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第三章 露店市場 11

 翌々日、トーアは再び露店市場で店を開く。

 昨日は作りかけだった追加の見本武器を完成させ、午後からは白兎の宿の裏庭で見本武器を立てかけるための見本台を作成した。

 作業の途中でトーアの作業を見に来たミリーに冗談めかして青空工房だよと話し、トーアの手でみるみるうちに見本台が作られていく様子に目を輝かせるミリーにほっこりしていた。

 指定された露店の位置はいつもとあまり変わらず、手にしていたたらいと椅子を下ろしてリュックサックの中に手を入れる。

 チェストゲートを発動して折りたたんだ見本台やいつもの看板を取り出して、開店準備を整えていく。トーアが作成した見本台は組み立て式でありながら見本武器を金具でしっかり固定が可能で、倒れた程度では簡単に外れないよう安全面に考慮した造りになっている。

 組みあがった見本台に作成した見本武器を取り付けて、出来栄えに頷きながら、たらいや机の準備をつづけた。


 準備を終えて店を開いたものの、お昼を過ぎるころまで研ぎの依頼が数件あったぐらいで製造の依頼はなく、仕方なしとトーアは依頼を受けた刃物の研ぎを始めた。

 依頼を受けたのは大体が料理に使うような刃物で、形は様々だが結局、武具という訳ではなかった。


「おうおう、嬢ちゃんがこんなところでナニ売ってるんだ?」


 剣呑な男の声にトーアは手を止めて視線を上げる。

 店の前に立っていたのは、着崩した服にやたらと不機嫌そうな顔、何らかの油で固めて逆立たせた髪、身体を倒して下から覗き込むようにして見てくる男の姿にトーアは固まった。


「おいおい、なんて声の掛け方してんだよ、怖くて固まっちまってるじゃねーか!」


 茶化すようにげらげらと笑うのはトーアに声をかけた男の後ろに居た同じような服装と雰囲気の男達。そちらにも視線を移したトーアは目を丸くする。


――こんな……こんな典型的なチンピラをここまで主張するような人間がいるなんて!


 恐怖などよりも驚愕のほうが強く、異世界ってすごい!と半ば感動してしまっていた。

 いつまでも固まっている訳にもいかないと視線だけで周囲を確認すると他の露店の主人や通行人が心配そうな顔をしているが、様子を見ているだけのようだった。

 前に立つ男達は武器を持たないトーアでも脅威でもなんでもない上、手にはいま研いでいた刃物である包丁が握られている。

 男達を無力化して制圧することは簡単だがこうして注目を集めているなら、逆に利用させてもらおうとにたりと笑みを浮かべた。

 その笑みに一瞬、男たちはたじろぎ口を開くが、立ち上がったトーアが声を上げたほうが早かった。


「何を売っているか、そうお尋ねですね!」


 明るい声色と人好きする笑みを浮かべながら、トーアは目の前の男達だけではなく辺りの通行人にも聞こえるように声を張る。


「え、あ、ああ……」


 トーアの今までと異なる態度に若干腰が引けつつも先頭に居た男は辛うじて頷いた。


「ではご説明いたしましょう!わたくし、リトアリス・フェリトールがご通行中の皆様にご提案する商品、まずは刃物の研ぎです!」


 近くの露店でラカラを扱っていた男性に視線を送り、ジェスチャーで売り物であるラカラを投げてもらう。受け取ったラカラをトーアの売り口上で足を止めた通行人たちに見えるように掲げる。


「ご覧ください!この真っ赤に熟れたラカラを!んー……良い香りです。陽の光を毎日たっぷりと浴びた新鮮で香りの強いラカラ、きっと味も濃くておいしいと思います。井戸水で軽く冷やしてかぶりついても良いでしょう。ですが、料理に使えばより一層、味を深めることができます!」


