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第十章 十二時間のデスゲーム 15

 Crafting World Onlineのデスゲームでの出来事を思い返したトーアは大きく息を吐いてマグカップに残っていたカフェオレを一息に飲み干す。

 結局、大神と約束した『いきなりではない』は守られていないことに再び溜息をついた。


――考えてみれば、悪い事ばかりじゃなかった……かな。


 手は小さく震えたが、吐き気までは起こらず空になったマグカップをカウンターに置いた。


「とりあえず……デスゲームが起こった理由も、私が何をしなければいけないのかもわかった」

「苦労をおかけします」

「一つ、聞きたい事があるんだけど、黒い角が生えたゴブリンとホブゴブリンと出遭ったんだけど、アレも『魔王』の影響なの?」


 驚いた顔をした男性にそのときの状況を説明すると肯定するように小さく頷いた。

 あの黒い角は『魔王』に意識を侵食された証であり、身体能力の向上や知性の獲得、逆に理性を失い見境無しに目に入った存在に襲い掛かるといった様々なパターンがあるという話だった。

 他の世界にも似たような現象が存在し、魔王に侵された存在として認識されている。その存在が最初に現れ始め混乱を引き起こし、世が乱れた時に魔王が現れ世界を滅ぼすというのが世界が滅ぶ大体の流れということだった。


「という事は黒い角を持った生き物は要注意と……でも角を破壊すれば、魔王の影響はなくなる?」

「侵食の度合いにも依ると思いますが、弱点であるという事には変わりありません」


 勇者の力が覚醒するのも、トーアが受け取ったレシピが使えるようになるのも魔王が現れてからという事なので、今のトーアとギルに出来ることはない。

 質問したい事もなくなったのでトーアはギルと目配せをした後、席を立とうとする。


「トーアさんにコレをお渡ししておきます」

「これは……なんのレシピ?」


 差し出され受け取ったレシピにはトーアが見たことのない【刻印】を使用するレシピだった。その【刻印】が刻まれたものはコトリアナではエステレア法国にのみ存在し、巨大な水晶に刻まれているとのことだった。

 その水晶は神託の神子が神託を受ける部屋に置かれており、今後、神である男性と会いたい場合はレシピを刻んだものを枕元において寝れば神である男性とここで会えるらしい。

 前回これを渡さなかったのは、今後、必要ないと考えていたが特異個体が現れたことなどから連絡が取れたほうがよいと用意したとのことだった。


「水晶じゃなくていいの?」

「はい。【刻印】は単純に場所をわからせるためのものなので、材質は問いません。それでは、後はお願いします」


 ギルと共に頷いて眠ったままのフィオンに肩を貸して、喫茶店の出口へと向かいそのまま外に出ようとする。いつもの浮遊感と共に視界が光に包まれ、目を閉じる。再び目を開くと『異界渡りの石板』を保護する為の建物の中だった。

 小さく息をつくと、フィオンが小さな声を上げて顔を上げ、辺りを見渡す。


「フィオン、目が覚めた?」

「う、うん……ここは……異界渡りの石板の建物……?」

「そう。色々と話したいことがあるからもう一度、小鬼の洞窟に入るよ」


 トーアから離れ立ち上がったフィオンが頷くのを見て、ギルが異界渡りの石板を起動させる。

 再び洞窟の中に戻り、異界渡りの石板の近くにあった岩に腰掛けた。フィオンやギルも同じように近くの岩に腰掛ける。


「とりあえず……何から話そうかな」

「あ、な、なら……天命兵装持ってるなら言って欲しかったなぁって」


 ギルが剣を抜き【機械仕掛けの腕】の剣形態に変形させるとフィオンは目を輝かせた。


「わぁ……すごい!私、天命兵装を間近で見るの初めて!」

「フィオン、私とギルが住んでいたところじゃ天命兵装って呼ばれてなくて……。私の物はちょっと見せにくいから、ごめんね」

「ううん、そんな気にしないで!天命兵装……“持ち主が選ぶのではなく、選ばれる。天命を受けるがごとく持ち主となる者の人生に必要な兵装となる。”かっこいいなぁ……」


 目を輝かせながらギルの持つ【機械仕掛けの腕】を眺めるフィオンの言葉に、トーアはギルと思わず顔を見合わせる。


「……人生に」

「必要な兵装……」


 呟いたあと、トーアは小さく肩をすくませた。

 しばらくしてギルが通常の剣の状態に【機械仕掛けの腕】を戻すと、フィオンは迷ったようにトーアに視線を向ける。


「その……トーアちゃんのあの姿はなんだったの……?」

「あれは私とギルが居た所に住む一部の人が使える種族の力なんだ」

「種族の……エルフの人たちが魔法を使うのが得意な感じ……?」

「うん。そう思ってくれればいいかな」


 頷きじっとフィオンを見ると、腕を組み難しい顔をして考え込んでいた。


――やっぱり苦しい理由だよね……。


 信じてくれない場合はどうしようかとトーアが考え始めた頃、フィオンはうんと小さく頷いて顔を上げる。


「わかった。そういう種族の人なんだね」


 フィオンが信じてくれたのかどうかはわからなかったが、それ以上追求する気はなさそうだった。そして、成長装具の事はチェストゲートと同じような形で隠す事はないが、【神々の血脈】の事は絶対に話さない事をお願いする。


「うん。了解だよ」

「でも、そんなことはないと思うけど……フィオンの命が関わるのなら漏らしてもいいからね」


 トーアの言葉にフィオンは不思議そうな顔をしながらも頷いた。

 黒いホブゴブリンの事は神との男性との会話で特異個体であることや魔王が原因である事はわかっているが、魔王という物の説明がしにくいため、トーアは『特異個体かもしれないがそれ以上はわからない』とフィオンに話す。


「そうだよね……なら、エレハーレに戻る?」

「うん、そうなるね。まぁ、今日はあっちの建物に泊まって明日出発だね」

「わかったよ。……トーアちゃん、今日の夕ご飯、何を作るの?」

「あー……これから考えるよ」


 期待の篭ったフィオンの視線にトーアは微笑みを浮かべる。

 異界渡りの石板を使いもとの場所に戻るとフィオンが最初に扉を開けて外へと出て行った。

 その様子をみながらフィオンが信じてくれた事にほっとしながらも、その理由を考えてしまう。となりに立つギルも同じことを考えていたのか、フィオンをそれとなく視線を向けている。


「ギル。今はエレハーレに戻ろう」

「……そうだね」


 フィオンの後を追ってトーアはギルと共に建物の外へと向かった。

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