しょうせつのがっこう
ある世界のある国に、マン・ネリカという少女が住んでいました。
年の頃は、15~16歳といったところでしょうか?ま、年齢に関しては、そんなに重要ではありません。大体そのくらいの年頃だというコトだけ覚えておいていただければ。
重要なのは、ここからです。
マン・ネリカは、“しょうせつのがっこう”に通っていました。“しょうせつのがっこう”とは、小説の書き方を教えてくれる学校のコトです。
たとえば、「ストーリーはこのように進めていきましょう」とか「キャラクターというのは、こういう風に作り上げていくものです」とか「このような表現は使ってはいけません。こちらの表現なら使っても構いません」というようなコトを事細かに教えてくれるのです。そこから外れると、即座に怒られてしまいます。
マン・ネリカは、そんな授業を退屈に感じていました。
「ああ~あ、もっと自由に書きたいのにな…」
いつも、そんな風に呟いて暮らしていました。マン・ネリカにとって、小説とはもっと自由で広大で深いものに思えたからです。けれども、マン・ネリカのそんなやり方は、学校の先生たちからすると、敵以外の何ものでもありませんでした。忌み嫌われる存在だったのです。
仕方なしに、マン・ネリカは、今日も学校の先生の言う通りに小説を書き続けます。
学校の先生の言うコトにも一理ありました。
形式から少しでも外れた小説というのは、読者にとっても読みづらいものなのです。この世界の、この国の人々は、小説の読み方というのをよく知りませんでした。彼らにとって、小説とは、“読んでいて楽しいもの”に過ぎなかったのです。
本を読んで深く考えるとか、作者に反論するとか、怒って本を投げ捨てたり、ビリビリに破いてしまったり。そういうのは、本の読み方ではないと考えていたのです。
そうではなく、ただ単に“読んでいて楽しい”というのが、いい本の条件とされていました。ですから、“しょうせつのがっこう”でも、そのような小説の書き方しか教えてくれなかったのです。
もっとも、他の国や他の世界では、別の本の読み方を知っている人たちも大勢いたのですけどね。