 掲げたラカラを顔に寄せつつ組み立て式の机の上にまな板を用意し、まだ研がれていない・・・・・・・包丁を手に取る。


「ですが料理のためには切らなければなりません。こちらは刃が鈍った包丁ですが……」


 手にした包丁をラカラに添え、わざと潰すように切る。


「このようにせっかくのラカラも残念なことになってしまいます。つぶれたラカラで作った料理では姑からの視線は冷たく、楽しいはずの食事の時間も陰湿な雰囲気に……」


 トーアが大げさに声のトーンを落としてため息をついた。ラカラを販売していた男性も『丹精込めて育てた野菜をそんな風に使われるのは心外だ』という風にため息をつき、大げさに肩を落とした。トーアの口上を聞いていた数人の主婦たちがそれは困るわぁと声を上げる。

 ノリの良い人たちが来ているようで助かると思いつつ、もう一つラカラをもらう。


「そのような事態を避けるためにぜひ、わたくしにお任せください!」


 一転して明るい声を上げながら胸を張って日頃トーアが使っている包丁を取り出して周囲に見えるように掲げる。

 逆の手でパーソナルブックを開き、ラカラを使った簡単な料理のページを開く。


「切れ味が落ちてしまった包丁もわたくしに預けていただければこのとおり!」


 まな板に載せたラカラに包丁をのせると抵抗もなく、輪切りになる。切り口の周囲はつぶれて崩れることなく、溢れだした果汁も最小限だった。

 先ほどのラカラと全く違う状態に辺りからは歓声が巻き起こる。


「さらに、これをこうして!」


 ラカラを次々に薄切りにし木皿に並べ、岩塩をふりかける。仕上げに生臭ものが食べられない人向けの『餡かけおこげ』を作る時に探した植物性の油を軽くふりかけた。


「どうぞ、簡単な物ですが」


 木製のフォークも添えて、店の近くにいた若い女性に木皿を差し出す。

 驚いた女性は戸惑いつつもフォークに手を取り、そっと薄切りにされたラカラを口に運んだ。


「え……これ……すごい、おいしい……!」


 トーアが調理しているところを見ているため、それがラカラと塩、油だけでできていることは誤魔化しようがない。

 想像を超えた味に女性は茫然としたまま、周りの人に皿に残ったラカラを勧め始める。

 皿を差し出された人々は恐る恐るといった感じに手を伸ばし、ラカラを口にしていき、一様に目を大きくさせる。


「っ~!?」

「うそでしょ……!?」

「うまっ!」

「え、あ、まじか?本当にアレだけだよな?」

「はい。新鮮なラカラ、岩塩、植物由来の油を少しだけ振りかけただけです」


 トーア作『ラカラのサラダ』を口にした人々が絶叫し、確認してくる様子ににっこりとほほ笑みながらトーアは頷いた。


「切れ味の良い包丁で料理を作るという必要性がご理解できたかと思います。もちろん、包丁だけではありません!冒険者の方々の武器の研ぎもお受けしております!命を預ける相棒に鈍りがあっては明日の命もないかもしれません!『鈍ったかな?』と思う前にぜひご相談ください!」


 どうだ!と言わんばかりの笑顔を最初に話しかけてきた男たちに向けるが、男たちは口を開けたり閉じたりを繰り返し、言葉が出てこないようだった。


――……あ。やり過ぎて理解が追い付いてないな、コレ。


 営業妨害に来たのかもしれないが、注目が集まった事を利用されて派手な売り口上を始めるとは、誰も考えつかないだろうとトーアは少しだけ男たちに同情する。


「あとは武器、防具の製造依頼も受け付けております」

「へ、へぇ……お前みたいなガキが作った武器、だれが……」


 とっかかり口としてはわかりやすいであろう事をトーアが説明すると我を取り戻した男が営業妨害らしい言葉を吐く。

 だが人込みの中から真っすぐにトーアの元へ向かってくる人影があった。


「トーアの武器が、なんだって?」


 トーアの店の前で男達と対峙したのはうっすらと笑みを浮かべたギルだったが、目が全く笑っていなかった。

 ギルがまとう剣呑な雰囲気に男達は一瞬たじろぐが、すぐに身構える。ギルたちがやってきた方から遅れてフィオンとゲイルが現れ、すぐに状況を把握したのかトーアに視線を送って首を横に振っていた。ギルを止めろということらしい。


