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第七章 灰鋭石の硬剣 11

 トーアの宣言に、あたりはざわめく。灰鋭石の硬剣フレッジブレードでそれは可能なのかという点が焦点となっているようだった。


「ふん……それはわかった。その灰鋭石の硬剣フレッジブレードはどこなんだ?」


 腕を組んだままのポリラータを一瞥したトーアはリュックサックを降ろして中に手を入れ、チェストゲートを発動する。そして、灰鋭石の硬剣フレッジブレードをゆっくりと取り出した。

 見た目は木刀のようで反りの入ったトーアの灰鋭石の硬剣フレッジブレードにあたりは再びざわついた。


「これが私の灰鋭石の硬剣フレッジブレードです。ジルグレイさんが鑑定するという事ですが……?」

「拝見いたしましょう」


 灰鋭石の硬剣フレッジブレードの抜き方を簡単に説明した後、トーアはジルグレイに灰鋭石の硬剣フレッジブレードを渡した。

 ジルグレイはそっと柄を握り、灰鋭石の硬剣フレッジブレードを抜く。美しい刀身にほぅと感嘆を漏らし、あたりに集まったギャラリーもまたその完成された美しさに息を呑んだようだった。


「刃には絶対に触れないでください。問答無用で斬ってしまいますので」

「…………」


 トーアの忠告にジルグレイは小さく頷き、刀身を検める。そして、ふたたび静かに鞘に納めた。


「素晴らしい。これほど美しい灰鋭石の硬剣フレッジブレードは取り扱った事はおろか、見たこともありません」

「ありがとうございます」


 ジルグレイが差し出した灰鋭石の硬剣フレッジブレードをポリラータが手を伸ばそうとする前にトーアが受け取る。


「……ふん。それでおまえが言った試験は本当に出来るのか、誰が証明するんだ?まさか、お前がやるとは言わないだろうな」

「私ではないです。そこまで灰鋭石の硬剣フレッジブレードの扱いに熟達している訳じゃないですから」


 近くにいるギルド長に視線を向けて、立てかけた木板に何も細工されていない事の確認を依頼する。


「ふむ……普通の木板ですね」


 軽く叩いたり、押したりしてギルド長は木板に何も細工されていない事を確認した。


「もちろんです。それじゃ、ギル、お願い」


 トーアの呼びかけにギャラリーから『誰だ?』と言った怪訝そうな声が上がる。トーアに近づくギルの姿を見て詮索するような声が密やかに交わされた。


「あなたは?」

「ギルビット・アルトランと申します。今回の試し切りを務めさせていただきます」


 ギルド長の問いにギルは軽く頭を下げて答えた。そして、トーアが差し出した灰鋭石の硬剣フレッジブレードを受け取り、腰に差した。

 ギルを囃し立てる声がギャラリーから上がるが、ギルは苦笑いを浮かべながらも真っ直ぐに木板の前へと進んで行く。そして、木板の前に立つ頃にはギルを囃し立てる声は聞こえなくなっていた。

 構えもなく立っているはずのギルから発せられる凄みがギャラリーの冒険者達の口を閉じさせたようだった。

 親指で鯉口を切り、ギルはゆっくりと灰鋭石の硬剣フレッジブレードを抜く。鞘走りの僅かな音が聞こえるほどの静寂の中で行われたそれは、自然と見守る者に緊張を強いた。

 ごくりとだれかの喉が鳴る。

 木板の前でわずかに腰を落とし、正眼に構えたギルは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを木板に向けて、呼吸を整えた後、ゆっくりと灰鋭石の硬剣フレッジブレードを背負うように大上段で振りかぶった。


「はっ……!」


 気迫の篭った声と共に、ギルは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを振り下ろす。刃は地面から数センチのところで止まっていた。

 木板はまだそのままだったが、だれもそれを指摘せずに静かに行く末を見守る。ギルは、灰鋭石の硬剣フレッジブレードを払ったあと、静かに鞘に納めていき、チンッと小さな音が響く。同時に木板は静かに二つに崩れるようにして分かれ、地面に落ちて大きな音を立てた。


