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第四章 期待の新人 3

 翌日の早朝、トーアはギルドの入り口のドアを開けて中に入る。


「おはようございます、リトアリスさんですね?」

「はい。指名依頼の件で来ました」

「ありがとうございます。クエストの詳細については、奥の会議室でお話しますので、他の参加者が集まるまで少しお待ちください」


 ギルドの職員に案内されてトーアは広い部屋に入る。部屋の中には既に完全武装の冒険者が数人待っていた。トーアが部屋に入った瞬間に視線を向けてくるがすぐに視線を戻した。

 トーアが壁際の椅子に座って待っているとぞくぞくと冒険者達が集まる。椅子に座っているトーアの方に視線を向けながらひそひそと話をしていたが、誰も声をかけてくることはなかった。

 しばらくしてギルド長が数人のギルド職員と共に部屋に入ってくる。


「みなさん、おはようございます。昨日は不発に終わりましたが今日こそお願いします」


 ギルド長と共に入ってきたギルド職員は、手にもった地図を部屋の壁に広げた。


「今日も北側の森の探索をお願いします。こちらで参加される方の探索の範囲を決めましたので確認の上、森へ向かってください。ゴブリンを発見した際は必ず互いに協力し討伐してください」


 説明が終わると同時に部屋に居た冒険者たちは我先と地図に集まり、自身の探索範囲を聞いて部屋を出て行く。その中でギルド長の視線はずっとトーアに向けられており、トーアは視線を合わせないようにしていた。


――なんか嫌な感じだなぁ……指名依頼の件といい、さっきからずっと見られてるし……。


 薄く笑みを浮かべているギルド長の視線を無視し続けていると、部屋にはトーアだけが残った。机に近づいてトーアの担当する範囲を聞く。


「貴方がリトアリスさんですか?」

「……そうですけど」

「ご活躍を期待しています」


 ギルド長は言葉と共にトーアに向けて微笑みを向けてくるが、トーアには胡散臭さしか感じなかった。

 ベルガルムの言葉や、ゴブリン討伐の実績があったとしても駆け出しともいえるランクGに指名依頼を行うというやり方に疑問が残る。

 ギルド長の言葉に応えず、トーアは軽く頭を下げて部屋を出て行った。


 街を出たトーアは、エレハーレ北側の森をギルドに指定された範囲に向けて真っ直ぐに歩いていた。

 森は多数の人間が入り込んでいるためか、鳥の鳴き声さえも聞こえないほど静かになっている。

 途中で飛び掛ってきたホーンラビットや木の上から忍び寄ってきた巨大な大蛇であるグリーンバイパーを仕留め、今は解体している時間はないのでそのままチェストゲートへ放り込んだ。

 グリーンバイパーは食用に出来る部分は少ないものの、その巨体に見合う皮と鋭利な牙が装飾といったものに使用できる。

 昼食は採取していた果物を齧り、担当した区域を探索する。途中、探索する範囲が隣接するパーティと出会ったが、互いにゴブリンの痕跡は見られないと情報を交換する。


「まったく、本当に北側の森にいるのかね」

「嬢ちゃんも適当に探索したら、街に戻った方がいいぞ」

「そうします。そちらも無理しない程度に」


 トーアがパーティに言葉を返すとパーティの面々は嬢ちゃんにそう言われたらそうするかぁと笑いながら別れて、森の捜索に戻って行った。

 森の探索に戻ったトーアも、パーティの男性が言った『本当に北側の森に居るのか?』という疑問を抱く。


――ギルドの読みはそんな間違っていないと思うけど……。まだこの周辺まで到達していないのかな。


 日が傾き始めたのを見てトーアは街に戻った。


 ギルドには探索を終えた冒険者達がつめかけており、すでに報告を済ませた冒険者たちはギルドのテーブルに座っているようだった。


「リトアリスさん、お疲れ様です。朝の会議室で報告をお願いします」


 立っていたギルドの職員に言われトーアは会議室へ向かう。会議室の机にはギルド長が座っていた。


「お疲れ様です。何か成果はありましたか?」

「私が担当したところにゴブリンの姿は見えませんでした」

「やはり、そうですか……」


 やはりという言葉にトーアは、首をかしげた。ギルド長から何も成果が出ていない事を説明を受ける。ギルドのテーブルに座っていた冒険者たちの表情がさえないのを思い出し、トーアは納得した。