「ギ、ギル?」

「ああ。ただいま、トーア」


 身構える男達を無視してふやける様な笑みでギルはトーアの傍に寄り、手を伸ばしてそっと頬を撫でてくる。

 クエストに出て多少とは言え会えなかった時間があったためか、ギルの醸し出す雰囲気は非常に甘ったるい。

 頬に熱が集まるのを自覚するがとりあえず、ギルがいきなり男たちをどうにかしてしまう状況は避けれたらしい。

 横目に移るフィオンとゲイルはほっとしつつも口から砂糖を吐きそうな顔をしていた。


「さてと……トーアの作った武器がどうこう言っていたようだけど……試しに切ってみるかい?」


 再び男たちに向いたギルは腰にしていたトーア謹製の剣の柄に触れる。

 状況は変わっていないようだったが、ギルは剣を抜くつもりはないらしいとトーアは察した。


「なんだぁ……そんなガキが作った武器で俺達とやろうってのか!」


 剣の柄にふれたギルにいきり立った男たちは腰に手をやり、差していた短剣やポケットに入れていたらしい折り畳み式のナイフを取り出した。


「あれは誰だ?」

「あの金髪金眼……リトアリスと懇意の冒険者……?」

「さっきギルって呼ばれてたな……」


 ざわつく周囲が次第に静まり、一触即発の気配が高まる。

 だが頭一つ大きな狼顔の獣人が前に現れ、場の状況を理解したのかふっと息を漏らしながら辺りにはっきりと通る声で呟いた。


「お前達……ギルビットの手で輪切りになりたいのか?」


 狼顔の獣人、ヴォリベルの呆れを含んだ一言は辺りに居る人々に男たちと対峙している人物が誰かわからせるには十分だった。


「ギルビット……?……そうだ!エレハーレの試剣術で成体のブラウンボアを二頭輪切りにした」

『『獣切り』ギルビット・アルトラン!!』


 名前の前についた名称にギルは苦笑いを浮かべつつ、どうする?という風に肩をすくめる。

 男たちはエレハーレの一件を知っているのか、そして、それが目の前の人物で行われたと理解したのか腰が引け顔色を青くしていた。

 指さしていた手は面白いほど震えており、口は開いているものの続く言葉が出てこないようだった。


「っ、ぅ、ぁ、こ、こ、こ、このっ!お、お、お、覚えていやがれ!」


 月並みのセリフを残しつつ、男たちは背を向けて集まった人々をかき分け逃げるように去って行った。

 男達が去るとあたりから拍手が沸き起こる。

 ぺこりと頭を下げたトーアの傍に様子を見ていたフィオンとゲイルが近づいた。


「フィオンとゲイルもお帰り」

「もー……ギルさんがいきなり駆け出したから何事かと思ったよ……」


 先ほどまでのギルの態度に心底疲れたのか、深いため息を吐きだしたフィオンと腕を組んで何度も頷くゲイル。流石にあのギルを止めることはできないようだった。


「息災なようだな」


 口元に拳を当てつつも口の端が笑みを浮かべているヴォリベルとオクトリア、ペフィミルもトーアの露店の近くにやってくる。


