帰り道に駅前で
帰り道に笹山の妹に会った。
「あ、」
「あ、」
二人で立ち止まって、一拍置いて、思い出した。
「間宮さん?」
「笹山の妹?」
うなずくのも同時だった。それから慌てて二人でこんにちは。お久しぶり。聞きたいことがあったのよ。
「…笹山さあ、」
「はい?」
笹山を名前で呼んで、返事されて笹山妹も笹山なんだって気付いた。ああ、笹山の名前、名前…思い出そうとしてさっぱり出てこず、こめかみを叩いていたら笹山妹がくすりと笑った。
「笹山でいいですよ。笹山兄と笹山妹で」
「あ、ああ…ごめん」
「謝ることもないですけど。で、お兄ちゃんが何か?」
笹山妹が話を促す。
「…そう、笹山兄さ、何か最近変じゃない?」
「そうですか?」
笹山妹は髪の毛をくるくるいじりながら心当たりを探している。
「基本スタンスが変ですけどね」
「ま、ね」
「あ、もしかして間宮さん、カエルの告白されちゃったとか?」
首を傾げる笹山妹はたいそう可愛らしい。私高校のときこんなに可愛らしい仕草できたっけ、と思い出そうとして無駄だと諦めた。
「そう、カエルって言い出して最近じゃあカエル男って呼ばれてるわよ」
「しょうがないですね、本当のことだから」
「は?」
「お兄ちゃん、カエルなんです」
きょとんとしてしまった。何言ってんの、笹山妹。
「どう見ても人間でしょうが」
「魔法かかってますからね」
「…悪い魔法使いの?」
「そうです」
何だろ、こういうの、流行ってるの? それとも妹まで巻き込んでんのか笹山め。
「元に戻るには、キスしてもらう必要があるんです」
「知ってる。ファーストキスの告白までされたもの」
「じゃあ間宮さんキスしてくれます?」
「はあ?」
「お兄ちゃんにキスしてほしい、っていわれたでしょ」
「…どこまで知ってるの」
「お兄ちゃんの魔法は知ってますよ。家族だもん」
「じゃあお兄さんがカエルなのはホントなの」
「本当ですよ」
うそつけ。
「お兄ちゃん拾ったとき、びしょ濡れだったし、やたら水に飛び込みたがったし。それに孵化してからカエルになるまでの記憶が生々しいし」
ゲンゴロウとの生存競争なんでホラーですよ、と言う笹山妹。
…まじ?
「ってか、笹山拾ったの?」
「ええ、ひょうたん池で」
ぽかんとする私の前で、笹山妹の携帯が鳴った。着信に出た彼女は今行くから、と私を伺う。
ごめんごめん、大丈夫、と手をひらひら振って待ち合わせらしい笹山妹を送り出す。笹山妹は携帯で話しながらぺこんと頭を下げ、行ってしまった。
笹山、ひょうたん池で拾われたんだって?
笹山のカエル告白より笹山妹のひょうたん池告白のほうが衝撃的で私はしばらく呆然としていた。