 その後、ギルドでは発表があるからと待っているように言われ、トーアはギルドの椅子に座って待っていた。特に他の冒険者から話かけられることはなかったが、言葉を潜めて交わしながら何度も視線を送られる。

 結局、この時も誰もトーアに話しかけることはなく、トーアは若干イラつきながら気になるなら話しかけて来いと思っていた。

 冒険者が全員戻ったのは太陽がほとんど沈んだからだった。


「お待たせしました。明日の事を含めて説明しますのでゴブリン討伐に参加した冒険者の方は会議室の方へお集まりください」


 ギルド職員の呼びかけにテーブルに座っていた冒険者たちは朝に集まった会議室へと入って行く。トーアも他の冒険者と共に会議室へと入った。


――……なんだか汗臭い。


 屈強な男達が集まった会議室に篭るにおいにうんざりしつつ、前に立つギルド長にトーアは視線を向ける。


「本日の探索、お疲れ様でした。今日の成果は昨日と変わらずゼロです。ですが本日、エレハーレに到着した隊商より気になる情報がありました」


 ギルド長の言葉に部屋に居る冒険者たちがざわついた。そのざわつきが収まるまでギルド長はもったいぶるように待った。


「北側の森から南側の森に移動するゴブリンの群れがあり、隊商の姿をみると一目散に南側の森へと逃げて行ったそうです。ここからはギルドの見解となりますが、先日討伐されたゴブリン三体はアレリナを襲撃した個体とは関係がない、または群れから離れた個体であったと思います。そして、本日、王都主街道で姿が確認されたゴブリンの群れこそアレリナを襲撃した群れであり、アレリナの襲撃後、このエレハーレ周辺まで逃げてきたのだと思います」


 ギルド長の説明には一応、筋は通っており冒険者達から反論はなかった。二日間の探索はまったくの無駄足となってしまったが、ギルドからの依頼のため報酬はしっかりと支払われており、完全な無駄足とは言い切れないからかもしれなかった。

 二日目の探索では高いランクの冒険者やパーティは、一日でいける距離で森に入っているため、他に群れがあった場合でも探索されていないのは街から遠い場所になる。

 トーアがゴブリンを倒したのは非常にタイミングの悪い事だった。人助けのために必要な事だったのだから仕方がないととやかく言われた訳ではないがトーアは少し開き直る。


「そこで情報も踏まえて明日は南側の探索を行います。今日と同様に探索範囲をギルドで指定しますので、明日の朝にもう一度ギルドにお集まりください。今日の報酬はカウンターでお渡しします。本日はご苦労様でした」