「こんにちは、ヴォリベルさん」


 苦笑いを返したトーアは軽く会釈をし、ラカラにありつけたらしい満面の笑みのオクトリアが差し出した木皿を受け取った。


「以前お渡しした斧の調子はどうですか?」

「ああ、今日はその礼を言いにきた」

「礼……ですか?」


 小さく首をかしげるとヴォリベルは重々しく頷く。ペフィミルとオクトリアも笑みを浮かべて同じように首肯する。


「リトアリスのおかげで俺たちはこうして無事に街に戻ってくることができた」


 ヴォリベルの言葉が予想よりも重たい事にトーアは驚き、そして、リーダーであるガーランドの姿がない事に気が付いた。


「ヴォリベルさん、ガーランドさんは……」

「ああ、うむ。ガーランドは無事だ。だが足をくじいてな。宿で療養中だ」


 最悪の展開を予想したが無事と聞いてほっと胸をなでおろす。トーアの様子にヴォリベルは苦笑を浮かべ、何があったのか話し始める。

 一昨日、トーアから武器を受け取ったヴォリベル達は用意を整えて、昨日、ブラックバイソンを狩るクエストを受けて街を出発した。

 ヴォリベル達にとってブラックバイソンは準備を怠らなければ、死を覚悟するようなものではなく武器の手ごたえを確かめるには十分な難度のクエストなはずだった。


「俺達も気が緩んでいたわけではない。新しい武器というのは今まで使っていたものとやはり、使い勝手の差があるからな。だが、俺たちが見つけたブラックバイソンは……頭に黒い角があった」


 僅かに声を潜めて呟かれたヴォリベルの言葉にトーアは特異個体に行き当たった事を察する。

 通常よりも二回り以上大きな身体をしており、近づくヴォリベル達に気が付くとすぐに臨戦態勢をとるなど、もともと気性が荒いブラックバイソンがより危険な存在となっていた。

 特異個体という情報は聞いていたヴォリベル達は初めは驚いたものの動揺せずに、前衛にガーランド、遊撃手のヴォリベル、支援にオクトリア、魔法の準備をペフィミルというパーティの基本戦術をとる。

 前に出たガーランドがブラックバイソンの突進をスキルを使用して受け止めようとするが、通常の個体よりも遥かに重い一撃に体勢を崩される。

 すぐにガーランドのフォローのためにヴォリベルは飛び出す。頭を振ってガーランドに追撃をしかけようとするブラックバイソンの首筋に目掛け、トーアが作ったハンドアックスを振り下ろした。

 この一撃はガーランドから意識をヴォリベルに向け、ガーランドが立て直す時間を稼ぐためのものだった。

 だがヴォリベルの予想に反しその一撃は、ざくりという切断音とともにブラックバイソンの筋肉に覆われた首を半ばまで切り裂いていた。

 それに一番驚いたのは一撃を繰り出したヴォリベルで、驚きながらも咄嗟に身体に覚え込ませた動きで距離をとった。ブラックバイソンは何度かたたらを踏み、そして自身の首から噴き出した血の池に座り込み、そのまま動かなくなる。

