決まり切った形の小説
マン・ネリカは、小説を書く才能は持っていました。
けれども、みんなが好んで読むような“決まり切った形の小説”を書くのは苦手でした。少なくとも、マン・ネリカ自身はそう思っていました。そうではなく、もっと自由な広がりのある小説を書きたいなと、いつもいつも願っていました。
なので、“しょうせつのがっこう”に入学したばかりの頃のマン・ネリカは、そういった、人とは違う形の小説ばかりを書いて、学校の先生に提出していました。そうして、そのたびに先生に怒られるのです。
「マン・ネリカ!ま~た、このような小説を書いてきて!アレだけ散々、駄目だと言ったでしょう!」
「でも、先生。こんな風に書いた方が、他の人との違いがハッキリするでしょ?」
マン・ネリカが、そんな風に答えると、再び怒声が飛んできます。
「そんなものを誰が読むというの!あなたは読者の気持ちというものが、コレッポッチもわかっちゃいません!!他の人の小説との違いなんて必要ないのです。そんなものは、ちょっとでいい。ちょっとだけ変えて、他はみんな同じでいい。それが、いい小説の基本というものなの!」
マン・ネリカは、そんな言葉を聞くたびにショックを受けました。「私は、最高の小説を書いているのに、どうして理解してもらえないの?」と不思議に思ったりもしました。
けれども、世界はそんな風にはできていなかったのです。特に、この国と、この国の人々は。
世界は、どんどんシステム化し、パターン化していきます。そうして、人々の心も同じようにシステム化していくのです。しだいに、道から外れた考え方は理解されないようになっていき、ついには“悪”だと認定されるようになってしまいました。
基本から外れることは許されず、基本に沿ってちょっとだけ違いがあるものが好まれました。人々は、その“ちょっとの違い”を楽しむことで生きていたのです。決して、大きく外れてはいけませんし、大きく違ってもいけません。
小説だけではなく、全ての本も、全てのマンガも、全ての映画も、全ての音楽も、みんなみんなそうでした。違いは、ちょっとだけでいい。大きく外れてはいけない。