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第五章 二人目の転生者 2

 その後、話題はトーアの職業と出身国についてから、エレハーレでの生活に移って行く。冒険者としてのクエスト中にフクロナガサが折れた事、剣を打ちゴブリン討伐に参加した事を話すと、カテリナは悲しそうなそれでいて心配するような表情をして眉を寄せていた。


「トーア君は、生産者ではないのかね?」


 生産系の職業である【創作士クラフター】に就いていると言ったせいか、デートンは怪訝そうに尋ねてくる。


「そうなんですけど……別件でゴブリンを倒したのが、討伐参加の理由みたいです」

「トーアちゃんの活躍はすごかったんですよ!『期待の新人』って呼ばれたり、ギルド付に勧誘されたりしたんです!」


 トーアがわざとぼかして説明しなかった部分をフィオンが興奮した様子で詳しく話し始める。フィオンに口止めしておけばよかったとトーアは後悔つつも、ギルド付と聞いたデートンがフィオンからトーアへと視線を移すのに気が付く。


「ギルド付、ギルド付属特命探索者のことかい?」

「はい。でもすぐに断りましたよ。冒険者は生活が安定するまでお金を稼ぐ手段で、私は生産者なんですから」

「……そうか」


 トーアの答えにデートンは少しだけ考える素振りを見せる。


「それでトーア君は今後、どうするのかね?」

「フィオンには話したんですが、エステレア法国を目指してみようかと」

「え、エステレアに?」


 カテリナの驚く声に頷く。少しだけ寂しそうな顔を覗かせたカテリナだったが、すぐに優しく微笑んだ。


「エステレアは遠いわよ?それでも行くのね?」

「はい。職業神殿で職業が戻りましたから、職業神殿を管理するエステレアに行けば何かわかるかもしれません」


 フィオンに語った嘘の考えをトーアは話す。

 本当はこの世界の神と話すことの出来る『神託の神子』という存在と出会うこと、もしくはこの世界の神と接触することができればという考えでエストレア法国に向かうつもりだった。

 無理はしない程度に急いで神と接触して話してこの世界に来ることになった理由と依頼を聞きだす必要がある。


「でも……元居た場所に戻れなくてもいいかなとも思っています」


 だがトーアは少しだけ本心をこぼした。

 トーアの言葉にデートンは片眉をあげ、エリンやカテリナはじっとトーアは見てくる。ミッツァも調理場から顔を覗かせてトーアの言葉を待っていた。


「それは、いいのかね?」

「はい。もう両親はいませんし、仕事も丁度きりのいい所でした。最後に一言ぐらい言っておきたかったですけど」


 元居た世界の事情をトーアが話すとあたりの空気が重たくなっていた。トーアが語った事情は、別の世界から来たという所を除けば全て本当の事だった。


「手に技術がありますから、どこへ行っても暮らしていけるのが私の強みみたいなものですから」


 雰囲気を変えるため、トーアが明るく言うと目をつぶり考えこんでいたデートンはトーアの言葉に頷く。エリンもまた小さく嘆息した後、顔を向ける。


「わかったよ、トーア君」

「まぁ、トーアがそういうなら、私は何も言わないよ」


 ミッツァも頷き、カテリナにトーアは後ろから抱き締められた。


「すぐに出発するのかね?」

「そのつもりです。と、言っても法国まで遠いみたいですし、エレハーレやラズログリーンで旅費を稼いで旅装を調えるつもりです」

「まぁ、そうやって旅をする人も居るから悪い方法じゃないけどね、でも変な人間だっているんだ、騙されないように注意しな。うまい話なんてないんだ、いくら腕に技術があるからって命には代えられないからね」


 エリンの忠告にトーアは頷く。ウィアッドの人々のような優しい人間だけではない事は、エレハーレのギルド長の件でしっかりと理解していた。


「なら再びエレハーレに向かうのかな?」

「はい。駅馬車で向かうつもりなんですけど、次の出発日はいつになりますか?」

「次は明後日になるね。そうだ、駅馬車を今後使って行くのならどうやって運用されるか説明しよう」


 デートンの説明でトーアは王都主街道を周回する駅馬車について知る事ができた。

 駅馬車は王都とラズログリーンから、月の始まりである一の日に北回り、南回りを含め、四台が出発する。六日かけて王都主街道の中心に向かい、南側はウィアッド、北側はクリリアンという街に到着する。