 ブラックバイソンが絶命した事に四人は茫然としていたが、しばらくして足をくじいたガーランドは痛みに、他の三人はガーランドの上げた声に我を取り戻した。


「という訳だ。想像以上の出来栄えだった、だから礼をいいにな。こうして誰も欠けることなく街に戻ってきたのはリトアリスのおかげだ。ありがとう、感謝する」


 頭を下げるヴォリベルにトーアの胸は一杯になる。


「ヴォリベルさん達が、無事でよかったです」


 なんとか言葉を紡ぐがCWOで経験した事のない達成感にもにた高揚がトーアの胸を一杯にしていた。体の奥底から湧き上がる嬉しさに頬が自然と上がってしまう。


「あ、あの、ガーランドさんのけがは大丈夫なんですか?」


 嬉しさににやけそうになっているトーアにヴォリベルやオクトリア、ペフィミルは気が付いたようだったが、あえて指摘せずにヴォリベルはふっと口角を上げる。


「ああ。ペフィミルの治癒魔法をかけてあるから怪我のほうは大丈夫なんだが……突進を受けた盾が大きくひしゃげて使い物にならなくなってな」

「怪我よりも盾が使えなくなったショックで部屋の隅で膝を抱えて黄昏ているのよ。新種のキノコでも生えてきそうだったわ」


 にやにやと笑うオクトリアにトーアはご愁傷さまですと伝えてほしいと言った。


「あ、防具の修理や製造も受け付けていますので」

「ああ。ガーランドに伝えよう」


 ヴォリベルは頷き、ではなと挨拶を交わしてトーアの露店をヴォリベル達は去っていった。

 続いて話を聞いていたギルたちがトーアに視線を向ける。


「露店は順調そうだね」

「知り合いしか来てないけどね」


 苦笑いを浮かべたトーアだったが露店の周りに様子を伺っている冒険者らしい通行人がいることに気がついた。

 あたりの様子に気がついたギルたちは、宿に帰ってから近況を話すことにし、露店から去って行く。

 ギルたちが去ると様子を見ていた冒険者らしい通行人たちがトーアの露店に殺到する。

 見本武器を見たいという客や製造についての質問をしたいという客に一旦、待ってもらい、トーアは先ほどの売り口上で使ったラカラの代金を支払うため、露店の男性へと近づいた。

 トーアが貨幣を取り出そうとしたことに気が付いたのか、男性は首を横に振る。小さく首をかしげると男性は売り物が入っていただろう籠が並んでいるのを指さした。


「代金はいいぜ。嬢ちゃんのおかげでこっちもすっかり売れきれちまったからな。それにしても見事な売り文句だったぜ」

「いきなりのことだったのに、ありがとうございます」


 打ち合わせなしでラカラを投げてよこした男性の商機を逃さない抜け目のなさに感服しつつ、礼を言うと男性はいいってことよと、親指を立ててとても良い笑顔をトーアに返した。

 待っていてもらった客に見本武器や質問を答えていると、足を止めた女性がトーアに声をかけてくる。

 エプロンをした主婦らしき女性で、先ほどの騒動の近くに居たような気がした。


「注文できるのは武器ばかりなのかい?」

「いえ、ご注文を頂ければ大体の物をご用意できると思います。流石に希少な素材をつかったものは難しいですが……」

「なら包丁はどうなんだい?あんたがさっき使っていた包丁みたいな切れ味のいいやつがいいんだけどね」


 女性の言葉にトーアはもちろんですと答えて、見本用の包丁をリュックサックに手を入れてチェストゲートから取り出した。

 いろいろな見本武器を作った際に包丁も作ろうとなぜか思い至り、作った後に本当に必要だったのだろうかと、はたと気がついた。

 あって困るものじゃないしいいや!と開き直り、チェストゲートに収納したままにしていた。

 トーアの包丁を受け取った女性は、あるんじゃないかいと声を上げて手に持ち調子を確かめはじめる。同じように様子をみていた主婦らしい女性たちは包丁について姦しく話を始めた。

 その様子にやっぱり作っておいてよかったじゃないかとトーアは誰かに向ける訳でもなく、内心胸を張る。

 しばらくして見本の包丁をみていた主婦たちが去り、見本武器を見ていた冒険者らしい男性から返された見本武器を受け取った。


「……噂に違わぬリトアリスの腕前……こんなにも簡単に注文ができるなら、考えてしまうな」

「ありがとうございます。しばらくはこちらで露店を続ける予定ですので……」


 トーアの言葉を遮るように市場が閉まる鐘が鳴り響く。話をしていた男性は鐘がある方角に顔を向け、再びトーアへ視線を戻した。


「もう市場が閉まる時間か……懐事情もある。しばらく考えさせてくれ」


 もちろんですとトーアは頷いて、去って行く男性に頭をさげた。

 露店を片付けて金属の札を返した露店市場を後にする。


――こんなにうまく宣伝ができるとは思わなかったなぁ。


 絡んできた男達、それをけしかけた見知らぬ誰かに感謝の念を送り、これからは多少は依頼が増えそうだという期待を胸にトーアは鼻歌交じりに白兎の宿へと向かって歩き出した。

 

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