 ギルド長が軽く会釈し、解散という流れになった。

 ドア近くに居たトーアは最初にカウンターに並び、ゴブリン討伐の報酬である銀貨二枚を受け取る。

 すぐに横にどけて列を作る冒険者に場所を譲った。


 夕凪の宿に到着する頃には、陽が沈みあたりは暗くなっていた。スウィングドアを押して酒場に入る。


「お疲れさん。今日はどうだったんだ?」

「結局ゴブリンは北側の森には居ないってことになったよ」

「いや、ゴブリンはまぁ、どうでもいいんだが」

「ああ……ホーンラビットとグリーンバイパーくらいかな」

「なんだ、たいした成果じゃねぇな」

「まぁ、あんなに人が入ってたら姿を隠すんじゃないかな」


 多勢に無勢とわざわざ姿を現す魔獣はいないだろうと、トーアは呆れる。


「それもそうか」

「まったく、ゴブリンはいねぇし、トーアが狩ってきた魔獣も食えないしで散々だぜ」


 いつもの客達がギルドから戻ってきたのか、口々に愚痴をこぼしながら席についてトリアに注文を告げていた。

 トーアはため息をついてベルガルムから部屋の鍵を受け取り、部屋へと向かった。




 日が変わりトーアは他の冒険達と共に南側の森へと向かう。

 ギルドでは隊商から聞き出した情報として、群れを纏めている個体が居たとギルド長が参加した冒険者に説明していた。

 ゴブリンにリーダーが居る?という疑問を頭の隅で考えつつ、トーアは森の中に入る。昨日の北側の森と様子は異なり、ひどくざわついていた。何かが起こっている可能性が高いとトーアは思いながら割り当てられた区域に向かって歩き始める。

 森を進んでいるといくつもの気配を感じて気配を殺し、剣の柄に手をかけてゆっくりと草陰に近づき様子を窺う。そこには数人の冒険者が集まっており、声を潜めて話をしているようだった。

 ギルドでも見かけた冒険者達だったので、トーアは剣の柄から手を離して草陰から姿を現す。

 草陰を揺らした音に冒険者達が一斉にそれぞれの得物に手をかけるが、トーアとわかると緊張を解いて、得物から手を離した。


「同業……だな?ギルドで見かけたが」

「はい。そちらもゴブリン討伐ですよね」

「そうだ。……丁度いい、ここから少し離れた所に対象の群れが見つかった。ギルドの言うとおり、協力して叩こうと思うんだが」

「わかりました」


 トーアは輪の中に加わり、冒険者達が話していたのは討伐するための方法だとわかる。話していたのは、いくつかのパーティのリーダーでその中で最も実績と経験をつんでいる一人の男性が場を纏めていた。使い込まれた金属鎧と手には大きめの盾と腰に剣を刺している。


「今はクエストに参加している冒険者を集めているところだ。相手の数は多いが手負いのゴブリンだ、周囲を固めて包囲殲滅という方法を取る」


 男性の立てた作戦にトーアは頷く。もともと名声が欲しい訳ではなく初めから援護に回ろうと考えていた。

 呼び集められた冒険者達がぞくぞくと集まり、作戦が伝えられていく。当初の作戦から変更はなくある程度の人数が集まったことで移動を始めるかという声が出始める。


――なんとかなりそうかな。


 移動を始めようとした面々の前に草陰から軽装備の男性が飛び出してきた。

 突然の事に冒険者たちは身構えるが、同じパーティらしき面々が飛び出してきた男性に近づく。


「お、おい。どうした?」

「大変だ!バカ共が作戦無視してゴブリンに向かっていきやがった!」


 男性の言葉に周囲の冒険者達がざわつくがほとんどが作戦を無視して向かって行った冒険者達への悪態だった。


「それで大丈夫なのか?救援がいらないなら、癪だがエレハーレに帰るが」


 イラつきを隠そうとせず、一人の冒険者が聞く。


「いや、あいつらはゴブリンに囲まれて攻められてる!あのゴブリンは普通じゃないぞ、妙に統率が効いてやがる。盾を前に構えて隙を突くって戦法を取ってやがった」

「ゴブリンが?盾ぇ?」

「ああ。それに数も想像していたよりも多い。五十体はいるんじゃないか」


 驚きの声が上がる中、まとめていた男性が声を上げる。


「ギルド長が言ってた個体の事だろう。作戦は変えず、周囲を囲んで一気に殲滅する。どうせ、囲んでる奴らに目が行ってるだろう。いくぞ、お前等!」


 男性の言葉に周囲の冒険者は、応!と答え足早に移動を始める。


――功名心にかられたかな。まったく作戦も何もあったものじゃないなぁ……。


 トーアも冒険者達の後を追い、移動を始める。先導するのは最初に飛び込んできた軽装備の男性だった。

 腰の剣を押さえ、小枝や葉を撒き散らしながら森の中を走り出した。

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