 この時、ウィアッドとクリリアンには王都行き、ラズログリーン行きどちらの駅馬車も停車することになる。

 七の日は、御者や護衛をする冒険者の休憩のため休みを取り、八の日にそれぞれの目的地に出発、十三の日に王都とラズログリーンへ到着する。

 十四の日は七の日と同様に休みを取り、十五の日に“戻り便”と呼ばれる駅馬車が再び王都、ラズログリーンへ向かって出発する。

 二十の日には、再びウィアッド、クリリアンに到着し翌日の二十一の日は休みを取り、二十二の日に出発、二十七の日に王都、ラズログリーンへ到着し、二十八の日の休みを経て月が替わった一の日に再び出発というサイクルで駅馬車は王国によって運行、管理されているということだった。


「ウィアッドやエレハーレと言った王都主街道の街や村は駅馬車で二日の距離に開拓されているんだ。トーア君も使ったと思うが、野営が出来るように街道脇には開けたところがあっただろう?」


 エレハーレとウィアッドを往復した際に、野営を行う場所は同じ場所だった事を思い出してトーアは頷いた。


「駅馬車って国家事業だったんですね」

「そうだね。何代か前の国王様が、エインシュラルド王国の経済をより円滑になるように街道網の整備に力を入れてね、『我が国の民が交流しより広い視野で自分の可能性に気が付いて欲しい』という言葉が残っているよ」


 ウィアッドも街道整備のために開拓された村であるため、歴史は古いらしかった。街道網の整備と駅馬車の運用時は様々な問題が頻発したとの事だったが、ここ数十年はそういうこともなくなったとデートンから語った。


「さてトーア君、宿に泊まるのかね?前のように働くのも構わないが」

「いいえ、今回はちゃんと宿泊します。エレハーレで少しは稼いできましたから」


 しっかりと稼いで生活していけることを示す為にトーアはしっかりと宿泊する事を告げる。トーアの言葉にデートンは笑みを浮かべて頷いた。


「ならウィアッドの宿は一泊三食付が基本で、一人部屋は半銀貨三枚、二人部屋は半銀貨五枚だよ」


 トーアはフィオンに一人部屋でよいか確認するとフィオンは快諾する。


「デートンさん、一人部屋でお願いします」

「期間はとりあえず次の駅馬車出発でいいかな?」


 デートンの問いかけにトーアは少し考えた後、フィオンに視線を向ける。明後日に出発しなければいけないほど、急いでいる訳でもなかった。


「トーアちゃん、とりあえずデートンさんの言う期間でいいんじゃないかな」

「うん、わかった」

「なら宿帳に記入をお願いするよ」


 トーアが頷くとデートンはカウンターへ持って来た宿帳とペン、インクを持ってくる。名前を記入し、トーアは二日分の宿泊費である半銀貨六枚を支払った。フィオンもまたトーアの後に宿帳に記入し宿泊費を支払う。


「カテリナ、トーア君たちを部屋に案内……」


 宿帳に書かれた名前を確認したデートンがカテリナに声をかけたとき、宿の入り口に付けられたカウベルが音を立てる。

 カウンターに立っていたデートンが言葉を切り入り口に視線を向けていたので、トーアも視線を向けた。

 宿の入り口にはディッシュが立っており、トーアの姿を見つけると笑みを浮かべ、後ろに居る人物に声をかけて宿の中に入ってくる。ディッシュの後ろに居た一人の青年がディッシュの影から出てきたとき、トーアはカウンター席から立ち上がり、青年に近づいた。

 青年もトーアに気が付いたのか、ディッシュから離れてトーアへと近づく。

 金色の髪と同じ色の瞳、非常に整った顔立ち、細身に見えるがしっかりと筋肉の付いた体付き、今は麻布の服とズボンを身に纏った青年はトーアにとってとても見慣れた人物で、思わず名前を呼んだ。