「ふぅ……」


 残心の姿勢から戻り、噴出した汗を腕で拭いながらギルは成果にうっすらと笑みを浮かべる。

 途端にギャラリーから喝采が巻き起こった。

 照れたような表情を浮かべながらギルは手を上げて歓声に応える。


「ギル、流石だね」

「いや、でも緊張したよ」


 トーアにだけ情けない笑みを浮かべるギルに、トーアは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ふふ、お疲れ様。それじゃ灰鋭石の硬剣フレッジブレードを……」

「ん……」


 頷いて灰鋭石の硬剣フレッジブレードをギルから受け取ったトーアは、その場で無造作に抜き刀身を検める。

 振り下ろす速度、灰鋭石の硬剣フレッジブレードが木板を斬り割くことで発生する“引かれる力”、それにあわせて絶妙な力加減で引く力、そして、灰鋭鋼の想像を絶する鋭利さは容易く木板を両断して見せた。

 惚れ惚れする程のギルの腕前と灰鋭石の硬剣フレッジブレードに一切、刃こぼれがない事にトーアは笑みを浮かべる。


――ギルの腕前で木板程度ならこれくらい当たり前か……。まぁ、ギルも難しいっていう動く相手にCWOの武闘派はあっさりと同じような事をやるからなぁ……。私にだって動く相手は無理、叩いて潰したほうが早いしね。


 灰鋭石の硬剣フレッジブレードに問題がない事を確認したトーアは鞘に納め、まだギルの試技に絶句し固まっているポリラータに近づいた。


「これが出来れば灰鋭石の硬剣フレッジブレードは貴方のものですよ。刃を検めますか?」

「あ、ああ!ジルグレイ氏、確認してくれ!」


 それが自身を追い詰める結果になろうとは思わないだろうとトーアは思いながら、ジルグレイに灰鋭石の硬剣フレッジブレードを差し出した。

 刃を検分したジルグレイは何も問題ありませんと言って、トーアに灰鋭石の硬剣フレッジブレードを返そうとする。トーアは小さく首を横に振ってポリラータに渡すように笑みと共に手で指し示した。


「ッ……」


 トーアの笑みをどう受け取ったのかはわからなかったが、顔を顰めたポリラータは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを奪うようにして取り、鍛冶師たちが新たに用意した木板へと向かう。


「これも問題ありませんね」


 木板を確認したギルド長が離れ、ポリラータに木板の前を空ける。


――さて……どうなるかな。


 トーアはじっと様子を窺うことにした。もたつきながらもポリラータは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを抜き、ギルと同じように構えた。

 だがそれは先に試技をしたギルに比べれば非常にお粗末なもので周りのギャラリーもそれをわかっているようだった。


「でやぁぁぁぁっ!!」


 大仰な叫びをあげてポリラータは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを振り下ろした。

 がっという音と共に灰鋭石の硬剣フレッジブレードの刃は木板に数センチ食い込んだものの、それ以上は進まず、衝撃から灰鋭石の硬剣フレッジブレードの柄からポリラータの手は離れていた。


「ぁ……え……?」


 呆然と衝撃で痺れているであろう手と木板に視線を交互に走らせる。静かになっていたあたりは、徐々にざわめきが大きくなっていった。

 トーアが一歩、ポリラータに近づくとざわめきは収まり、再び静かになる。


「駄目、みたいですね」


 駄目と言う言葉を強調してトーアが声をかけると、ポリラータはびくりと身体を竦ませて睨みつけるようにトーアに顔を向ける。


「は、ははっ!灰鋭石の硬剣フレッジブレードの刃は脆い!あの男が切った時に刃が欠けたんだ!そうに違いない!」


 やっぱりそう言ってくるかとトーアは表情を変えずに先ほど確認した時には何も問題なかった事を思いだす。だがそれは予想通りの事で、木板に刺さったままの灰鋭石の硬剣フレッジブレードを手にして木板からそっと取り、鞘に納めた。


