメリアとの決闘騒動でエレハーレだけでなく、周辺の街や村にまでトーアとギルの名前は広がっている。そして、この世界で何をしなければならないかについても、神という存在と話をした事で大体わかっていた。

 もしフィオンの口からトーアとギルが【チェストゲート】が使えることが漏れたとしても対処できるだけの装備はそろい、フィオンもまた、ある程度自衛できるだけの地力は持ったというのがトーアの考えだった。


「自衛できるだけの武器、防具、あとは人のつながりは整ったと思う。ギルはまだ早いと思うなら、私だけでも明かそうと思うけど……」


 なんらかの理由でもチェストゲートが使えることが広まった場合に標的となるのはトーアだけでいいと思って発言したが、ギルの真剣な表情と視線に言葉が尻すぼみになってしまう。


「いいや、トーアが明かすというなら僕も説明するよ。とりあえず、フィオンにだけ明かして他の人の目がある時は今までどおりのほうがいいと思うんだ」

「それって……やっぱり、いきなりだと混乱が起こるかもしれないから?」

「まぁ、そういうこと」


 ギルから半神族や成長装具、ホームドアについてはどうするかと聞かれるがそれは、まだ秘密にしておくべきだと思っていた。


「それはまだいいんじゃないかな。出来れば秘密のままにしておきたいし。それに……何でもかんでも話して、フィオンが危険な事に巻き込まれるのは、嫌だし」

「……そうだね」


 うつむき気味に話すとギルの腕が伸ばされてそっと頬をなでられる。ぞくっと背中が粟立ち体が熱くなった。身体を硬くしているとギルはすぐに手を引き、トーアは内心、ほっとする。


「ならそろそろ部屋に戻るよ。一応、僕も準備はしたいからね」

「うん、わかった」


 部屋を出て行くギルを見送ったあと部屋の鍵を閉めなおし、はぁーっと息を吐きながら部屋の扉にこつんと額を押し付けた。


――あんまりどきどきさせないでなんて言えないなぁ……。


 深呼吸を繰り返して、動悸が治まるのをまってからベッドに腰掛けて明日の準備を始めた。

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