「ぎ、ギル……?」

「あ……あぁぁ……トーア?本当にトーアなのか?」

「そうだよ……ギル!」


 返事を返しながらトーアは青年に飛びついて抱きつく。トーアを受けとめた青年はそのままトーアをきつく抱き締めた。

 二人の身長差から、青年の胸元に顔を埋めるトーア。だが、青年がこの異世界に居る理由がCWOで作った二つ目の輪廻の卵だと気が付いて顔を上げた。


「まさか……私の渡した……」

「そうだけど、今は……」


 言葉を続けようとしたトーアに青年は小さく首を横に振ってトーアから離れる。トーアは沈みそうになる気持ちを切り替えて今はと、青年の手を取って驚きの表情のまま固まっているデートンたちの元へと青年を連れて行く。


「トーア君……彼は?知っているのかね?」

「はい」

「初めまして、私はギルビット・アルトランと言います。ギルと呼んでください」


 トーアに連れられてカウンターの傍に来た青年、ギルは自ら丁寧な自己紹介する。


「ギルと私は同郷で、恐らく私と同じように魔法実験に巻き込まれたんだと思います。遅れてきた理由が魔法実験にあるかどうかわからないですけど……」


 ギルの自己紹介が終わった瞬間、トーアは矢継ぎ早に説明し、ギルにすばやく目配せする。


「ふむ……ディッシュ、ギル君を見つけたときの事を教えてくれないか?」


 トーアの話を聞いたデートンは少し考えた後、カウンター席の近くに立っていたディッシュに顔を向ける。


「トーアの時と同じですよ。森の聖域に立っていたのを見つけて、思わずトーアの事を漏らしたら、知っているようだったので」

「……そうか」


 口元に手を当てて難しい表情を浮かべるデートンはトーアがじっと見ていることに気が付くと小さく息を吐き出した。


「ギル君、トーア君の知り合いな上に恐らく同じ状況になっていると思うが、念のためにパーソナルブックのプロフィール欄を見せて欲しい。それは犯罪者かどうかを確認するためでもある。どうかね?」


 デートンの言葉にギルはトーアへと確認するかのような視線を向けてくる。トーアが来た時と同じ理由であるため、トーアは頷く。


「……【パーソナルブック】」


 言葉と共にギルの手に現れたのは、トーアが初めて取り出した時と同じA4判のパーソナルブックで、カウンターに置かれ、開かれたプロフィール欄はトーアから見ても、名前と性別、罪状だけが埋まっていた。


「トーア君と同じ状態のようだな」


 驚き固まっているギルは、唇を一文字に結んだデートンの言葉にトーアへと向き直る。

 トーアは小さくギルに頷く。


「トーア君の前例もあるし、職業神殿で職業や所属国は元に戻ると思うが……」

「トーアも?それに職業神殿があるんですか!?」


 トーアの時と同じ反応にデートンは緊張が殺がれたのかふっと笑みを浮かべる。


「ああ、トーア君は元に戻ったようだし、記載がない事は心配しなくてもいいと思うよ」

「うん。ギル、明後日には職業神殿のある街へ駅馬車が出発するから……あ……フィオン、ごめん……その、取って返す事に……」

「ううん!プロフィール欄がこんな事になってるのに遠慮なんてしなくていいよ!直せるなら早く直した方がいいと思うし」

「ありがとう、フィオン」


 ギルをカウンター席に座るように促したデートンは、エリンにジングジュースを振舞うように頼んだ。


「ディッシュ、すまないが先生を呼んできてくれないか?トーア君の時と同じように森から歩いてきたのなら、問題はないと思うがね」

「わかりました」


 一足先にジングジュースを飲んでいたディッシュは、マグカップに残ったジングジュースを飲み干し立ち上がった。

 宿の扉から出て行くディッシュを横目に見送りながら、トーアは隣に座ったギルに小さく大丈夫だよと呟いた。

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