美容室の帰り道で
美容室の帰り道のことだった。
「よう、間宮」
「さ、さやま?」
さっぱり切ったらなんとなく落ち着かなくて、パーマかけたらよかったかな、と髪をいじりながら歩いていたら、笹山らしき人に会った。
笹山らしき、男。
「髪切ったんだな」
「こっちのセリフだって」
私、間宮はこの度ロングをセミロングに切りました。が、笹山は五分刈り?よりもっと短く、いや短髪になったのはこの際問題ではない。
「なんで緑なの?」
アッシュなんでものじゃない、鮮やかなグリーン。そんな色によく染めてくれたもんだと思うほどの。
「元の色に近づきたくて」
「あんたアオガエルか」
「たしか、ね。昔のことだから種類とか忘れちゃったけど」
緑髪の笹山はいつものように、ジーンズのポケットに両手を突っ込んだまま、首をかしげた。
それがそこそこさまになっていて。
「顔がいいやつってとっぴなことできていいわよね…」
あたしは切るので精一杯思いきったのに。
「ん?何か言った?」
「なんでもないわよ」
こっそり愚痴り、落ちてくる前髪をかき上げて離れようとした、ら、笹山がついてくる。
「ついてこないで」
「方向一緒だから送るよー」
「結構よ」
「まーみや、」
「なに」
「まだキスする気になんない?」
「なんないね」
「けーち」
笹山の横顔がすぐ近くに会って、笹山妹の言葉が頭をよぎった。
ひょうたん池で拾ったんですよ。
「笹山さあ、最近何かあった? ほら、家のこととかいろいろ」
「何だよ急に」
「いや突然カエルだの髪緑だの、気になるし」
「俺、カエルなの。髪は元に戻りたかったから」
「それが変なの」
「変じゃねえって」
「変わったって」
「間宮が変わらなすぎなんだよ」
は、と思わず立ち止まって、数歩先で笹山が止まった。
「間宮、変わんなすぎなんだって」
「…私だって髪切ったわよ、今日、今さっき」
「全然変わんねえよ」
「失礼ね」
セミロングとロングは追加料金が倍くらい違うのよ。
「カワイイけど」
「そりゃどうも」
「…やっぱ変わんねえ」
はあ、と溜め息ついた笹山は、右手で頭を掻いて歩きだした。
「笹山?」
「おーう、」
ひらひら後ろ手に手を振って、笹山はどこかに消えてった。私はよくわからないまま、家に帰った。
やっぱり、パーマもかければよかったかな。そう思っても遅かった。