ひょうたん池の帰り道で
ひょうたん池からの帰り道、久しぶりに笹山と会った。
「……」
「……」
お互いに無言のまま、私の歩幅にして約十歩の距離で立ちすくむ。笹山にとっては五、六歩の距離だろう。
くそう、長い脚しやがって、と内心毒づいていると笹山がくるりと踵を返した。
待って。
そう言うより先に体が動いた、…らしい。
気がついたら笹山にタックルをかましていたわけだ。
宮田と田間と別れて向かった先は大学近くの公園だった。神社に併設されたここに、ひょうたん池がある。笹山が産まれて拾われた場所だ。…笹山妹によれば。
ひょうたん池はちっぽけな池だ。正確にいうと池というより水溜まりに近い。いつぞやの昔はひょうたんの形をしていた池だったそうだが、今は名ばかりが残る。
ひょうたん池で拾われた。
それが真実ならなんともシビアな話だ。卵から孵って云々を無視すれば、笹山は幼少時に池に落ちたところを助けられたのだろうか。…拾われた、というならば親は迎えには来なかったのか。笹山妹もそれを見ていた、いや、落ちている笹山を見つけたのが笹山妹だったのかもしれない。
そして笹山は笹山家の養子になり、今に至る、と。
思いついた話はありふれたドラマのようだった。ドラマならきっと笹山は笹山妹に恋をし、血の繋がりがどうのと悩む。それが第一の山場で、第二の山場は実の親のご登場だ。第三の山場で想いが通じ、あれよあれよとハッピーエンド。カエル男物語完。
「…あほらし」
呟いて帰ることにした。どう考えてもカエル男には繋がりはしない。魔法使いなんて嘘っぱちだ。
だって魔法なら。
そうしたら目の前に笹山がいた。そうしたら笹山にタックルしていた。
…どうして、こう、なるんだか。
笹山の上にのし掛かりながら立ち上がれもせず声もかけられず、目を上げた先の緑の頭を見ていた。鮮やかな緑はカエルというよりは…
「…マリモ」
「人に乗っといてそれはないでしょ」
いてて、と笹山が呻いたもんだからやっと私は起き上がることができた。立ち上がれはしなかったけど。
「ごめん、笹山」
「ったく、ラグビーすんなら草の上にしといてよ」
ジーンズ汚れちまったじゃねえか、と笹山が立ち上がる。振り向いて、座り込んだままの私に気付いた。
「…間宮?」
きょとん、と目を見開いたのは笹山だったのか私だったのか。腰でも抜けてんの、と笹山が問う。
「わかんない」
「わかんない、って…」
マリモ頭が首をかしげる。困惑を表した顔に私は泣きそうだった。
揺さぶられたりしない、と餅屋に言ったのは真実だったのだけど。