「そうですか。ですが切れなかったのはご覧の通りですし、この灰鋭石の硬剣フレッジブレードは渡せませんね」

「いや!あの男と違う条件でやったんだ!おまえの言う試験は公平ではない!」


 言い訳じみたポリラータの言いように辺りがざわめいた。


「では一度も使っていない灰鋭石の硬剣フレッジブレードであれば公平ですね?」

「そうだ!」


 自信満々にうなずくポリラータにトーアは、口角を上げて笑った。

 ざわりとあたりがざわつく。トーアの笑みに何かを感じ取ったのかポリラータは身体を一歩引く。

 全てはポリラータを有無を言わせない状況に陥れるため、言葉を選び、選択させ、状況を整えて完成した、今である。

 トーアはポリラータの反応を気にせずにリュックサックから二本目・・・灰鋭石の硬剣フレッジブレードを取り出してみせた。

 トーアがポリラータに言った素材の量は二本分であった。必要な材料を言う瞬間、トーアは『一本の灰鋭石の硬剣フレッジブレードで事は収まるだろうか?』と気が付く。思わず二本分の量を言ったあと、トーアは今の状況を作るため言葉を選び、ポリラータを誘導し始める。

 月下の鍛冶屋で作業をした際には驚きと共に不思議そうにされたがトーアは必要な事とだけ言っていた。

 信頼のおける人間による灰鋭石の硬剣フレッジブレードの質の保証と、試験の公平性の保証はたまたま来ていたギルド長と、ポリラータ自ら呼び出したジルグレイによって成されている。

 そして、試験がどれほど難度があろうとも、ポリラータの口からそれを了承する旨が出ていることで、逃げ道をなくした。

 迎えた最後の局面、後はポリラータの鼻っ柱を叩き折ればトーアの勝ちである。


「では、こちらの灰鋭石の硬剣フレッジブレードでもう一度だけチャンスをあげましょう。まずはどれほどの物か、見ていただきたく」

「う、うむ……」


 トーアが二本目の灰鋭石の硬剣フレッジブレードを取り出した事で硬直していたジルグレイは、何とか手を伸ばし、二本目の灰鋭石の硬剣フレッジブレードを受け取った。ポリラータは勝ち誇った顔を一瞬で変え、口をぱくぱくと動かして何かを言おうとしていたが、結局、言葉は出てこないようだった。

 再び灰鋭石の硬剣フレッジブレードを検めたジルグレイは、一本目を見たときよりも驚きの表情で灰鋭石の硬剣フレッジブレードを検め、鞘に納めてトーアに差し出した。


「素晴らしいです。これほどの出来栄えの灰鋭石の硬剣フレッジブレードが二本、この場にあることは驚きしかありません」

「ありがとうございます。ジルグレイさん」


 称賛の言葉にトーアは笑みを浮かべて返し、差し出された灰鋭石の硬剣フレッジブレードを受け取る。


「ジルグレイ氏から再び、絶賛の評価をいただけました。では、どうぞ」

「く……」


 挑発的な声色でトーアは、灰鋭石の硬剣フレッジブレードに問題ない事を、そして、灰鋭石の硬剣フレッジブレードに問題がある事を叫ぶとすればジルグレイの鑑定眼を貶すことだと、暗に匂わせる。

 差し出された灰鋭石の硬剣フレッジブレードに恐る恐ると言った風情で手を伸ばすポリラータだったが、触れる寸前でトーアは灰鋭石の硬剣フレッジブレードを引いた。


「な……」

「これが最後のチャンスになります。これ以上、未使用の灰鋭石の硬剣フレッジブレードはありませんし、私が譲歩するのも最後です。ここで木板を切ることができなければ、己の腕前を弁えずに灰鋭石の硬剣フレッジブレードを求めた愚か者としてエレハーレの商店、鍛冶師、冒険者に名前が知れ渡ることになりますが……その覚悟、出来ていますか?」


 最後の言葉はゆっくりと区切り、顔を覗き込むようにしてトーアはポリラータに質問する。トーアの言葉に圧力を感じたのかポリラータは一瞬、手を引きそうになった。だがプライドが恐怖に勝ったのか、すぐにトーアから灰鋭石の硬剣フレッジブレードを奪うようにして取り、新たに用意された三枚目の木板に向き直った。

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